第24話・アクアマリンの買い物
都市に帰って来て我々は多くの資金を得る。勇者がすでに一級品のレベルになっているので簡単なだけだろうことだが本当にこいつが魔王を殺す勇者じゃなくて良かった。だから今、思うのは絶対勝てない事。すでに勝つのを諦めた。木の棒の訓練も避けれるようになったが実戦は違うだろう。絶対に勇者に負ける自信がある。逆にその絶対の強者が我に安心をもたらされている。
だからこそ、回復呪文を早く覚えたい。
「何しようかな………」
朝起きて天井を眺める。上段は自分が、下の段は彼。二段ベットは上と決まっている。初めての2段ベットはすごくワクワクした。奇跡の本を読み、回復呪文を頭に入れる。
「何するかな。おい!? ネフィア、スカートはだけってぞ!! あぶねぇ!!」
我の足を見て勇者がたじろく。我も慌てて隠した。
「うわっ!? えっと……エッチばか」
「不可抗力だからな!! そんなことより一日暇だし。商店行こーぜ。鍛冶屋は次の依頼が終わった後だな」
「鍛冶屋?」
「いい鍛冶師がいる。お前の剣を鍛えた人だ」
我の剣はただの剣ではない。火が出る。
「あってみたいな‼ こんな業物を鍛える御仁はさぞ凄いのだろう‼」
「気は難しいがな………敵の騎士にも武器作るし壁の外にすんでるんだよ。まぁ今日はいかねぇーがな」
「よし、商店で遊びに行くか」
二段ベットから降りる。足元の靴を履き、剣を腰につけて準備を終える。
「じゃぁ行くとしようか勇者よ」
「お、おう。昔に比べて動くなぁ……これが本来のネファリウスなのだろうな」
「その名前は今はどうでもいい」
我は自分の名前を見捨てて二人で商店に出向く。弱いネファリウスとはお別れしたいほど。いい思い出のない名前と思うのだった。
*
外へ出るとむわっとする熱に顔をしかめる。夏らしく日差しが強くて肌に痛みを感じるほどに熱される。
「待て………風で防ぐ」
「いつも、ありがとう」
勇者が自分達にエンチャントを行う。内容は暑さのシャットアウトと日差しによる温度上昇分の放熱だ。快適である。ほんとに便利であり、これがあるからこそ勇者が楽に砂漠に越えられるたのだろう。
「はぁ、お前と出会って季節感が無くなったぞ。夏でも風で全然快適だからな」
「暑いのがいいか?」
「汗もかくし、臭いも気になるからやだ。特に体臭がな」
「理由が女の子らしいんだけど?」
「冗談冗談、暑いのが嫌なだけだ。人間でも魔族でも変わらん」
本当は少しは臭いを気にする。「臭いのは嫌だな」と勇者に思われるのが嫌だ。そんな内情を知らない勇者と二人で商店の通りへ馬車で移動した。今回は色んな物を見て回ろうと思う。
「そういえば、お前。回るはいいけど買うものあるのか?」
「ない。ただ一緒に行くだけ」
「完全な暇潰しなんだな」
「ネフィアと一緒に回ったら楽しい。楽しくない?」
「楽しい………おい!! 何を言わせる!! 笑うなぁ!!」
勇者の背中を強く叩いた。「くそくそ!! 恥ずかしい」と文句を言いながら叩き続ける。勇者は満面の笑みだ。
「へい!! そこのカップル!! 彼氏さん!! 彼女にプレゼントにどうだい?」
出店のおじさんの声を聞きそちらを見る。出店に綺麗な宝石を並べており、活気のいいおじさんが笑みで手招きする。
「残念、彼女じゃないんだ店主」
「へぇー仲が良さそうに見えたけどねぇ」
「………違います」
そう、違う。余は勇者が求める捜し人の「彼女」じゃない。そう言い聞かせる。では、「余は勇者のなんなのだろうか?」と思うが。それは答えがわからない。
「まぁでも!! アクアマリンの名物、アクアマリンの宝石はどうだい? 自慢の物さ」
「宝石………」
綺麗な青色の宝石が並んでいる。ここぞと言うばかりに店主が営業を行う。流暢に説明してくれる。
「アクアマリンは海に投げ込むと消えてなくなってしまうんだ。だからこれは海の力がそのまま石になった物なんだよ。海の御守りとしてこの国じゃ漁師はみーんな持っているね!!」
「持っている奴は屈強な奴も多いな」
「そそ!! それに女性への贈り物でも人気が高い!! どうだい? 悪くないだろう?」
きっと、自分に営業をしているのだろう。一個ペンタンドのダイヤの形をした蒼いアクアマリンは綺麗だと思う。思ってしまう。だが、自分は男だ。
「ごめんなさい。良いものですから高くて手が出ません、本当にごめんなさい」
