第22話 私、何の為に生まれてきたんだろう?
勇二は君子と2人で会場入りした。これからリングの上で繰り広げられる、選ばれた人間たちによる恍惚と不安の闘い。少しずつ観客が集まりつつあった。激しい闘いの前の静けさ。
どのボクサーも様々な人間模様を抱えてリングに上がる。命を懸けて。
勇二は立ち止まった。君子もそれに気付いて立ち止まる。小さく息を吸った勇二。そして意を決して君子に言った。
「・・恥ずかしいけど戻れなかったら後悔するから今言うな。以前、お前が俺に聞いてきた事あったよな?私何の為に生まれてきたんだろう?って。・・・あん時、俺は何にも言えなかったけど、俺に出会う為に生まれてきたんだよって言ったらダメかな?俺は・・・俺は君子と出会う為に、あの時、14歳の時、死なずに生きてきたんだって言える。お前が居てくれたから生きてこれた。ありがとな・・」
君子は真っ直ぐな目で勇二を見ていた。
「・・・・私の方こそ勇二と結婚して、子供まで授かって私幸せよ。・・絶対に、絶対に大丈夫!あなたは強いんだから!私、信じてるから!」
真っ直ぐな視線を向けていた君子の目には、みるみるうちに涙がこぼれんばかりに溢れていた。そんな君子を見て、勇二は自分も泣きそうになってしまった。バレないよう君子に背を向け、何も言わず右の拳を天に突き上げ答えた。
「私、信じてるから!ーーー!」
歩み始めた勇二の背中越しに、君子は涙声で叫んだ。表面張力に耐えきれなくなった涙が勇二の頬を伝う。その涙を乱暴に拭った。
これから命を懸けてリングに上がるという男らしいの対極にある泣くという行為をしている自分に滑稽さを覚えた勇二。
選手控え室には前座の選手たちが既に集まっていた。
「お願いします!会長!」
「おーー勇二!頼むぞ!」
会長は他に出場する選手のバンテージを巻く準備をしていた。潔も緊張の面持ちでリングシューズの紐を結んでいた。
「潔、頑張れよ!」
「勇二さん、見といて下さい!やってやりますよ!」
こちらが身震いするほど殺気に満ちた目をしていた。
「良い目になったな潔。」
「勇二さんのお陰っす!」
勇二は持っていたスポーツバックを置いた。大したもので、7年前に何度も繰り返した事を体が覚えていた。
着替え終わり、軽くストレッチ。
リングまであと僅か・・・
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