第23話・魔王の探検終
4日目は騎士団と合流した。ボコボコにした騎士団員はこそこそと隠れているのを横目に隊長らしい人に俺は声をかけた。
「終わったぞ。ほれ、地図。盗賊ギルドの連中は全員死去。奥になんかあったけど依頼外だ。見てくるといい」
「早いな!? 野営地はまだ杭を打ち込みむので手が一杯だ。まだまだかかる」
「じゃぁ俺らは帰る。保存食と医療品置いてくから使ってくれ。部下によろしくな」
「すまない。奴は彼女と別れたばっかりだったからムシャクシャしたんだってな。しかし、いいのか? 奥の物を持って帰らず」
「俺らはいらない。必要な所に渡すだけ。依頼主だし、元騎士だからあんたの苦労も分かる」
「かたじけない」
ネフィアが用意した皮袋を騎士の隊長に渡す。
「どうぞ、騎士さま。あの方にも新しい彼女が出来ればいいですね」
「な、なんと………優しい………」
「でわ、私たちは行きます。ご武運があらんことを」
祈るふり。人間の女神なぞくそったれだが喜ばれるのでやるらしい。
「はぁ……なんと清きプリーストだ」
「ごめんなさい。魔法剣士です」
「そ、そうなのか。いやぁ聖職者より綺麗なので」
褒めてるのか聖職者を揶揄してるのか考えさせられる。
「それでは失礼します」
馬に乗り手を振ってその場を後にする。馬を並べ都市へ向かう。
「お前、あんなの何処で覚えてくるんだ?」
「聖職者がやってたの真似たんだ。喜べ軽い回復魔法を覚えようと思ったんだ。便利そうだから」
昨日、傷だらけの体を見られた。これからもきっと傷だらけになるだろうからと考えての事だろう。
「便利そうだが………祝詞だぞ?」
「大丈夫、聖職者の奴等も神様なぞ金儲けの方法らしい。酒場で聞いた。信仰無くても使える」
「そうだけどな。お前は仮にも魔王だったんだぞ?」
「勇者らしくない勇者がいるのに魔王らしくない魔王がいない訳じゃないだろう?」
「確かに……ははは」
「ふふふ」
道中は本当に平和で。俺は嬉しくて口をずっと押さえていた。
*
ついたのは夜中。ご飯も食べずに走ってきたので酒場に顔を出す。ちょうど紫蘭が葡萄酒を飲んでいる所だった。
「あっ!! 紫蘭さん」
「その声は、ネフィア殿とトキヤ。何か足りないものでも補充に?」
「いいや、終わったから帰ってきた」
「終わっただと!? バカな!? 早すぎる!! 後輩たちは!?」
「置いて帰ってきました。まだ杭を打ってる最中です」
「………本当に終わったのか?」
紫蘭が勇者の顔を覗く。近いのにヤキモキする。
「これが今、騎士が持っている地図の複写だ。魔物は蜘蛛類の巣。無機物のデーモンだ」
紫蘭がその地図をカウンターに広げる。赤い線が引いてあり、そこが正解の道だ。
「なるほど。ダイヤ以上の働きだ。ルートまで見つけるなぞ。短期間で2月程かかる依頼料金を貰ったのにこれでは……まぁいい、明日払おう」
「おっ? いいのか?」
「1か月分な」
「いいや、2ヶ月。儲けてるだろ? 依頼を出してる時点で儲かる。それに奥の秘宝は手を出してない」
「………わかった。いいだろう。明日、取りに来い。騎士にはその旨を伝えたか?」
「もちろんだ。あっちの方が早い。しかし、人が足りないだろう」
「ギルド長から直接依頼を出して冒険者を募る。明日、向かわせる準備をさせ取りに行く。騎士団より先に取らないとな。あっちはもう知っているのに動きが遅いのがいけない。いいや、駐留所が出来て探すのが本来の目的だな。お前の仕事が早すぎて出し抜けるのかぁ……ビックリだ」
「じゃぁ2ヶ月でいいな。奢ってやるよ」
「もちろんだ」
一瞬のやり取りを聞いていたが。自分が入り込める事じゃないのがわかる。両方が儲かっている話なのだろう。そんなことより、ご飯ほしい。
「お腹すいたし、なに食べましょうか?」
「マグロの刺身ある? おっ? ある!! じゃぁ大トロ!!」
勇者が叫ぶ。店の人が言うには今日獲れた物らしい。
「大トロ?」
「魚の脂身だ。美味しいぞ」
「豪勢だな、私も貰ってもいいかい?」
「どうぞ」
店員が白と赤の入り交じった物を用意する。「箸」と言う物で二人は食べるのだが、自分はフォークで刺して頂く。口の中でとろける感触。魚と言う物に命を賭けても獲る理由がわかった。言葉は不要。うまい、うまいから取る。
「あー明日は何をしようかな」
「仕事を回してやろう。こんなに早く終わると思わなかったから明後日来てくれ。用意する………本当に腕がある冒険者は仕事が入ってくるな。金には困らんだろう?」
「いや……めっちゃ困ったぞ。稼げども稼げども足りなかったから。お金は鍛冶屋につぎ込んでる。まぁそれで、昔は大変だっただけ。そんときにドラゴンを狩ったんだよ」
「そうか、金稼ぎか」
「貧乏だったのですね」
まぁ、昔の話だろう。
「今はなんで稼ぐんだトキヤ」
「紫蘭。こいつが食うのが好きなんだ」
「は、はい。お恥ずかしながら」
「餌付けかい?」
「もちろん。食べてる姿が幸せそうだからねぇ」
「そ、そんな!! 食いしん坊みたいじゃないですか‼」
「ネフィアは食いしん坊だろ? ここの国で食べたもの思い出せ」
いっぱい思い出せる。あれやこれやと。
「……はい。私は食いしん坊です」
「ははは……いっぱい食べて鍛えような」
「はい!!」
元気いっぱい返事を返した。ネフィアとして。
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