第23話 一願守り

「勇二、あれ清のガウンや。清のガウン着てくれるか?1回着てみてくれ。」


山本会長が指差した先には銀のスパンコールの派手なガウンが掛けてあった。


「・・清のガウン?」


勇二はガウンが掛けてあるハンガーを取り、袖を通そうとした。


ん?


見ると、左胸の内側に見覚えのあるものがぶら下がっていた。


「・・・一願守り。あいつ、まだ持ってたのか・・」


勇二は一願守りを手に取り中を見た。


“世界チャンピオンになる!”


あの時、一緒に書いた言葉。


取り出した紙には懐かしい清の字。お世辞にもキレイとは言えないが一生懸命書いていた姿が瞼に浮かぶ。


清・・・


ん?


裏側にも何か書いてあった。めくってみる。


“勇二さんみたいなボクサーになる!”


「・・・・清な、ガウンにお前と誓った御守りを付けて闘ってたんや。いつもお前の事気にかけててな。いつか世界チャンピオンになったらお前に連絡するんだってな・・・・」


・・・バカ、一願だっていってるのに二つも願い事書いてんじゃねーよ。・・清・・・なんで死んじまったんだよ。


勇二は愛おしくなりガウンをギュッと抱きしめた。


一緒にリング上がろうな・・


ガウンに袖を通すと、不思議と清を感じる事ができた。





潔の試合。


相手は生え抜きのプロらしく老獪なテクニックでアマチュア上がりの潔を苦しめる展開。


でも、この2か月間、勇二と数えきれないくらい練習を共にした。プロの老獪なテクニックに対処する方法。全て潔に伝えた。


そして、4ラウンド。


乱打戦に巻き込まれながらも、きっちりKOで勝利した。


控室に戻ってきた潔。その顔は乱打戦でお岩さんのように腫れ上がっていた。


「良かったよ、潔!やったな!」


「勇二さんのお陰っす!でも、見て下さい!ボコボコですわ、顔。」


「いいんだよ、勝てば。プロは勝たなきゃ上にいけないからな。」


そう言って笑い合った。


「・・・次は、勇二さん。頑張って下さい!」


「おう!」


そう言って、目を閉じ精神集中した。



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