第31話・ワイバーンの竜人

 都市国家グリーンズに我々はいる。自分達は北門に近い場所に宿を取り、そこを拠点として旅立つ準備を行う。保存食の補充程度だが。それが一番大切だ。


「せっかくの晴れ姿。フードとマントで隠しては意味がない」


 こんなに可愛いドレスのような鎧を隠すのはどうかと思う。フードで隠しマントで隠す。


「賞金かかってるんだ。無理言うな」


「………この鎧を用意したのは間違いでは?」


「似合うと信じて図面描いて長い時間をかけたんだ。無駄にしたくない」


「そこまで労力がかかっておるのか?」


「ああ、かかってるんだ。お金儲けも沢山したし。ドラゴンも狩って稼いだな。そのドラゴンの素材も使ってる」


「確かに金はかかってるな。お前は皮の鎧の癖に」


「鎧を着ろと言うなら全裸になる」


「やめろぉ!! 余の仲間が変態なのは嫌だぞ‼」


 二人で会話をしながら歩き必要なものを買い込む。そのまま宿に一旦戻った。歩いて感じたこの国の特徴は商業。アクアマリンの海の幸、山の幸がここで取引され運ばれる。


 そのため商人の護衛として冒険者も多く出入りし、他にも仕事が多いと見えた。この国の治安はそこそこで騎士団もいるが冒険者同士でルールを守って居るようだ。「金が稼げるなら」という相互関係。とにかく目まぐるしく金が動いている。


「帝国の商業区に似ている。まぁこっちは1国。あっちは1区だから違うかもしれない。ネフィア、飯はどうする? アクアマリンより不味いぞ」


「不味いぞって………まぁ。お前が行くなら行く」


「じゃぁ行こうか」


 宿屋は1階が酒場を兼ねている所を取ったのでそのまま降りていき。カウンターに座る。頼むものは腸詰めとパン。何処に行っても必ずある。美味しさに違いはあれど。そこまで不味い訳じゃない。


「しっかり皮を焼いてくれ」


「俺も」


 注文を頼み待つあいだに彼に色々相談しようと思っている。思っているのだが。後ろで大きい声がしてそれどころではなくなった。


「おう!! 坊主!! こんなところで何してるかなぁ?」


 二人で振り向く。小さい男の子、少年が大人に絡まれていた。体がまだ発達していない可愛らしい美少年がそこにはいた。


「僕はここでご飯です。なんですか?」


 僕っ子らしい。「かわいい……女の子かな? 男の子かな?」と考えて勇者に聞くと「男だろう」と帰って来た。


「はぁん? ガキが来るところじゃぁねぇ。ママの所へ帰りな‼ 目障りだ!!」


「一応冒険者です僕」


「はん? 冒険者だと? お前が?」


「はい」


「ははん~おままごとかなぁ? まぁいいちょっとついてこい。冒険者デラスティ」


「なんだ。最初から知ってるじゃん。僕の事」


「さぁ来い」


「ご飯がまだです」


ザッ!!


 数人少年の周りに配置されていたのか一斉に立ち上がる。「これはなんだ」と「少年一人に多くないか」と勇者と二人で言い合う。そして勇者に釘を刺される。


「他人の抗争に首を突っ込むなよ……ネフィア? いや、首を振るな!!」


 自分はサッと立ち上がり少年の近くに進む。周りの目線に晒された。


「お、お久しぶり!! 冒険者デラスティくん」


「ネフィア!? ああ、まったく仕方ないな」


 勇者も硬貨を置いて立ち上がり、少年に抱きついて頭を撫でる。


「お前、大きくなって!! どこ行ってたんだよ‼ 心配かけさせやがって‼」


 全く知らない冒険者に知っているフリをする。


「…………はは!! お兄さんお姉さん!! お久しぶり!!」


「ちょっと表へ出ようぜ!! こんな所で飯は食えねぇ」


「うん、そうだね」


 少年が合わせてくれる。周りの男達が援軍に少し逡順する。仲間でないだろう事は明白だが勇者の剣を見て部が悪いかもという悩みも出ただろう。その隙にサッと酒場を3人で出た瞬間、少年を抱き締めて出入口の横にしゃがんだ。音を拾うと「外に出たチャンスだ追いかけるぞ」と仲間で言い合っていた。


