魔法の才能がなく火だるまになることしかできないけれど、そんな俺を慕ってくれる天才幼馴染と生きていきます

目目ミミ 手手

第1話 魔力量以外カスだった男

俺は王国貴族の三男として生まれた。この世界で生まれて最初に行われるのは魔法能力の測定だ。この世界では魔法が全てと言っても過言ではないからだ。




剣が得意であろうと、頭脳明晰であろうと、まずは魔法を使えないと話にならないと考えられている。




魔法能力の測定は、『魔力総量』『魔法属性』『有効魔法範囲』だ。




まず俺の『魔力総量』だが計測器の針が降りきれて爆発した聞いている。つまり測定不能の化物クラスということだ。これは今までの王国の歴史上初めてのことだったため父親は雄たけびを上げながらガッツポーズをしたらしい。




次は『魔力属性』。ここから雲行きがだんだん怪しくなってくる。魔法の属性は火、水、風、土、光、闇の6種類に分かれる。これのどれにも当てはまらない魔法は無属性となる。平民より魔法適性が高い貴族では全属性を持っている者なんてざらにいる。まあ最低でも3属性は使えないと使い物にならないとされる。


そして俺はというと火のみだった。




父親は今度は崩れ落ちた。




『いや大丈夫大丈夫。魔力総量は規格外なんだから火だけでも大丈夫大丈夫。山をも焼き尽くす伝説の火炎魔法士になるかもしれない。だから大丈夫。落ちつけ落ち着け。ビークール』




父親は必死に自分にそう言い聞かせ何とか立ち上がったという。




そしてラストを飾るのが『有効魔法範囲』。俺の数値は、、、、0!なし!ハイ、父親失神。




これが俺、シド・バーンズの出生だ。執事長のじいさんに聞いた。この話はウケるから気に入ってる。




俺は物心がついた頃から父レイバンからは冷遇されてきた。やっぱ落差が激しすぎたためにがっかりが半端なかったんだろう。




兄二人は割と優秀だった。長男アダムは最大魔力量、有効魔力範囲はそこそこだったが全属性もちで、次男ケリーは魔力最大量と有効範囲は平均以下だが全属性だけでなく有用な無属性魔法もいくつか使えたのだ。




だから幼いころから出来損ないといじめられてきた。俺に優しくしてくれる唯一の家族は母親であるマリアだけだった。




彼女はいつも俺に言ってくれた。




『きっとあなたは太陽になります。貴方を生んだ時にそう思ったのです』




いや流石に太陽は無理でしょう、お母さま。とは思ったが俺を信じてくれる母に何とか報いたかった。




この世界で認められるにはやはり魔法しかない。だが俺の魔法は属性は火だけ、有効範囲は0。つまり魔法を使うとこうなる。




「うぎゃあああ!あちぃいいいい!」




火だるまだ。




「おいおい、大丈夫かよ。お前」




―ヒール―




「ああ、助かった」




今俺を治癒してくれたのが俺唯一の従者アリスだ。魔法能力が優秀だから雇われているがやる気が全くないために俺の従者という最底辺に左遷されてきたというわけだ。だがアリスに悲観した様子はなく、サボれてサイコーと言っていた。まあこんなでもクビにならないのは彼女の無属性魔法がいざというときに役に立つからだ。俺とアリスは歳が同じということもあり従者と主人というよりは友達のような関係だった。




「それで今日どんな理由でクソ親父とクソ兄貴に殴られたんだ?」




火だるまになる前から傷だらけだった俺にアリスが聞いてくる。




「スープを最初に飲んだから殴られた。軟弱者って」




「昨日はパンを最初に食って殴られたんじゃなかったっけ?軟弱者って」




「ああ、一昨日はサラダから食って殴られた。軟弱者ってな。明日は肉から食ってみるさ」




「クソ兄貴どもからは?」




「歩き方が生意気だと殴られた」




「昨日はズボンの履き方が生意気だ。だったか?」




「明日は息の仕方も生意気と言われそうだな」




「ははは!そりゃウケるぜ!」




アリスはいつもこうやって笑い飛ばしてくれる。深紅の髪に深紅の目の美少女だが目には全くやる気がない。何もしたくないと日々呟いている。だがそれでもこの10年間毎日俺にヒールをかけ続けてくれたいいやつだ。






