第4話 深淵からの招待
翌朝
「おい!アリスまた何で文無しになってんだよ!報酬が半分になったからと言ってもそれなりの額だったんだぞ!」
「はっはっは!昨日はシドも奢ってたもんね~俺だけのせいじゃないもんね~」
確かに俺も周りの連中に少しは奢った。だからと言ってもこいつのこの態度はなんだ!、、、くそ!かわいいじゃねーか。
「ま、まあいい。とりあえず金を稼ぐしかないから行くぞ!」
「ん?今日は案外あっさりと引くじゃねーか!」
ボクシングスタイルでステップを踏んでいたアリスは拍子抜けしたようだ。
「その代わり今日受ける依頼は俺が決める。お前は絶対に口を出すな」
「、、、わかったよ。俺の最強の右が火を噴かなくて命拾いしたな、シド!シュッシュ!シュッシュ!」
アリスは未だにシャドーボクシングを続けているが、正直こいつのパンチはへなちょこだ。勝気な性格からは想像できないかもしれないがこいつの腕力や運動神経はその辺の子供にも負ける。
アリスは魔法に関しては天才的だが、正直運動には向いてない。それもそうだろう。1日のほとんどの時間をゴロゴロして過ごしてきた女だ。俺が傍でずっと見てきた。
「いいから行くぞ。おいしそうなクエストが他の奴らに取られる前に行かないとな」
「はぁはぁはぁ。シドちょっと待って」
「なんでほんの数秒のシャドーでそこまで息切らしてんだよ。もう絶対軽い気持ちでシャドーすんなよ」
「俺を舐めんじゃねぇ!」
―メガヒール―
「おいおいマジかよ」
「どうだ!完全復活だぜ!」
「数秒間のシャド―にメガヒールってマジかよ。ダメージとか受けてねーだろ!」
「ダメージ受けたんだよ!筋肉痛だ!バカヤロウ!」
「早えーな、お前の筋肉痛。若干食い気味で来ちゃってんじゃねーかよ。とにかく軽はずみなシャドーはもうやめろよ!」
「まあわかったよ!ったくお前は俺を心配し過ぎなんだよ!」
そう言ってアリスは頬を赤らめてそっぽを向く。マジか、こいつ。このタイミングでデレることに何の意味があるんだ。、、、バカ!もうバカ!、、、可愛いけどこれはスルーしよう。
「いいから冒険者ギルドに行くぞ」
俺たちは冒険者ギルドの前に辿り着いた。ここまでなら前回と同じだ。だが同じ過ちは繰り返さない。
「ストップだ、アリス。お前はここで待ってろ。俺だけ中に入って依頼を決めてくる。それまでお前は外でステイだ!」
「何だって!?俺も行くに決まってんだろ!」
「、、、モンブラン」
「へ?」
「ここで俺が出てくるまで待ってられたらモンブランを買ってやる」
「、、、ちっ!しょーがねーな。待っててやるぜ!その代わりサッサと戻って来いよ!」
「わかったよ。だからちょっと待ってろ」
俺は一人で冒険者ギルドの中に入る。これでゆっくり依頼を選べる。楽で金がいい仕事が一番いい。だからまあコストパフォーマンスを重視していこう。
だがそんな都合のいい依頼は見当たらなかった。
諦めかけた時、受付の横に貼られているデカくて派手な依頼書が目に入って来た。
『Sランクダンジョン『深淵からの招待』にちょっとでも潜るだけで10万ゴールド。もしダンジョン内から小石一つでも持ち帰れば最低1000万ゴールドから買い取り』
いや、これ絶対ヤバいやつだな。前回の依頼もそうだったけど、このギルド胡散臭すぎる。
冒険者なんてやめようかな。そんなことを思っていたら、俺の目の前を見慣れた美しい少女が駆けて行った。
その少女はさっきまで俺が見ていたヤバすぎる依頼書を笑顔で剥がしとって、受付に出す。バカだなぁ。こんなあからさまにヤバい依頼を受けるなんて。本当にバカだなぁ。うん、ていうかアリスだなぁ。
「おい、ちょっと待て!お前何やって―
「シド!激熱依頼ゲットしたぞー!」
アリスがやってやったぜって顔で俺に駆け寄ってくる。マジやってくれたな。
「一応聞くけどこれってキャンセルは?」
「キャンセルは不可らしいぜ!」
「またこのパターンかよ。てか俺言ったよな。外で待ってろって」
「俺も言ったよな。サッサと戻って来いって!」
「そ、そうだったね」
「うん、そうだ!」
何だろこれ。怒ったつもりがそれ以上の勢いでキレられて押し負けてしまった。
何だろこれ。なんかそのままの勢いでダンジョンに向かっちゃってるんですけど。
何だろこれ。何度言ってもノリノリのアリスを止めることはできなく、気付いたらダンジョンの入り口まで来てるんだけど。
