第24話 LET IT BE

そして、いよいよ勇二の試合時間。


先に桑田がコールされ入場。激しいロック調の曲が流れる。


「続きまして~赤コーナーより中井選手の入場です!」


静まり返る場内。真っ暗な会場。


先程の激しいロック調の曲と打って変わり、ピアノの静かな調べ。


一筋の光りが勇二を照らす。


果たしてこれは希望の光か、それとも・・・


「勇二、いくぞーーー!」


山本会長の掛け声。


清のガウン。


胸の御守り。


一緒にリングに上がろうぜ、清。


勇二は胸の御守りに右のグローブを軽くトントンと叩き語りかけた。


勇二の入場曲。


“LET IT BE”


あるがまま。


なんだよ、答えがわかってたんじゃないか・・・


俺の7年間悩んでいた答え。わかってたんじゃねーかよ。


勇二はこの歌が好きで、自分の入場曲にしていた。激しいファイトの対極にあるが如く静かな曲。大波が起きる前に潮が引くような感覚。


“死”を意識するからこそ輝く“生”。


この相反する感覚。表裏一体とでも言うのだろうか?


「勇二さーーーん!行けーー!」


ピアノの静かな調べの中、一際大きな歓声。


あのボーリング場で出会ったキックボクサーの集団。


右のグローブを少し振って答えた。


ポール・マッカートニーの朴訥とした語りかけるような歌声が場内に響く。






ずっと悩んで苦しみ抜いたときに

僕のもとに聖母マリアがやってきたんだ

そしてこんな言葉を呟いた ありのままに







「勇二さーーーん!」


その斜め下には和也。


ありがとな・・・ん?


和也と肩を組んで歓声を上げている少年。


あ!あのナイフを持って勇二に向かってきた少年!


勇二が少し驚いた顔をしていると、和也と少年は顔を見合わせ笑い合った。


そうか・・昨日の敵は今日の友。良かったな、和也・・強く生きるんだぞ。






すべてが暗闇に包まれたとき

彼女は僕のすぐそばに立っていた

そしてこう呟いたんだ それでいいんだよ、と





そして、リングサイドに座っている君子。


手を祈るように組み、勇二を見ていた。


右手のグローブを軽く振って頷く勇二。


君子も頷く。


俺みたいな男についてきてくれて、ありがとな。


なんだよ、生きてるって、人生って楽しいじゃねーか、バカヤロウ・・


あの日から7年。


俺はなんて勿体ない時間を・・いや、その7年があったから、今、俺は生きている。


いろんな人との出会い。決して無駄じゃなかったんだよ。






それでもいいんだ

思いのまま生きればいい

そんな素敵な言葉が聞こえたんだ それでいいんだよって

心が打ちのめされてしまっても

自分の認められる世界の中にいるかぎり

答えは見つかる だからそのまま突き進め

離ればなれになってしまっても

再び出会うチャンスはまだ残されている

答えはきっと見つかるよ そのまま突き進め



それでもいいんだ

思うまま生きればいい

そう 答えは見つかるから 迷うことなんてないんだ

それでもいい

思うまま生きればいいんだよ



そんな素敵な言葉を聞いたんだ 迷わず突き進め、って

それでもいい

思うようにいけばいいんだ

彼女はそう呟いた 迷うことはないよ、って

夜の空がどんよりと曇ってしまっても

僕らを照らす明かりはまだあって

明日が来るまで照らし出してくれるから 大丈夫



翌朝流れる音楽に目を覚ますと

聖母マリアがやってきて、こう言うんだ

あなたの思うように生きればいい、と



それでもいい

思うようにいけばいいんだ

答えはきっと見つかるから



ありのまま

思うまま生きればいい

こんな素敵な言葉を聞いたんだ それでいいんだよ、って





勇二はこぼれ落ちる涙を拭いもせず考えていた。


さあ、涙を拭いて、いざ決戦のリングへ・・・

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