第30話・独特な距離感
北へ逃げる私たちは次の都市へ馬に揺られながら向かった。森の中を魔法で音を拾いながら魔物を避けて進み。木の影の隙間を縫う太陽の光でちょうどいい気温の中を進んだ。
黙々と歩を進める馬。今のところ追っ手はない。魔物もいるが避けて通ってきたため平和な旅だ。
「勇者、そういえばお前変わったな」
何が変わったがわからないが変わった気がする。
「変わった? どこが?」
「あーなんだろうか?」
「それ、俺が変わったのではなくて。ネフィアが変わったでいいんだよ」
「なに!? 何処がだ!! 強くなった事か?」
「馬に乗せてくれている。女扱いするなぁ~が少なくなった」
「………女扱いするな」
「思い出したかのように言わない事」
「し、仕方ないだろう。女の体のままなんだ!!」
「板がついてきたな」
「余は火を操る魔法使い。現出し、もごっ!?」
「おい!! 俺に向かって唱えるな!!」
手で口を押さえられる。これでは魔法を唱えられない。
「もごもご」
「あーなに言ってるかわからん。もう唱えるなよ」
「余は火を操る」
「音奪い!!」
「対抗呪文!! どうだ!! 声が出るぞぉ」
「あ、負けたか」
「フフフ!! 音では負けない!!」
勇者の驚く顔が身近で見れて満足。
「あっ!! はぁあああああ!!」
「お、おい。どうした!?」
「か、顔近い………」
「あっ……いや。はい」
自分は黙り混み明後日の方向を向いた。ああ、何でこう………これも一人ではわからない。恋と言う物のせいかもしれなかった。
*
夜食。いただいた物は保存食のベーコンと堅いパン。それをしゃぶって柔らかくしてから飲み込む。
「ネフィア………ちょっといいか?」
「はむ?」
堅パンをしゃぶるのをやめ、勇者が用意した水を飲む。
「なんで俺の方向いて食べるの?」
「そんなことはないぞ?」
堅パンをまたしゃぶる。小麦の風味が美味しい。帝国の堅パンが不味いだけだな。あと、なんか甘く感じる。
「なぁ………やっぱ見てるよな?」
「えーと」
「なんかある?」
「勇者を見て食べると甘いような気がするだけだ。別に気がするだけなのでどっか向いとくぞ」
「はい、お願いします。俺が気が気でない」
まったく。なんで明後日の方向を見て食べるという面倒なことをしなくちゃいけないんだ。
まぁ、なんか普通に気恥ずかしいかったから別に良いけどな。
*
森を抜けると次の都市が見えた。名前はグリーンズ。平原に立てられた城を中心に壁を作る至って一般的な都市で農園が広がる。特徴は連合国家の都市と都市の中継点なので商人が冒険者を連れて出入りが激しく農園だからこそ食材売買も多い。
アクアマリンからの商人とすれ違う整備された道は避けて森から通って行った。深いローブを被り、身を隠しながら都市へ入る。もちろん身分証を提示してだ。見せるがここではあまり賞金首は一般的に話題にはなってないらしい。
「1、2日の滞在だが大丈夫か? いきなりの旅だったからな」
「大丈夫だ。今回は楽しかったぞ」
「お、おう」
「どうした? 顔が赤いぞ?」
「なんでもねぇ。早く宿を探そう」
「うむ!! 久しぶりのベッドだな」
今回の逃避行は距離が短いのもあったが短く感じた。
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