「幻影」


「音奪い………ちょっと黙って静かにしてね」


「は、はい」


 酒場の出入口を注意するとあの絡んできた男達が慌てて出てくる。


「くそ!! どこ行った!!」


「これではお頭に向ける顔がねぇ!!」


「探せ!! あいつは探し出し………殺れ」


 彼らが明るい内から殺気立って少年を狙う。「この子はいったい何をしたのだろうか?」と疑問を口にした。すると勇者が首を振る。詮索するなと言いたいのだろう。


「あーあ、飯。食いそびれたな。ネフィア」


「ごめん。大人が寄って集って子供を苛めるのは少し気が引けたから。よくない事だ」


「こいつは冒険者。割り切って行かないと死ぬぞ?」


「すまん。いや、すまぬ。トキヤよ」


「まぁでも。酒場の中で殺し合いになってたかもしれないから結果から言うなら一番落ちついた結果だな」


 勇者は子供の頭を撫でる。それが合図だった。


「もう、喋っていいね? お兄さん、お姉さん。ありがとう。僕がご飯を奢るよ。でも、凄いね!! どうやったらこんな相手を出し抜ける事が出来るの!!」


 自分は抱き締めていた少年を解放する。目を輝かせて自分達を見る少年。「説明は大変だろうな」と思った。


「秘密だ。残念だが専売特許でね」


「私は彼から少し教わっただけ」


「あぁ~残念です。強くなれるチャンスだったかもしれないので。それよりご飯を食べに行きましょう‼ 奢ります!! これでも立派な大人に近いんですから」


 自分達は場所を変えることにした。





 酒場とは一風変わったテラスのお店。商人や冒険者等が昼を食べにくる人が多い所を選んだ。殺気立ってこんな所で殺ろう物なら即、騎士団に殺られる。


「最初からこっちにすれば安心してご飯を食べれましたね。盲点でした」


「追われることに慣れていないな」


「二人とも追われているのですか?」


「音奪い、いいよ、喋って。はい、私達は追われてます。そして向かっています。向かっている先は魔国の都市ですね」


「へぇ~魔国って花がいっぱい咲くからワイバーンの繁殖地だったりするんだよね。そういえば自己紹介まだだった」


「そうだな。まだだったが追われてる身。隠しといた方がいいだろう?」


 一応名前は知っている。だが、それ以外は知らない。そのままの方が後腐れないのだろう。


「僕は隠さない。助けてくれた恩人には感謝をする。そう教えて貰ったから。僕の名前はデラスティ。竜狩りです」


「「な!?」」


 小さい男の子から聞いた言葉に驚く。


「竜狩りってトキヤと一緒」


「お兄さんも竜狩れるんだ!? あっ……でも一人で?」


「ああ、一人で。でも狩れるのは素ドラゴンだけだな」


「お兄さん。凄いんだね」


「お前も一人で狩れる様だし。そんな小さい剣で頑張るな」


「あーすぐ、無くしちゃうから僕。これ飾り」


 少年の剣は私のように量産品を使っているみたいだ。飾りと言うには理由があるのだろう。


「えーと、驚いたが。俺はトキヤだ」


「ネフィアと言います」


「へぇ~お兄さん達は何日ぐらいここに」


「昨日から、2、3日したら旅立つさ」


「あー長くは居ないんですね。残念です。頼みたい事があったのですが………」


 少年が落ち込んだあとそのまま談笑に移った。ご飯を食べながら他愛のない話をする。別れたあと。ただひとつ気になったのは次へ向かう都市がドラゴンの襲撃があった事を少年は教えてくれた。


