第29話・白金の魔王

 ワイバーンを撃退し10日がたった。そして、今日。ギルド長に私は呼ばれた。


「なんでしょうか?」


「紫蘭、これを見てくれ」


 ある一枚の紙。破格の金額が提示された賞金首。自分はその顔に覚えがある。


「彼の付き人はいったい誰なんだ? これだけの金額を持つ首だ」


「私にも、わかりません」


「そうか。なら、命令だ。仲がいいだろ聞け」


「…………わかりました」


 自分は紙を丸め。ギルド長室から出た。すぐさまカウンターに仲良く座る彼らに会う。


「今、いいかな」


「ああ、いいぞ。ネフィアもいいな」


「ええ。どうぞ紫蘭さん」


 彼女は何故かあのワイバーンの襲撃から大人しくなった気がした。何があったかは知らない。それよりも、彼女の正体に私は気になる。令嬢で賞金首のネフィアと言う女の子。この子に何をされたのか気になったのだ。


「どうした? 深刻な顔して」


「どうしましたか?」


「すまない。君は席を外してくれるか?」


「わかりました。外で待っています」


 ネフィアが大人しく席を外してくれる。ありがたいことだ。


「彼女、変わったね。何かあった?」


「さぁな。ただわかってるのは俺は地獄行きが決まった事と。ネフィアには同じ場所に墜ちて欲しくはないなと思うことかな」


「含んだ言い方だな。また悪さをしたのか。お前って奴は彼女は本当に令嬢なのだろうに無下にして」


「ああ、絶対怒るだろうが。それでいい」


「別れないのか?」


「別れない。どんな事をしても護るって約束したからな」


「…………そうか」


 少しでも別れる気があれば良かったのだが。


「彼女は不幸を呼ぶ。お前を不幸にする。別れろトキヤ。諦めろ」


「唐突になんだ?」


「彼女は只者じゃないだろう? 何者だ。教えてほしい」


「…………教えられない」


「そうか、わかった。ありがとう。じゃぁな」


「ああ!! またな」


 自分は立ち上がり、ギルド長に報告しに行った。彼女は黒だと確信して。





 勇者が深刻な顔をして出てくる。


「ネフィア逃げるぞ」


「ん? 勇者?」


「今、ギルド長と紫蘭が話しているのを聞いた。俺に探りに来た報告を行っている。お前は賞金首らしいな」


 勇者が一枚の紙を見せてくれる。一人の人間が手にすることの出来ない金額だ。何処で手に入れたか聞くと紫蘭から盗んだらしい。


「あー賞金首」


「最近、大人しいなお前」


「騒いでも。意味は無いからな。さぁ行こう勇者」


「ああ、北へ行こう。顔は隠せ……そのまま鍛冶屋によっていく」


「わかったわ」


 会計用の硬貨を置いて席を立つ。私は、あの日から悩んでいる。あの感情の延長線に数多くの感情がある。確かめ時間は多いだろう。私は勇者の後を黙ってついていく。ネフィアを演じながら。ネフィアに擬態しながら。


「こそっと抜ける。荷物は置いていく………鍛冶屋で分けてもらおう」


「馬は?」


「今から取りに行く。西門の前で待っていてくれ。1頭だけだが……すまない。二人乗りだ」


「大丈夫、馴れたわ」


 二人の乗りの方が体が楽だと知った。なにもしなくてもいいのは便利だ。女扱いされるより利を大切にする。あと、気持ちが安心するのは黙っていよう。凄く安眠も出来る。


「女扱いだけはしないでくれたら二人の乗りでもいいわ」


「お、おう? 女口調で女扱いするなって言われてもなぁ」


「気にしないで。では西門で」


 自分は勇者と別れて西門へ向かった。





 黒と報告をしたあと。私は悩んでいた。


「紫蘭。これだけの金額あれば………ギルドを大きく出来るな。討伐任務発注だ」


「しかし………彼らは」


「数人集まれば大丈夫だろう? 高ランク者を全員をここへ」


「わかりました」


「これでやっと自分もギルド長として胸を張れる」


「…………はい、失礼します」


 部屋を出た後。溜め息を吐く。あいつに会って、会話して、依頼を頼んで報告を読んで、感じるものがあった。昔を思い出させるほど変わっていない。「なんだろうか?」と胸に手を当てる。


