第27話・隠し事
自分はワイバーンを狩るのを早々と切り上げ、酒場へ向かう。そして道中で勇者に追い付く。「殴って振り向かせようか? それとも声をかけて振り向かせようか?」と悩み、いつものように恥ずかしい思いをする。だから、彼の裾をつまんで、引っ張る。今できる最大の努力だ。
「勇者、待って」
「もう狩りはいいのか? お金だぞ?」
「お金はいい、早よう。話せ」
「酒場で言ったじゃないか?」
「待てぬぞ」
「待てないなら話さない」
「ずるい」
「飛び降りる強迫よりマシだ」
あの、胸を焼く激情は鳴りを潜める。酒場に帰ってくると藻抜けの殻。誰も居らず閑散としていた。居るのは店員だけ。実際、ワイバーンは強くない。お金が降ってきたものなのだろう。皆、出払っている。
「で、来たけど話せ」
「まず座ろうな」
カウンターに二人で並んで座る。まだ日は明るいが勇者が葡萄酒を頼む。
「では話を」
「まて、酒が先だ」
「………このまま、なぁなぁにしたら魔法をぶつけるぞ。炎の魔法は即効性があるのに中々威力もある」
「まぁ、まて」
やきもきしながら待つ。用意された葡萄酒を勇者が一気に飲み干し次を頼んだ。酔うつもりらしい。
「そのロケットペンタンド見たか?」
「まだ。開けてもいいのだな?」
「ああ」
自分は恐る恐る中を確認する。綺麗な金髪の女性の絵。よく似ている人物を私は知っている。鏡で見ているからだ。あまりに似すぎて驚きを隠せない。
「えっ? 自分?」
「違うと思う。名前はネフィア。実は何者なのかわからない」
「これを何処で?」
「占い師が描いてくれた」
「これが過去と何か関係あるの?」
「黒騎士の時から彼女を探している。初恋の人だ」
「ん!?」
胸の奥に棘が刺さった痛みを感じた。恐ろしく鋭い痛み。その痛みは何かを知らない。知りたくないと本能で感じる。
「彼女は占いで知ったんだ。人生で出会う事の出来る女性の一人として。一目惚れだった」
「そ、そうか」
「綺麗で美しい大人な女性だ。彼女に会うために鍛練を行った。そして冒険者となり、探したが人間の地域には彼女はいなかったんだ」
「か、彼女と余は。な、なにか関係があるのだろうか?」
「………怒らないで聞いてほしい。占い師にネファリウスと言う魔王を助けると魔王の助けで魔族での探索が楽になり見つかると聞いた。『絶対、ネフィアに会える』てな」
「そ、そうか……はは、それで余を助けるのか。彼女に会いたいために」
「すまない。利用してるんだ俺は君を」
思っていた事と違い。自分は目眩がする。この姿になったのも納得もする。夢魔として能力が暴発したのだろう。だから似ている。
「隠してた理由は。利用してるからだったんだ」
「はは、うん。余も利用してるから。いいんだ別に」
「そっか。ありがとう。そして、ごめんな」
優しく微笑んでくる。その微笑みから目を剃らす。何故だろう、直視が出来ない。何故だろう、知りたかった事だったのに嬉しくない。自分にはわからない。
「ネフィアって名前つけてすまないな」
「はは、気にするな。そんなに努力してるのに会えないなんて運がないな」
「ああ、運がないな。会いたいな……会って確かめたい」
「………もし、会えなかったら?」
「『会える』と信じてるから大丈夫。絶対会える」
「そうか。わかった。お前は変な奴だ。あったことがない女を追いかけるなんて」
「知ってる。変な奴で、醜い奴さ」
「頑張れ、勇者」
「おう………頑張る」
「ちょっと風に当たってくる。ワイバーンで火照った体が冷めそうにない」
「わかった。すまないな隠し事して。これからはお前になら何でも言えると思うよ。気が軽くなった。ありがとう」
自分は席を立ち酒場を出た瞬間。勢いよく走る。「見られたくない!!女なんて嫌だ!!男に戻りたい!!」と泣きながら自身を呪う。もう、この感情の理由がわからないのに涙を流したくも泣きたくなかった。
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