 しかし、少年の情報が酒場で広まったのは次の日だった。それに勇者が違和感を持つ。


 都市から都市の連絡より、早く少年が情報を持っていた事を。





 少年と出会い、ドラゴンの情報を貰った次の日。2階の宿部屋で自分は相談しようと思う。


「勇者、少しいいかな?」


「今さっき、騒がれてるドラゴン襲撃の話しか? 俺を勇者と呼ぶのをやめないことか?」


「その話しはどうでもいいです。『勇者?』と聞けるのは勇者だけです」


「変な確認方法を………」


 呼び方で勇者と呼ぶが他はなんと言っているか聞こえない。首を傾げる人も居るが気にしない人の方が多い。結局他人なのだろう。大多数は気にしないのだ。


「で? なに?」


「この旅の終着点を聞きたい」


「終着点か、俺はネフィアが玉座に座った瞬間に目の前から去るよ」


「それは、余に[彼女]を探す手伝いをさせないのか?」


「あっ……いや。えっと。手伝いしてくれるのか?」


「もちろん。探す手伝いをする。でもな一発ぶん殴ってやらないと気がすまない。そやつを」


「いやぁ~それは可哀想だな」


「可哀想? お前が一生懸命探しているのに出てこずにのんびり過ごしてそうな女だぞ、許せるか?」


「あー許せる」


「お前は心底甘い男だな‼ 私は許せない」


「それは、困ったな」


 そう、勇者がこんなに想っている「彼女」がもし素晴らしくないなら人でないなら。「先に見つけて始末しよう」とも思う。


「!?」


「ど、どうした? 顔を押さえて?」


「な、なんでもない」


 心の奥底で、黒い感情が湧き出る。怒りと歪みを混ぜた黒い感情。それが嫉妬なのがわかった。


 彼に愛されながら。一向に世の中から出てこない女性。目の前にいない癖に愛される彼女。羨ましいと思うのだ。


「あっう、勇者は『彼女』を諦める事は出来ないのか?」


「…………出来ない」


「そっか!! 変なこと聞いてごめんなさい」


 ああ、痛い。思い出せば思い出すほどに。悩めば悩むほどに。考えれば考るほどに。玉座に戻れば彼を失う、行ってしまう彼女の元へ。


「………あぁ好き、なんだな………」


「!?」


「……………はぁ」


 勇者は私のために頑張っていく。彼女と違う私のために。目を閉じれば目蓋の裏に見えるのは大きな背中と彼との日々。短いたった数ヵ月の旅。恋をしている言われたが本当にそうかも知れない。


 男同士なんて嫌だ。男に戻りたい。しかし…………戻ったら何処かへ彼は行ってしまう。思考が巡る。今は答えが見いだせない。


「勇者、お腹すいたな‼ 飯食べに行こう!!」


「あっ……う、うん? ネフィア? 今さっき」


「今さっき? なんだ?」


「あっ……いえ。何でもない」


「勇者の顔が赤いが?」


キィイイイイイイイイン!!!


「「!?」」


 聞いた瞬間にいきなり、甲高い音に吃驚する。窓を開けて外の様子を勇者が確認した。


「全員耳押さえている!! 俺だけじゃない聞こえたのは!!」


「うるさいが何もないけど………!?」


 窓から、甲高い音以外で震える声が届いた。その音は地面を揺らし、心の奥に恐怖を芽生えさせる咆哮だった。自分達が恐怖を抱き続ける魔物の咆哮。魔物の代表格の存在を思い出す。


「ネフィア………やばい」


「い、今さっきの咆哮は!?」


「正真正銘のドラゴンだ」


 勇者の一言で背筋が冷えたのは言うまでもなかった。





 上空から羽ばたく大きな影が都市国家を栄華を遮る。路地は人がごった返し走り回っている。南へ南へ逃げようと皆が走っていく。自分達は真ん中の混乱する路地には行かず屋根の上へ登った。赤い屋根上で空を見上げる。


「やっぱりレッドドラゴン。一般的な奴だ」


 自分は思う。童話の話でどうもドラゴンに縁がある気がしてならない。しかし、今回は異常事態だ。呑気な事は言っていられない。


「……なんで来たんだ?」


「飯でも食いに来たか? ワイバーンが避けてアクアマリンに来たのはこいつのせいだろうな。ワイバーンが逃げるドラゴンなんてそうそうお目にかかれるレベルじゃない。ネームドかもしれない」


