第2話 冒険の幕開け?
翌日、俺は荷物を抱えて屋敷を後にする。父も兄弟たちも見送りには来なかった。ここからは一人で生きていくしかない。俺は領地から離れて冒険者の街『アドーブ』へと向かうつもりだった。長年育った領地に別れを告げ、外門を出ようとした時、目の前に立っている少女を見つける。アリスだ。
「よう」
「よう、アリス。長い間世話になったな。お前だけでも見送りに来てくれて嬉しいよ」
「はぁ!?俺は別に見送りに来たわけじゃねーよ」
「じゃあ何しに―
「俺も行く」
「はぁ!?」
「お前の従者じゃなくなったらまためんどくせー仕事させられんだろ?だったらやめてやろーと思ってな。で、勝手にやめるとなるとこの領地にはいられなくなるから俺も一緒に付いて行ってやるよ」
「マジかよ、お前。ツンデレかよ」
「素直にうれしいっていえよ。ただのシド」
「ありがとよ、ただのアリス」
こうして俺の15歳の誕生日はアリスと2人での旅立ちの日になった。
「で、どうすんだ?やっぱり冒険者か?」
「それしかないだろう。家名も失くしたんだ。クソ親父が建前でくれた金じゃアドーブまでの旅費にもならない。ただ執事長のじいさんに協力してもらって金庫からパクってきた金があるからなんとかなるだろ。アリスは?」
「俺は溜め込んでたから1年位は余裕で暮らせる。あ、貸さねーぞ」
「ちっ!わかってるよ。とりあえず俺は冒険者になる!しかない!」
「じゃあ俺も付き合ってやるよ。最悪俺の魔法ならどこの貴族からも引き手数多だからな」
「お前そういうとこだぞ!そういうとこ!」
とりあえず俺たちは始発の馬車に乗ってアドーブへと向かう。もちろん1日で着くわけはなく、日が沈んだころには乗客は各々野営をすることになる。
「頼むよ。アリえもーん!」
「収納魔法~」
アリスは異空間からテント、薪、食材などを取り出す。この魔法も俺の実家がアリスをクビにしなかった理由の一つだ。
―無属性魔法 異次元収納アイテムボックス―
これは命がないものなら、時の止まった異次元の中で収納しておけるといったものだ。取り出しも簡単。消費魔力も少ないコスパの高い魔法だ。この魔法があれば商業においてとんでもない利益を生む。もちろんこの魔法の有用性はそれだけに留まらない。本人の言う通り、この魔法だけでも貴族からも引く手数多だろう。だがこれも数あるアリスの無属性魔法のひとつでしかない。
「お前ホント便利な」
「お前よりはな!」
「うざっ!」
でも俺に着いて来てくれたのが嬉しかった。それはもう涙が出るぐらい。まあ泣かないし言わないけど。本当は一人で領地を出るときは心細かったから。
「シド、何ボーっとしてるんだ?」
「な、何でもねーよ!」
俺たちは3日間の旅路を終え、遂に冒険者の街アドーブへとたどり着いた。
街に入るために門の前にあるステータスプレートに触り身分を証明した。家を出てから初めて見たステータスだったが、俺の名前からバーンズという表記は消えていた。
とりあえず俺たちは冒険者ギルドに行って冒険者登録をすることにした。
「それではシドさんは新人冒険者として登録されました。ランクはFからのスタートとなります」
ここから俺たちの冒険は始まるのだ。
「アリスさんは10以上の無属性魔法を使うことができるのでCランクからスタートです」
俺たちはここから上っていくんだ。ってあれ?