はぁ、もうしょうがない。とりあえずヤバそうだからちょこっと入って帰ろう。
ちなみに何かよくわからない違和感をずっと感じていたが、よくわからないから放っておいた。
・・・
そして今俺はそんなさっきまでの俺をぶん殴りたい。
「え、マジなの?」
「ああ、ここからは出られねぇみたいだぜ!」
このダンジョンは一度入ると結界のようなものに拒まれて出られない特殊なダンジョンだった。ということはこのダンジョンから出るためにはボスを倒さないといけないってことなのか。依頼書にそんなことは書いてなかったはずなのに。
「ワープとかは?」
「俺の空間系の無属性魔法が一切使えない。ここは完全に隔離された特殊な空間らしい」
「マジかよ。そしてマジかよ!」
「マジだな!」
目の前を見ると漆黒の大蛇が大口を開けて待っていた。
「あーあ、盛りだくさんだな。胸焼けするわ。アリス!俺が火だるまになって攻撃するからヒールをかけ続けてくれ!」
「わかったぜ!」
大蛇を焼いてもまた次から次へと出てくる。とりあえず俺は燃え、アリスが回復魔法をかけ続ける。そうやってひたすら前へ前へと突き進んだ。とりあえずどこか一息つける場所を探して。
「おい!シド!この奥に不自然な空間がありそうだぜ!探知に引っかかった!」
「わかった!とりあえずそこで一旦落ち着くぞ!」
俺たちは隠し扉の奥にあった何もないスペースで休憩をとる。
「シド、せっかく休めたけど俺のアイテムボックスも使えねぇ」
「そうか。それも空間系魔法だもんな。じゃあ急がねーと。とりあえず俺が持ってる酒と干し肉でも食おうぜ」
「ごめんな、シド。俺が突っ走っちまったから」
珍しくアリスがしおらしいが俺は別にこういう顔が見たいわけじゃない。むしろ見たくない。
「謝んな。お前は謝るな。それは俺の役割だ。キャラがぶれるからやめろ」
「、、、でも―
「おい、俺を信じられねぇのか?」
「違う!俺はシドを疑ったことなんてねぇよ!」
「なら食え。ほら」
「ありがとよ。もぐもぐ」
アリスの言葉を聞いて俺はギアを入れ替える。ここで俺が死んだらアリスは一生後悔するだろう。そしてアリスが死んだら俺は自分だけじゃなく世界中を焼き尽くしても収まらないだろう。
なら絶対に二人で生きて帰る。
「アリス、一口だけ酒をくれ」
「あ、ああ。ほら」
「ごくごくごく、ぷはぁ!」
隙があればビビろうとする俺に内側から火を入れる。
確信しろ。俺はこのダンジョンを焼き尽くすと信じ切れ。
「それ食べたら行くぞ、アリス。これが最後の食料だからモタモタしてられねぇ!」
「シドは干し肉いらないのか?」
「俺はいい。今いい感じだからな」
「そ、そうか」
アリスはまだ本調子まで元気が戻ってはいない様だったが、出発することに決めた。
「アリス、俺の傍を離れるな。で、俺に回復魔法をかけ続けろ。ずっとだ」
「わかった」
「どれぐらいの時間ヒールを連発できる?」
「間隔なく発動し続けるなら、6時間ぐらいが限界だな」
「やっぱお前すげーな。確かダンジョンって最下層のボスを殺せばただの土地に戻るんだよな?」
「そうだぜ!でも何階層まであるのかはわからない!それにダンジョンの1フロアは一つの街ぐらいの広さがあるらしいぜ。とてもじゃないが6時間じゃ最下層まで行けるわけね―よ!」
「探知魔法でこのダンジョンのどこまでを把握できる?」
「1フロアでさえ把握できねぇ」
「周りはどうでもいい。探知範囲をただ下にだけ向けたら何層まで把握できる?」
「下?」
「下に何があるのかなんてどうでもいい。針程度の範囲でいいから何層まであるか調べてくれ」
「わかった!」
―サーチ―
「72、73、74、75。シド!このダンジョんの最下層は75階だ。やっぱり最下層まで行くとしたら相当な時間がかかるぜ」
またアリスはしょぼんとした顔をする。だからその顔をするなって。
「そりゃちんたら攻略してたらな。俺たちは最短距離で最下層まで行く」
「え?」
「俺がひたすら地面をぶち抜いて75階層まで一気に行く!俺の回復は任したぞ!」
「お、おう!」
そこから俺は全力で燃え上がりながら地面をひたすら殴りつけ、階層に穴をあけて下へ下へ降りていく。
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