 今のギルド長は昔のギルド長に遠く及ばないと思ってしまう。昔のギルド長はそれはそれは素晴らしい人だった事を何度も何度も思い出してしまう。思い出す言葉たち。


「紫蘭………お前と一騎討ちする黒騎士は強いか?」


「いいえ、逃げ腰の屑です」


「しかし、毎回目の前に立ちはだかっているだろう?」


「はい。ですが、すぐ逃げます」


「そうか………紫蘭。羨ましいな」


「はい?」


「全力でかかっても倒せない好敵手が居るなんて羨ましいな」


 あの後、彼は前線の長を勤め………ある黒騎士に対面して斬られた。斬った黒騎士はもちろんあいつだった。


 聞けばよかった。しかし、聞かなくてもよかったと思

う。最後を聞いたら皆と同じで過去で怨んでしまった事を思い出すのが怖かった。しかし、逆の感情もある。


「ああ、思い出す。あいつを見ると」


 昔、散っていった仲間全員を思い出させられる。


「ん?」


 腰に指していた手配書がない。


「あいつ!? 何故、死地に赴いく!! なんで、どいつもこいつも!! 死んで行くんだ‼ 私を置いて!!」


 私は生き残った。慈悲によって。




 勇者と二人で西門から北の鍛冶屋に寄って。北へ逃げる。門を出た後、振り向き色々あったことを思い出した。ずっと居られる事はないと感じていたがそれでも長く居た気がする。「帰ってくることはないだろう」と口に出して手元の手配書を眺める。


「この賞金を出してるのは魔国かぁ……すごいなぁ」


 自分は馬に揺られながら紙の数字を何度も数える。これだけの金額を手にいれようとしたらワイバーンを狩り尽くさなければならないだろう。ワイバーンは全滅だ。「あとは何が出来るだろうか?」と色々考える。


「ネフィア、破くなよ」


「何故だ?」


「綺麗に描けてる。男をモデルに書き直したのか……一瞬だけ見て書き直したのかわからんがよく似てる」


「確かに書けている」


 自分でも吃驚の美少女だ。ああキモい。自分で自分を美少女と思うのはキモい。だが仕方がない。男の感性で見るとどうしてもそう思う。鏡を見ると恥ずかしいのは今もそうなのだろう。別人でいたら、美少女だって思う。


「大切にしたい。破くなよ」


「………わかった」


 しかし、それよりも。勇者だ。「くっそ!! なんで恥ずかしいことを言えるんだこいつ!!」と心の中で愚痴る。


「まったく」


 でも、そんなこと言って『彼女』が好きなんだろう。


「やっぱり破く」


「うわあああああ!! やめろって!!」


「お前が悪いんだ‼」


 破り捨て、火球に触れさせる。燃えカスは風に流されていく。ざまぁみろ。


「まったく。絵など無くてはいいじゃないか」


「そうは言うがな? 鎧の下に入れる事は……」


「ばーか、絵など見ずとも余を見ればいいではないか?」


「………はい」


 「大切にしたい」て言われるのは嬉かった。そして、その都度『彼女』が好きと言った言葉を思い出すのは悲しかった。





 都市外れの鍛冶屋に寄っていく。「鎧は出来たのだろうか?」と疑問に思う。既に下地以外は出来上がっていたと聞いていたがそんなにすぐ出来るとは思えない。鐘を木槌で叩き。家に上がらせてもらう。


「こんにちは!! 出来てるわよ!!」


 お迎えは夫人。主人は工房で待っているとの事。


「すまない。夫人、お願いがある。旅の荷物を分けてほしい。このまま北へ旅に出る」


「………わかった。あなたの頂いた貴金属の余りを頂けるから。持っていきなさい。ネフィアちゃん!!」


「は、はい!!」


「彼と幸せに」


「え、ええ………」


 嬉しい言葉をかけてくれる。覚えたての言葉を思い出し口にする。


「ありがとうございます。夫妻の神のご祝福があらんことを」


「ネフィア………すまんが悪はこっちだぞ」


「ひゃ!? え?」


「ボルボ夫人。彼女は元魔王だ。本当に支援を感謝する」


「ふふ、いいのよ。お金を出せば全員客人。準備は私が済ませるわ。昔、冒険者だったから安心して。そして………秘密を教えてくれて、ありがとう。納得した」


 自分達は準備を彼女に任せて工房へ向かう。工房の大きな引き扉は開け放たれておりそこから入る。ボルボ殿が自分達に気が付き迎えてくれる。


「ああ、来たか‼ 出来ているぞ。そこの脱衣室に運び入れている。見てみろ‼ お嬢さん!!」


「は、はい!!」


「ネフィア、行ってこい」


「う、うん………」


 自分は脱衣室を覗き。口を抑える。広い脱衣室の中心に立つ鎧に吃驚したからだ。


「ネフィア、早く着替えてくれ時間が惜しい」


「まて!! 女物の鎧ではないか‼」


 演じるよりも素で叫んでしまう。


「………追っ手が来るかもしれない。元魔王だろ? 小さい事だ気にするな。それに身分相応な鎧だぞ?」


「身分相応………わかった我慢して着ます」


 自分は脱衣室に入り、鎧に近付く。白銀色のドレスと思っていた物はしっかりした鎧であり、似た者で夢で見たエルミアお嬢様の鎧を思い出させる装飾つきだった。6枚の花びらのようなスカート。ガンドレット一つ一つに華の紋様。胸の開いた魅惑な胸当て。


