第32話・魔王の想い
戦い後の処理。あまり目立ちたくないために後から現れた騎士団から見つからずに隠れながら酒場へと戻ってきた。
騎士団と冒険者はなんとまぁ腰抜けばかり。集まって戦いに来たが遅すぎた。結局、全て終わってやってきて手柄を取り合っていた。
そんな愚痴を言いながらも酒場でご飯を注文し、二人は今さっきのドラゴンと対峙した緊張した雰囲気が抜け落ち、落ち着いて席に座っている。
「腰抜けばっかりだった」
「いやいや、ドラゴンと戦うなら武器が必要。装備を変えてたんだろ。槍とか、バリスタとか」
「そうだね。こんな剣とかよりリーチ長い武器がいいよね。後は魔法使いを集めなきゃ」
「へぇ~そうなんだ。ドラゴンと戦い慣れ過ぎてない?」
「ネフィア、一応は竜狩りだぞ」
「まぁまぁ。それよりもお兄さんにお姉さん。ありがとう。今回は僕だけじゃどうしようも無かったよ。前回は商人を逃がしちゃったし」
前回はきっと北の方の都市の事なのだろう。詳しく聞くとあそこでも同じことがあったらしい。
「そう、それとお兄さんには教えたけど僕は素ワイバーンの竜人、デラスティです。ドラゴンの雛を盗んだ人を追っかけていたんだ。刺客多くて大変だった」
「ドラゴンの雛は貴重だからなぁ。帝国でも家畜化を研究されているな。使役する方法とか。ワイバーンは比較的に使役しやすいが管理費が高いし弱いしであまり進んでない」
「うん。僕の種族は弱い。素のワイバーンは」
「あっ……すまん。貶したわけじゃないんだ」
「お兄さん大丈夫ですよ………弱いけど強くなるために努力してます!!」
少年が元気よく笑って勇者を向く。兄弟みたいな絵面だが、けっこう幼い男子はかわいいと思った。やっぱり自分は変な趣味なのかもしれない。男の方がいい気がするのは変だ。
「それより竜人ってなんでしょう? わかる?」
「いやわからん」
「えっと竜人は元は魔物のドラゴン種が人に似せて縮んだ姿だよ。知恵があり、体を変化させる魔法と運と才能でなれる。『燃費のいい姿だね』て兄貴が言ってた」
「ドラゴンは燃費がわるいの?」
天空の覇者の意外な弱点を知る。
「すっごくお腹すくんだって。僕はワイバーンだから普通だけどそれでも空きやすいかな?」
私の知らない世界で「変わった亜人もいるもんだな」と私は思う。
「それより、あの親子も竜人?」
「そそ、竜人」
「喋るのに吃驚したもんな。全員そうなのか?」
「いいや。教育受けてる人だけ。大多数は魔物だよ。でも人の生活に憧れる人もいるから。人にさせて言語学んで。やっと竜人になる」
「はぁ……まぁ今度から喋って聞いてみるか」
そう考えれるの勇者だけだと思う。目の前に立てるの勇者だけだと思う。
「今日は、いっぱい奢るよ~お金いっぱいあるし貰えるし~明日には出発でしょ? 魔国行くなら僕たちの故郷も寄ってよ!! 地図渡すから‼」
「わかった。いいよ。よらせてね」
「やった!!」
「おいおい。遠くなるかもしれないぞ?」
「いいよ………長い旅ならそれだけ………」
「……お姉さん?」
「あっ何でもない!! 今日は夜にパーっとしましょ!!」
両手を合わせて「ねっ」といい、誤魔化した。長い旅なら。それだけ一緒にいれるもんね。願わくば、終わって欲しくないと思う。
*
夜、暇なので葡萄酒をいただく。飛竜デラスティはあの後、すぐに魔物の跋扈する無法地域へ旅立って行った。新しい町がそこにあるらしく、第二の故郷と言っていた。このまま北へ行けばあるらしい。
「美味しい」
「飲み過ぎるな。明日出発だからな」
「飲んでもあなたが手綱持ってるから大丈夫」
「はぁ……吐かれたら困る。どうしたんだ?」
「お酒に溺れたい日ってあるよね」
お酒の力を借りようと思う。明日には記憶がない忘れたと言い張る。
「溺れたい日か。たまにあるけど………無茶するなよ」
「心配ばっかしやがって‼ 自分はどうなんだよ‼ 自分は!!」