「え?お前Cランクからなの?」
「みたいだな。俺は無属性魔法いっぱい使えるから」
「お前マジで何なの!?俺の新しい一歩にすごい水を差された気分なんだけど!」
「そもそも俺とスタートが一緒だと思ってたとか烏滸がましいんだけど」
「お前すっげーむかつく!」
こうして冒険者登録を済ませた俺たちは今日はとりあえず近くの宿に泊まることにした。そして翌朝、ギルドへ行ってちょうどいい依頼を探す。ちなみに俺はFランクだがアリスがCランクだから、パーティーとしてはDランクまでの依頼が受けられるらしい。その中でも割と安全そうなクエストを受けることにした。
モーガン湖に住み着きだしたリザードマンを討伐せよというクエストだ。
「というわけでモーガン湖まで来たけど、湖の近くまで行くとリザードマンが上がってくるらしいぜ」
「らしいな。俺は直接攻撃系の魔法は使えないからお前がやれよ」
「いやCランクだろ、お前!てかやれって言われても俺基本的にそこそこ燃えられるだけだぜ?」
「リザードマンごときそれで充分だろ。燃えながらぶん殴れ。基本的な武術は昔から練習してたろ。ヤバそうになったら俺が回復魔法をかけてやるからさ。お前はガンガン燃えてぶん殴りまくればいい」
「雑な作戦だな。まあわかったよ。やるだけやってみっか」
1時間後、俺はアリスの前に寝そべっていた。
「誰がボコボコにされて来いって言ったよ」
「火力足りなくて一撃じゃ倒せないし、数多いからもたもたしてるうちにあっという間に囲まれるんだよ」
「何を置きに行った戦い方してんだよ。火だるまになってこいって言ってんの。耐性を超える炎で自分の身体を焼いて来いよ。俺が後ろから回復してやるから」
「お前本当毎回軽いノリで火だるまになって来いって言うけどアレ本当に熱いんだからな!」
「慣れたもんだろ?さっさと燃えて燃やしてこい!」
「はぁ、わかったよ」
俺は火耐性弱では耐えきれない炎で自分を焼く。
「うがぁぁぁ!あちぃ!」
「いいからそのままワンツー!ワンツー!はい、ヒール」
激しく燃え上がりながら俺はリザードマンたちを殴っていく。さっきまでとは違い一発でリザードマンが黒焦げになっていく。だが俺も熱い。俺も焦げてきてる。
「ぐぁぁぁ!くそがぁぁぁ!」
アリスのヒールで何とか意識を保ちながら俺はリザードマンをひたすら殴る。火だるまになりながら。火だるまにしながら。
そして遂に日が沈みだしたころ俺より先にリザードマンたちが燃え尽きた。
「ヒール」
「はぁはぁはぁ。何とか依頼達成か?」
「じゃあ魔石を回収して終わりだな」
魔石とは魔物の核となる魔力の塊。みんなこれが欲しくて魔物を狩る。魔石は魔力を蓄積することができるアイテムで、魔道具のエンジンとして使われる。これがなければ魔道具は作れないし、魔道具がなければ人々は生活できない。だからこの世界ではもっとも重要な資源とされている。強い魔物ほど魔石が内包する魔力は大きく高価となる。
「魔石は俺が集めてきてやるからお前は少し休んでな」
俺はそのまま眠ってしまったらしく次に気が付いた時は宿屋のベッドの上だった。
「やっと起きやがったか!心配、、、はしてねーけど、、、そうだ!ここまで運んでくるの大変だったんだぞ!感謝しろよ」
「マジか、わりい。ありがと」
3日かかった距離を一瞬で帰ってこれてるのもアリスの無属性魔法のひとつ『ゲート』のおかげだ。この魔法は一度行ったことのある場所と現在地を繋げるといったものだ。これもえげつない魔法で誰もが喉から手が出るほど欲しがる魔法だ。
「報酬も貰ってきたぜ。ほら!」
「お!結構あるじゃねーか!」
「なんか中には変異種も多かったらしくて結構高値で買い取ってもらえたぜ!」
「マジかよ!じゃあせっかくだし美味いもんでも食いに行こう!」
「おっしゃー!」
こうして俺たちは夜の街に出かけた。初めて見る料理、初めて飲む酒、全てが新しくて嬉しくて。そして俺たちは全財産を失った。
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