特にやることもない俺はお母さまに会いに行くか、こうして外で火だるまになるかの幼少期を過ごした。




そして15歳の誕生日を迎えるころ、俺を生んでからずっと床に伏していた母は病で亡くなった。




父も兄弟たちもちょうど屋敷にいなかったから母様を看取ったのは俺だけだった。




母は最期に『これからもずっと愛してる』と言ってくれた。涙が止まらなかった。思ってたよりもずっと愛されていたし、思ってたよりもずっと愛していたらしい。




「父様、母の葬儀はどうするのですか?」




「あ?そんな雑用はお前がやれ!それぐらいなら無能なお前でもできるだろう」




「、、、雑用ですか」




「ん?何か言ったか?」




「いえ」




父という名のクソ野郎は食い気味に後妻を迎えた。




兄という名のクズ二人は母への供え物を買わずに、後妻に取り入るための貢物を買っていた。




ああ、こいつらはカスだ。こいつらが母を家族と思わないのであれば俺ももうこいつらを家族とは思わない。




俺にはもう家族はいない。そう思った。すべて焼き尽くしてやりたいとも。だが隠れて泣いていたアリスを見て、怒りの炎は若干収まった。家族はまだいた。




アリスも母と仲良くしていた。性格は正反対のようだがなぜか馬が合っていた。ウチの連中とは口を聞こうともしないアリスが唯一母とは楽しそうに話をした。




「アリス、ありがとうな。母様のために泣いてくれて」




「な、泣いてねーよ!泣いてねーよぉぉぉ!うわぁぁぁ!」




「ありがとう。ありがとうな」




俺の胸の中で泣くアリスの涙は俺の炎よりも熱く感じた。なのに熱くなかった。バカなことを言っているのは分かってる。でもそう感じたんだ。




母の葬儀を終えると、俺の15歳の誕生日が翌月に迫っていた。父は俺に15歳になったら家名を捨てて一人で生きていくよう言っていた。唯一反対していた母が死んだのだ。まず間違いなくそうなるだろう。




「あちぃ!」




「はい、ヒール」




「悪いな、アリス」




「てかお前来月には勘当されるんだろ?暢気に火だるまになってていいのか?」




「暢気にはなってねーよ。お前が思ってる5倍は熱いからね。火だるまって」




「知りたくもねーよ。てかずーっとお前にヒールをかけ続けてきたからこの前また治癒魔法のレベルが上がってハイヒールの上のメガヒールが使えるようになったぜ」




「なんでお前がどんどん成長してってんだよ!もうやめろよ!へこむんだよ!」




「そんなの知ったことかよ!」




そんな感じで今日も今日とて俺は日が暮れるまで火だるまになり続けた。




そして今日の最後に景気よく火だるまになる俺。だがその最後の一回はこの10年間味わってきたものとは違った。




「あれ?熱くない」




「どうした?」




競馬新聞を読みながら、俺の叫び声を合図にただひたすらヒールを唱えていたアリスだが叫び声が聞こえなくなって様子を見に来た。




「それがあんまり熱くないんだよ」




「服は燃えてるが確かに火傷はしてないな、、、ん?おい、お前!ステータスボードに触れてみろ!」




ステータスボードというのは魔法陣が掘られた石板で触れたもののステータスを表示してくれる。高価なもので主に公共施設にしかないがウチは貴族なんで家の中にあった。使うための条件は簡単、名前があること。それだけだ。




アリスに連れられてステータスボードのある部屋へと向かう。簡単に入れる場所ではないが一応俺もバーンズ家の子息、これぐらいは許可なく入れる。




「いいから触ってみろ!」




「なんだよいきなり」




珍しく真剣な目をしたアリスをみてとりあえず触ってみることにする。






シド・バーンズ




魔力総量 ∞


有効魔法範囲 0


属性 火




「ほら、変わらねーじゃねーかよ。そもそも1変わるだけでも相当珍しいことだろ」




「魔法関係が変化することは滅多にねーよ。そこじゃねぇ!下を見てみろ!」




シド・バーンズ




魔力総量 ∞


有効魔法範囲 0


属性 火




スキル


火耐性 弱




「スキルが増えてる」




「毎日毎日火だるまになり続けた甲斐があったな。火耐性を獲得したみたいだぞ」




スキルとは属性魔法ではない力だ。先天的にだけでなく後天的にも身に付く。だが魔法の補助か生活のための力という認識で重要視はされていない。


だがスキルの欄に、~魔法という表記があった場合は別だ。これが正に無属性魔法。効果によっては平民からでも貴族に召し抱えられることもある。まさにアリスがそれだ。




「火耐性か。てかそれってどうなの?」




「とりあえずいつもみたいに火だるまになってみろよ」




「うおりゃ!」




俺はいつもの様に火だるまになる。慣れたものだ。だが熱くない。




「アリス!なんか燃えてるけど熱くねーわ!」




「お前いっつもそれぐらいの燃え上がり具合で俺がヒールかけてるけど、熱くないならもっと火力上げてみろよ。魔力は腐るほどあるんだろ?」




「確かに」




俺はアリスに言われた通り更に火力を上げていく。俺めちゃめちゃ燃えてる。調子に乗ってどんどん火力を上げていったところで、




「ぎゃあー!あちぃぃ!」




やっぱり俺の身体は燃えた。




「ヒール」




「はぁはぁはぁ。たすかったぁ」




「まあ火耐性弱じゃこの辺が限界か」




「でもこれは大きな一歩だぞ!アリス!」




「だが今の段階じゃ燃えてるのになぜか大丈夫そうな奴って感じだな」




「まあ確かに。燃えてるだけで何かできることってあるんだろうか」




「今のままなら大してないだろうな。だが火耐性中ぐらいまで行けばそこそこ戦えるかもしれない」




「じゃあ家を追い出される前に火耐性中ぐらいまでをマスターできれば!」




「いやお前の誕生日明日だろ」




「、、、そうだった」




こうして俺の貴族としての15年間は火耐性弱を身に着けるという成果のみを残して終わった。


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