「俺は~心配するより。思った以上に心配性だからな。落ち着かない事が多いかな?」
「なに? 落ち着かない? なんで落ち着かない? なんで?」
今日はグイグイ行こうと思う。こいつの知っている事を増やしたい。
「絡みがしつこいなぁ~絡みがしつこいなぁ~」
「絡み酒!!」
「わかった。酔っていることがわかった」
「さぁ恥ずかしい事を教えて。ねぇ~」
「いきなり女口調やめてくれ……テンポが狂う」
「テンポが狂うのは私。あなたを見ているとドキドキするし、ドラゴンの前でも引かない姿は格好いいし、彼女の話をするとここが痛むし………何だろうね? これ?」
「なんでしょうねそれ………はぁ~酔ってるなぁ」
「…………あっそ」
「あーなんか怒らせた?」
「怒ってない」
「………ごめんな」
謝らないで欲しい。勝手に言って勝手に悲しんでるだけだから。
「やんや!! やんや!!」
「姉ちゃん、ええ腰使い!!」
酒場の一角に一段上がった台場がありそこで踊り子が踊っている。見せ物は一般的であり、大きい酒場、多くのお客が来る場所では普通の事らしい。
帝国のギルドでは金を取るらしく、他にも歌や音楽など、見せ物は酒場を盛り上げる多様性に富んでいる。貴族もそれ目的でお忍び顔を出すとも聞いた。
「店長、元気にしてるかな………」
「してるだろ。黒騎士団の庇護下だしな。それより、あんまり見せ物は踊り子より歌の方が好きだな。落ち着いた音も激しい音も、風に乗って耳に届くものは全部な。激しいのは激しく騒いで呑むのに好きだし、落ち着いたものはゆっくり酒を嗜むのにいい」
「おまえ、結構。好みが細かい」
「黒騎士団長と同じだよ」
「そっか、歌が好きか………」
「えっ!? おまえ何処へ!?」
自分は立ち上がり、台場に上がる。踊り子に一曲歌わせてといい、ローブとマントを外す。
最初は野次だったが脱いだ瞬間、皆が黙る。男って奴は短絡だな。
「姉ちゃん、何処の人で!?」
「秘密だが、何処かの令嬢でも思っておいてくれ」
慣れた男っぽい女口調。紫蘭やエルミアの口調など真似をすれば勇ましい女騎士に見えるだろう。
深呼吸し、魔法を唱える。
「音渡し、音産み」
1つは、音を届けるために。もう1つは音を新しく産むために。
ゆっくり、両手を胸に当て歌い出す。
いつも一人で暇なので歌っていたし、音楽を嗜むぐらいは許されていた。芸術に触れるのは許されていたのだ。全く力に結び付かないらしいから。
*
彼女がいきなり、立ち上がって歌い出すのに驚いた。
ローブとマントを外し、白いドレスような鎧を着た彼女は目を閉じ、曲を紡ぎ出す。
ピアノの伴奏などが響いているのに驚きながらもその優しい旋律に声が出ない。
小さな口が開く。耳元で囁かれているような声量。なのにしっかり耳に届く。
「ネフィアに歌の才能があったのか!? あったのか!?」
酒場は今さっきの喧騒が嘘のように静まり返っている。そして、音が大きくなり音楽の佳境に入る。その言葉に自分は頭を殴られた衝撃を感じた。
「あなたに好きと言われたい」
心臓が跳ねるのがわかる。全身から汗が吹き出るような熱さ、血が勢いよく巡る。悲愛の歌だ。
歌が終わり。静けさの後、啜り泣く声と共に拍手が起こった。わかる、素晴らしいほどの音楽だった。
こんなところで聞けるものじゃない。帝国にある劇場で歌っても遜色のない物だ。
呆けた自分の元に彼女は歩いて、隣に座る。
「う、うまいじゃないか歌」
「ふふ、ありがとう……疲れちゃった」
「あ、あのさ……曲の一部に………って」
「すぅ……………」
すぐ寝息が聞こえ。言葉を飲み込んだ。
周りの視線がある中。幸せそうな笑顔で寝る彼女。もう声は届かないだろう。
「……………言ってやれない。すまん」
自分は地獄行きは決定だったが。地獄では生温いだろうと思うのだった。
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