第3話 懲りない二人

全てを失った俺たちは昼過ぎに宿屋で目を覚ます。そして現状を把握する。




「俺はまだいい。そんなになかったから。でもなんでアリスまで全財産失くしてんだよ!」




「俺も酒を飲んだのは初めてだったんだ。知らなかったんだよ!酒を飲むと店中の客に奢りたくなってしまうことを!俺は悪くない!」




「それは酒だけのせいじゃない!絶対!」




「終わったことをウジウジ言うな!そんなんだから家から捨てられるんだ!」




「お前さ、事情を一番わかってるくせによくそんなさらっと言えるな!」




「いつまでも過ぎたことにこだわるな!」




「いや、それブーメランだからね!時間差でお前の心も抉るから!」




「うるさい!いいから金を稼ぎに行くぞ!じゃないと今日の宿代も払えない!」




きれいに無一文になった俺たちは冒険者ギルドへと向かう。




「何か1年位遊んで暮らせるようなおいしい依頼はねーのかよ」




「そう言う考えが一番危ないからね!気を付けろよ、お前」




「はいはい。ってちょっと待て、シド!この依頼めちゃめちゃ報酬高いぜ!」




アリスが額縁に入れられた古ぼけた依頼書を指さす。




「額縁に入っちゃってる時点で無理ゲーだろ」




『古龍討伐依頼 ボルケーノ火山に住む炎龍王を討伐し、定期的に起こる噴火を止める』




「いやいやいや、無理だろ。龍だけじゃなくて王までついてんぞ!」




「お前燃え慣れてるんだから大丈夫じゃね?」




「いや、俺のポップな燃え方と違って、これ燃える前に溶けるやつだろ」




「じゃあこっちはどうだ?」




『翼竜ワイバーン討伐。西の丘『シープズヒル』に住み着いたワイバーンの群れを殲滅し、牧羊たちを解放する』




「お前竜好きだな。群れって何匹居るんだよ」




「ん?すんごい小さい文字で200匹~って書いてあるぜ」




「俺にはどれだけ近づいても読めないんだけど」




「シドは目までわりーのかよ」




「目までとはなんだ!目までとは!てかこんなの詐欺に決まってるじゃねーか!というか俺たちDランクまでの依頼しか受けられないんだからこんなのそもそも受注できないだろう」




「いやランクはオープンになってるぜ?」




「余計に詐欺くせ―よ!とりあえず俺はあっちの方の掲示板みてくるわ」




あとになって後悔することになる。俺はアリスを一人にするべきじゃなかった。




「まあ問題なくこなせるのはこの辺かな?」




『ゴブリン討伐 10体 推奨ランクE』




「おい、シド」




「おお、アリス。なんかいいのあったのか?」




「さっさと行くぞ」




「ん?どこに?」




「ん?ワイバーン倒しに」




「お前もしかして、、、」




「受注してきた」




「、、、え、一応聞こう。なんで?」




「コツコツ働くなんて怠くてやってられない。一発稼いでしばらく遊んで暮らす。これが一番だろ」




「お前それ一番ヤバい考え方だからな。さっさとキャンセルしてこい」




「違約金は10000ゴールドらしいぜ」




「、、、じゃあ行った振りこいて失敗したって報告しよう」




「失敗した場合も10000ゴールドらしいぜ」




「マジで詐欺じゃねーか!」




「いいからさっさと行くぞ。とりあえずこの前のモーガン湖まで飛ぶぞ。ここよりはシープズヒルに近い。というわけで転移だ」




「ちょっとま―




―転移 モーガン湖―








はぁ、いい景色だなぁ。マジかぁ。これから俺ワイバーン倒しに行くの?逃げようかな。他の街に。




「ちなみにアリス。この依頼ってやってるふりしてとんずらこくの可能?」




「うーん、1週間以内に依頼達成できないと王国中の冒険者ギルドに通達がいって罰金10000ゴールドらしい」




「うーん、詰んでんじゃん」




「何をそんな暗くなってんだよ。ワイバーンなんて楽勝だろ」




「わかってる?お前。お前は万能のすごいやつだけど攻撃に関してはザル。俺は若干弱火で燃えるだけの男。無理に決まってんだろ」




「俺はお前にならできると思うぜ」




真っすぐな目でアリスはそう言い切った。こいつはいつもこうだ。




「はぁ、ここからワイバーンの棲家があるシープズヒルまでどれぐらいかかる?」




アリスのこの目だけは裏切れない。これを裏切れば俺は俺でなくなる。




「2日ってとこだな!」




アリスは嬉しそうに答えた。




「じゃあ5日間は火だるまになり続ける。だからお前はヒールをかけ続けてくれ!寝る暇もねーぞ!」




「おもしれー!やってやるぜ!」




そこからの5日間、俺は火だるまになり続けた。丸焦げ、回復、丸焦げ、回復。ただひたすらにこれを繰り返すだけ。寝る間を惜しんで続けた5日目の朝やっと望むものが手に入った。




シド




魔力総量 ∞


有効魔法範囲 0


属性 火




スキル


火耐性 中






そしてアリスの短距離移動魔法ワープを連続で使いながら俺は体力を消耗すことなく西の丘『シープズヒル』に辿り着いた。




「おいおい、アリス。俺は小さくて読めなかったけど200体前後じゃなかったっけ?」




「まあ結構依頼書古くなってたから時間が経って繁殖したんじゃねーか?」




なんでこいつはいつもこう暢気なんだ?