「勇者、どうしようか?」


「どうしようって言ったってなぁ……何も出来ないぞ。俺たちも逃げれば………」


「逃げれば? この都市国家を見捨てると?」


 滅んだ都市は数多い。ここが焼け野原になるかもしれない。そんな事を想像した。


「騎士団もいるし、冒険者も多い。被害は出るが大丈夫だ」


「お前は倒せるのだろう?」


 勇者なら簡単に仕留められる気がする。ならばと思う。そんな中で状況が変わる。


「ドラゴンが中心に降りてる!! トキヤ!!」


「戦う理由がない。お前を逃がす。早く宿に………って!! おい!!」


 自分は屋根の上を走り出した。何かに呼ばれるように耳に「助けて」と言うような言葉が浮かんだ。







 阿鼻叫喚。ドラゴンが降りた場所で怒声や泣き声が飛び交う。騎士団はバリスタの用意を怠ったことが原因だろう。簡単に侵入を許してしまっていた。


 自分は屋根上からドラゴンを見つめる。ここまで来た。「でもどうしようか?」と悩む。あれからあの甲高い音は聞こえない。「助けて」と言う言葉が聞こえない。


「うぅう………怖い」


 ここまで来た。けど足がすくむ。初めて見たワイバーンと違う。鱗や牙、鋭い瞳、全て違う。あれの目の前で戦うなんて無理だと思う。しかし、勇者なら。


「お、男は度胸だぁああああ!!」


 屋根上からドラゴンの背後に降り立ち、即効魔法を唱え、火球をぶつけた。勇気を出してちょっかいをかけた。


「やっぱり、効かない………でも!!」


 ドラゴンはこっちを向く。正面からドラゴンを私は初めて見た。屈強な肢体、本能が勝てないと悟らせる鋭い目。大きな口を開け、炎が渦巻く。ドラゴンの火吹きだ。目の前に迫る熱波、炎。感じ取る自分の火の魔法の上位。震える体で、目を深く閉じ祈る。信じて待つ。


「其は風の………」


ゴォオオオオオオ!!


 熱波が感じられなくなり、焼けることもなく。自分は生きている。目を開けると信じた、彼がいた。


「全く!! 自分から飛び込んで負けるなら飛び込まない!! 蛮勇は自殺と一緒だ!!」


 勇者が緑の魔方陣を現出し炎を防ぐ。周りの家に飛び火し燃え上がっていく。しかし、熱さを感じなかった。


「ごめんなさい。そして………ありがとう」


 いつからだろう。あやまるのに感謝するのは。そして絶対安心できる。絶対来てくれると思えるのは。


「でっ、俺があいつを狩れと‼」


「このままだと被害が大きい。少しでも被害を少なくさせなければ」


「魔族で元魔王のお前が人間の心配をするな‼」


「バカ!! 強いものが弱いものを助けないで何が王だ!! いいや!! 助ける力があるなら使うまで!! いつか支配してやるのだからそれまで大切にだ!!」


「…………そうか。わかった。なら!!」


 勇者が剣を鞘から外した。それを構え唱え始める。


「付与魔法。ストームルーラー」


 刀身に風が集まり出し、嵐のように渦巻く。風のうねりの轟音が耳元まで届いた。そして勇者が剣で魔方陣ごと縦に切り払う。嵐の刃が一直線に炎を吹き飛ばし、ドラゴンに触れて巨体を吹き飛ばした。


 しかし、ドラゴンは爪を地面に食い込ませ耐える。大きな嵐の風の音が都市、全てを覆った。しかし、剣にはまだ嵐が纏っている。


「えっ……勇者」


「下がってろ、安全な所へ」


 ドラゴンが距離を取る。その行為は様子見だ。わかる。勇者は戦える。よかった。これで逃げる時間は生まれるだろう。


「うん、後は任せ………」


キイイイイイイイイイイイン!!


「うん!? また、あの音だ!!」


 ドラゴンが音の方向も見る。そこへ飛び立とうとするが、跳躍した瞬間何かに頭を打ち抜かれ落ちる。それは勇者の魔法だ。ドラゴンは風の矢に邪魔されている。


「アローショット!! ネフィア!!」


「うん!!」


「音の発生源を探れ!! あれがドラゴンを呼んでいる!! 時間だけは稼ぐ」


「わかった………倒す必要はないぞ?」


 自分は音のした方へ走り出した。勇者が階段状に風の魔方陣を用意し、それから屋根へ登る。音の場所はわかる。勇者を信じ、自分はアクアマリンの宝石に祈るのだった。


「死んだら許さんからな」


 そう、言葉を残して。





 僕はどっちに行くべきが悩んだ。そして結局。ドラゴンの方へ向かった。


 吃驚したことに先客が戦っていた。ドラゴンの火吹きを耐えたり、爪を弾いたりし、ドラゴンを追い詰めている。飛ぼうものなら魔法で撃ち落としている。しかも、一歩も動かずに。


「あれ、お兄さんだ。いや、強い!?」


 始めてみる。人間とドラゴンの一騎討ちに胸が踊る。絶対強者のドラゴンにほとんどが敵わないと言われる人間が個人で圧倒する。尊敬できる行為。


 だが、拮抗は崩れた。もう一匹、お兄さんの後ろに降りてくる。そして自分もお兄さんの後ろへ屋根から降りた。


「ああ、やっべ。遊びすぎたか………2匹か」


「トキヤお兄さん!! 後ろは任せて!!」


「デラスティ!! ああ、子供だからって関係ない。ここは戦場だ。任せる」


「話が早くて楽だぁ。ああそれと彼等は殺さないでね。追い返すだけでいい。言葉も通じるよ」


「えっ?」


「もうひとつ!! 僕のこと黙ってて狙われるから!!」


 自分は後方のドラゴンに向けて走り出して思い出す。元の自分の姿を。魔力の霧が体を覆い。一瞬で視界が変わりそのまま近付いて、体を回転し尻尾を叩きつけドラゴンを痛め付けた。鈍い痛みが尻尾に響く。