 もも当ては途中で切れており、太ももが少し見えそうだ。兜はどちらか言えばティアラのような装飾もので防御力があるのか怪しい。


 鎧の機能より見た目を重視している。しかし重要な場所はしっかり護っている。あのボルボ殿が作った鎧にしては手が混んでいた。この剣と大違い。装飾いらないと言った職人が作ったとは思えなかった。


「はぁ………自分がこんな物を着るのか? 想像つかないぞ」


 でも何故か、見とれてしまっている。綺麗な鎧だった。





 鎧を着付け。古い皮の防具は捨てる。処分はボルボ夫妻がしてくれるらしい。


 鏡で見た自分は何処かの令嬢そのままであった。友人のエルミアお嬢様を思い出し、鏡が自分ではない誰かを写して偽っていると言われれば信じてしまいそうな姿だった。「あいつの反応を知りたいな」と思う。


「勇者、着てあげたぞ。まったく、落ち着かない」


「おう!! 早くここから………うぶぁ!?」


「おい、どうした!! 変か? 変なのか!?」


「あっ……いや………よよよよく似合ってますです」


「………あ、ありが………とう」


 ちょっと気恥ずかしい。勇者が逃げるように何処かへ行く。


「だああああああああ!! くそ甘ぇなぁ!!!」


 ボルボ殿が叫びに我に帰る。彼が笑顔で話を始める。


「先ずは商品の説明をさせてくれ!!」


「あっ……はい。どうぞ」


「あっ、俺は先に行って準備を手伝ってくる」


「わかった」


「嬢ちゃん、材質はわかるか?」


「白銀か? また高価な物だなぁ」


 この世の硬貨は金、銀、銅で成り立っている。それとは別に貴金属という価値ある金属があり白銀は銀の中でも白色が強い光沢を出し、非常に珍しい金属だ。貴金属と呼ばれ装飾品としても有名である。


「残念。その鎧は本来硝子張りの博物館か貴族の部屋にでも飾られるべき鎧だ。白金だよ」


「ぷ、プラチナ!?」


「プラチナとミスリルの合金で作られた鎧であり、その絶対の安定が魔法のようになって剣を弾く。貴金属の素材で作ったアホな鎧さ。今回は嫌いな装飾も頑張った理由は初めて使う金属を試させてもらった御礼だよ。面白かったぜ」


「えーと………こんな高価な物を着てもいいのでしょうか?」


「いいと思うぜ? あんた魔王だろ? 似合ってるぜ‼ 鎧は飾るもんじゃぁ~ねぇからな!!」


 プラチナは指輪や魔法具、魔法の触媒等色々な物に使える。だが装飾品が多い貴金属。ミスリルは魔法金属の鋼だ。鋼製造時に魔力等を埋め込み強度を上げた金属であり。生産が難しい。こんな高価な物は宝物庫に入っていてもおかしくはない。着る鎧ではない。


「よし、嬢ちゃん。その剣はどうする? その鎧に似合わんぞ? 新しい剣があるが?」


「これ慣れ親しんだ物なんです。ごめんなさい。これ以外は……無理そうです」


 剣をぎゅっと抱きしめる。


「………ありがとう。職人冥利に尽きるよ。早く行きな‼ あー満足!! 仕事が出来ねぇわ充足感で」


「あ、ありがとうございました!!」


 私は急いで工房を出た。向かうは勇者が待っているだろう場所。そこへ向かうと荷物を馬に乗せている夫人と勇者が支度が終わった直後だった。


「あら~かわいい!! 本当に似合うわね~羨ましいわぁ~。かわいいよねぇトキヤ殿~」


「えっと………はい。綺麗ですね」


「は、はい………その、ありがとう……ございます」


 御礼の言葉が尻すぼみ、顔は熱を持つ。褒められた2度も褒められた。


「はい、ささ!! 二人とも行きな‼ これ身を隠すローブ!!」


「本当にありがとう‼ 夫人!!」


「いいさね!! 夫が満面の笑みだろうからね!!」


 スッと馬に乗る。プラチナを着込んでも馬は立派に立ち続けた。二人乗っても難なく耐える。さすが魔物。びくともしない。そして自分達は夫人に見送られアクアマリンの都市を完全に去ったのだった。












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