「で、どうするよ。400体ぐらいいるけど。これなら依頼内容と違うからキャンセルしても違約金を発生しないんじゃないか?」




「いや、200~ってなってたからダメなんじゃね?」




「やっぱ詐欺じゃん、あれ」




「今回も楽しようと思ってたけど、俺も手伝ってやるよ」




「前はやっぱり楽してたのかよ!」




「いいか俺がお前をワープでワイバーンたちの前へ次々転移させてやるから、お前はひたすら燃えて目の前のワイバーンを殴り続けろ!ヒールもガンガンかけてやるから」




「はぁ、やっぱそうなるか。よしわかった。頼んだぜ!アリス!」




アリスがそう言うなら俺がやることは一つだけ。




「うおおおお!あちぃいいいい!」




そう火だるまです。




「シド行けー!」




―多重展開ワープホール―




そこからはジェットコースターのようだった。自分がどこにいるのかわからない。ひたすら目の前にワイバーンが現れてそれを俺は殴り続けるだけ。正直何が起こってるかわからない。ただ燃えてるだけ。で、ときたま火傷が回復されてまた火傷し続ける。




小一時間後




辺りにはワイバーンの焼死体の山。そしてこんがり焼けた俺。




―ヒール―




「よくやったな。シド」




「お前はめちゃめちゃしてくれたな」




「あ、あとこれ着ろよ。お前の服全部燃えて今全裸だぞ!このまま街に戻ったら捕まるぞ」




そう言ってアリスはアイテムボックスから俺の服を取り出す。というかこいつはなぜ俺の全裸を見てこんなに普通の反応なんだ。よっしゃ!いっちょ聞いてみたろ。




「お前さ、なんで男の裸みてそんなに落ち着いてんの?」




「シドの裸なんて見慣れてるし、、、大したこともなねーしな」




「おい、今どこ見て大したことねーと言った?」




「落ち込むなよ」




「落ち込んでねーよ!」




なにも落ち込んでいない俺は服を着てアリスに掴まる。




「よしじゃあ行くか!」




―ゲート―




アリスのおかげで俺たちは一瞬でアドーブに帰ってこれた。俺たちは無事依頼完了受付時間内にも間に合いワイバーン討伐が認められた。だが、、、




「おい!なんで報酬が半額なんだよ!」




「えっとワイバーンの討伐は確認しましたが、牧羊の解放がされていませんでしたので」




「いや牧羊なんて一匹もいなかったぞ!てかあんな大勢のワイバーンが住んでいる場所で牧羊なんて生き残ってるわけねーだろ!」




「間に合わなかったということですね」




受付嬢は腹が立つほど淡々と言い返してくる。




「そもそも俺たちが受領した時点で相当古かったろ、あの依頼!ほれ、アリスも言ってやれ!」




・・・




あ、飽きてどっか行ったな。




「そもそもワイバーンの数は400体以上いたんだぞ!依頼書には200!ワイバーン討伐が倍なら、牧羊たちの解放がなくても当初の報酬でいいはずだ!」




ふふ、これにはさすがに反論できないだろう。




「200~となっていたはずです。200以下なら話と違うと言われても構いませんが、200以上であったなら依頼通りです」




あ、そうだった。そんなのもあったな。はぁ、もうめんどくせーからいいや。




「、、、ぺちゃパイ」




「なにをおおお!!!」




「うお!こわ!」




悔しくて去り際にボソッと呟いただけなのに、さっきまで顔色一つ変えず事務的な対応をしていた受付嬢が急に激昂した。




「ぐるるる!!!」




おいおい結構離れたのにまだ俺を威嚇してるぜ、あの受付嬢。なんだ?ギルド職員ってのはみんな心に病を抱えているのか?




「おい!シド!ここだ、ここ!」




アリスが食堂の席に座って手を振っていた。




「おい、お前がいきなりどっか行ったから俺が孤軍奮闘してたんだぞ!おかげで結局報酬半分だっただろーが!」




「とりあえず金は貰えたんだろ?ならいいじゃねーかよ!とりあえず飯食おうぜ!腹減っちまったぜ!」




「はぁ、まあいいか」




何かアリスの笑顔を見ると報酬なんて別にどうでもよくなった。




「よっしゃ!アリス今日は食って食って食いまくるぞ!」




「おっしゃあ!その言葉まってたぜ!」




そして俺たちは、、、ふりだしに戻る。

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