第12話 抗う


和也との練習も1ヶ月ほど経とうとしていた。


「いいぞ、和也!今みたいに動ければ、相手はついてこれないからな!」


すっかりピボットターンを身につけていた。勇二が繰り出す大振りなパンチをかいくぐり、ピボットターンで相手の死角に入り鳩尾にパンチを打ち込む。端から見れば一端のボクサーのような動きになっていた和也。


「勇二さんのお陰です!」


和也は弾けるような笑顔で答えた。


その言葉を最後に、和也は姿を見せなくなった・・・







次の日も、そのまた次の日も・・・







練習が嫌になってしまったのだろうか?病気にでもなったのだろうか?


勇二は和也の事が気になっていた。和也の連絡先も知らないし、知っていたとしても、勇二からは電話をかけなかっただろう。


和也の事が気になっていたある日。いつものように朝6時から公園でロードワークの前のストレッチをしていた勇二。


屈伸しながら地面に目を落としていた。見慣れた運動靴が視界に入る。顔を上げた勇二。















和也だった。















「和也、久しぶ・・・ど、どうしたんや、その顔!」


見上げた勇二は、久しぶりに見た和也の顔の異変に気がついた。両目の辺りがパンダのようにどす黒くなっていた。


明らかに殴られた跡。


ばつが悪そうにはにかみながら和也は言った。


「・・・やっぱりばれちゃったか。一応、勇二さんが心配すると思って何日間か腫れだけでも引かそうとずっと氷で冷やしてたんだけどね。・・でも、勇二さんに少しでも早く報告したくて・・俺、やったよ!」


和也は勇二との練習で自分に自信が持てるようになっていた。身体の身のこなし、パンチ。明らかに以前の弱い自分ではなく、あいつらに抗う事ができる自信がついた。


そして、初めて奴らに抗った。


いつもと違う反応をする和也に奴らも最初は戸惑っていた。しかし、すぐに集団で暴行を受けた。でも、和也の話によると、何人かには勇二に教えてもらった拳を叩き込む事ができたようだ。


和也は清々しい顔をしていた。


あの時・・・アイツらに仕返しをする為、ボクシングという手段を手に入れた時、俺も和也と同じ顔をしていたのかな?


「・・・やったな、和也。」


涙もろい勇二は和也に涙がバレないように右手で和也の頭に手をやり乱暴に撫で、左手で涙を拭った。


「痛い、痛い!まだ、治ってないんだってば勇二さん!」


「あ、ゴメン、ゴメン!」


そう言って二人は笑いあった。


でも、本当に良かった・・・


日本全国、和也のように心優しい子供たちがイジメにあっている。今のいじめは相当たちが悪く、死ぬまで追い込まれてしまうケースもある。


そんな子供たちが1人でも多く和也のように自分に自信を持ち、心から笑えるようになって欲しい。


一瞬、そんな仕事をしたいなと勇二は思った。


「それと・・・今日は勇二さんに伝えたい事があるんだ。」


和也は言いにくそうにしていた。


「なんやねん、さらっと言ってくれよ。ためられたら怖いやん!」


勇二は笑いながら言った。


「勇二さん、後2か月後に試合でしょ?本当だったら1分でも1秒でも自分の勘を取り戻す練習をしなければいけないじゃない?なのにボクの為に時間を割いてもらってたのが申し訳ないなってずっと思ってたんだ。だから・・・ボクはもう大丈夫だから!勇二さんのお陰でボク、生まれ変わる事ができたんだ!本当にありがとうございました!」


そう言って和也は丁寧にお辞儀をした。


「そうか・・俺も嬉しいよ!和也と一緒に練習出来なくなるのは淋しいけど、今度は俺が頑張ってる姿を和也に見せなきゃな!」


この子は本当に優しい子なんだなと勇二は思った。


そうだ、俺には後2ヶ月しか時間がない。和也の前で恥ずかしい姿は見せられない。


勇二は気持ちを切り替えた。




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