「さぁ僕たち魔物は帰った!! 帰った!!」


「ワイバーン!? デラスティおまえ!?」


「お兄さんの声。不思議と遠くでもよく聞こえるなぁ。話は後でね。さぁお姉さん。後は僕がやるから帰りましょう」


「ぐうううううう!! 嫌よ!!」


「ドラゴンも喋った!? どういう事だ!? エルダードラゴンか!?」


「はぁ………姉さんの分からずやぁああああ!!」


 自分は叫んで体当たりをする。





 屋根の上から発生源らしい所を見つけた。馬車の大きな荷台から激しくぶつかる音が響く。非常に大きい物で布が被せられていた。人がごった返し動きが取れていない状況で商人、冒険者が「道を開けろ!!」と叫んでいる。


「あうぅ幻影とか使えない。どうしよ」


 どうやって、確認するべきか。考えても仕方がない。「やるまで」と決めて勢いよく屋根から飛び。


がしゃん!!


 天板に着地。しかし、音は響かせず冒険者も気付かない。この中で何かのうめき声と暴れる音が聞こ続けた。後ろに降りてドアを見ると、錠前がついている。


「いけるか?」


 剣を抜き方手で構え炎のエンチャントを行い。錠前に振れさせる。ゆっくり金属が溶け開けられるようになる。冒険者や商人が前方で逃げようとしている隙に中を確認したい。


 急いで大きな鉄の引っかけを取る。重たいが、なんとか抜きドアを開けた。布で隠された箱はどうやら鉄格子の牢獄だった。そして驚く中身だった。


「えっ!?」


 小さいドラゴンが両足に鉄球を繋がれ身動きを封じられた姿が目に写る。ドラゴンが威嚇しながら震えている。今さっきの「助けて」の願いはこの子からだったのだろうと確信した。剣を収めてゆっくり近付く。両手で敵意がないことを示しながら。何をすればいいか、わかる。


「大丈夫。私は敵じゃない。大丈夫………」


「ガルルルル!!」


「大丈夫だから」


「グワァ!!」


ガブッ!!


「くぅ!!」


 噛まれたが少しも痛みがない。鎧でしっかり防がれ噛み砕かれるまでは行かない。堅いのだろうすぐに噛むのをやめる。近くに行くとやはりドラゴンなので大きいがそれの腹へ飛び込み抱き付いた。


「大丈夫、大丈夫」


「ガル………本当?」


「!?…………ああ、本当。ちょっと待ってろ」


 剣を抜き、繋がれている鎖を溶断した。いきなり言葉を発したのには驚いたが。人間と同じ脳の大きさもあれば普通のことだろうと納得する。今は助けるのが先だ。


「飛べる?」


「うん………飛べると思う」


「よし、扉から出てすぐに飛び立て!!」


「ありがとう………お姉さん」


「お礼は親にね」


 私の母親とは違った。助けに来たのは子を思う優しい親だろう。ドラゴンの子は勢いよく牢を出た。悲鳴が響き渡り、その中を飛んでいく。


「あっあああ!! ドラゴンが逃げたぞ!!」


「誰だ!! くそ!! 苦労したのが………」


「お前か!! 冒険者デラスティ!!」


 デラスティと呼ばれて少しこの事件が見えてきた気がした。自分は牢屋の天盤に乗り直してマントとフードを取る。そして、風の魔法を全力で唱えた。


「余はネフィア……ええっと。冒険者ネフィア・ネロリリス!! 皆よ聞け!! そこの悪質な商人がドラゴンの子を盗みこの都市を危険に晒せた。この危険は全てこいつらの責任だ!!」


「あ、あいつを黙らせ」


 うるさい商人は黙らせる。


「音奪い………諸君!! ドラゴンは我が抑える!! 故にこやつの処罰は任せた!!」


 言葉を全て、ここいら一帯に響かせる。視線が集まり、全員の顔が怒りに染まる。自分はそれを見届けて天板から降り、勇者が戦ってい場所へ走り出した。逃げてくる人を避けながら向かい。ついた頃にはドラゴンは帰った後だった。





































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