「すまない、手持ちが少ないんだ」
「あら……残念………うち、証明書しっかりしてるから値段張るからなぁ」
頭を下げ、その場を去る。男なんだ自分は。
「なぁネフィア?」
「………」
「おーいネフィア~」
「……………」
「ネフィアちゃーん」
「……………………」
「ネファリウス」
「うぉ!? な、なんだ!! その名前は危ない‼」
「上の空だったぞ?」
「な、なんでもない。それよりクレープ食べようぜ!!」
「いいな!! 食おう。あの店でいいな、今回は」
「ああ」
クレープとは粉と塩を混ぜて薄く焼いたパンみたいな物。イチゴジャムを包んで食べると美味しい。出店で売っている中のおやつ、朝飯として好みだ。店の前で二つ頼み、銀貨を2枚渡す。なかなか値段が高いのがちょっと残念ではあるが美味だからこその値段だろう。
「ほれ」
「ありがとう」
勇者が買ってきた物を手渡してもらえる。そのまま広場の噴水前へ行き、観光客用のベンチに腰をかけた。広場まで、けっこう歩いたと思う。
「ふぅ、一息入れよう」
周りを見ながらここの広場は変わっている事を再確認する。中央に噴水がありそこから網目のように水が流れて海に戻っていく。舐めるとしょっぱいので海水らしく、魔法石が中央にあることを考えると海から汲み上げているようだ。
景観のためにある施設。あとは海水を汲み。真水にして飲料用にするのだろう。お水精製した物を格安で売っていた。
そしてベンチで休憩できるようになっているが我々以外の観光客の皆は日陰の場所で休んでいる。日差しが暑いからだろう。
「ネフィア。ちょっと用事があるからここで待ってろ。絶対動くな。拉致られるな」
「バカ!! 余はそこまでお間抜けではない!!」
「前科一犯」
「うるさい!! ここで待っていてやるから早くいけ!!」
今度は遅れを取らない。余は強くなってる。
「じゃぁ………ちょっと待っててくれ」
勇者が走って元の道へ帰っていく。一体何を考えたのやら、わからなかった。
「なんなんだ全く。あっ………勇者が離れたから暑い。切れたな魔法」
周りを見ると噴水に足をつけたり、大きい噴水の周りで子供がはしゃいでいる。観光客も海水に足を浸して涼んでいた。
自分もそれを見てベンチから移動し、素足になって流れに足を入れる。入れた瞬間、思った以上に冷たく。きっと地下を通って汲んでいるのだろうから冷やされてここに来ていると考えた。
「…………あーん」
余はクレープを食べながら暑さに耐える。自分の足をまじまじと見て本当の「白く健康的な綺麗な足」と感想を抱いた。「本当に女だな」と思う。勇者がドキドキする理由もわかる気がした。
「………隠した方がいいな」
勇者にとって目に毒だ。自分が自分の足にドキドキするんだ。勇者はもっとだろう。夢魔の力が強くなってる。
「しかし、はぁ………平和だなぁ」
雲一つない青空を見上げて呟く。あの閉じ込められていた暗い部屋と大違いだ。あの日から想像できない日々を過ごしている自覚がある。
「これが、夢で………起きたらあの暗い部屋の中だったら嫌だな。彼は自分が作った幻影とか」
それは本当に嫌だ。あのときに戻りたくない。でも夢じゃない。
「………おっそいなぁ」
「お待たせ。ごめんって……風出すから」
「あー涼しい~おかえり」
勇者の声が後ろで聞こえる。水から足を抜き、乾かすため女座りをする。他の座りかたは中が見えてしまうためだ。
スッ
そんな座っている自分の目の前に勇者がペンタンドを見せる。綺麗なアクアマリンの宝石が吊ってあり、青空のように煌めいていた。あの店で一番綺麗だなと思った物だった。
「えっ?」
頭をあげて勇者を見ると、勇者の顔が頬が赤い。
「プレゼントだ」
「あっ………女扱いするな!! 別に欲しいとは言ってない!!」
「御守りだ!! 俺も同じの買った!! もし、俺の偽物が現れたらアクアマリン持っているか聞け!! 魔族にはいるだろうからな、変装が得意なやつ。俺も聞く。約束な」
それは我の夢魔の事を言っているのだろう。確かに変装できるかもしれない。持っておくにはいい理由だった。
「………確かにいるな。わかった。確認のためと御守りだ。アクアマリンなぞここでしか買わないから。いい確認方法だな」
勇者の言い分はもっともだ。だから、自分は両手のひらでそれを受けとる。手のひらに綺麗に輝く青に胸がときめいた。
「あーあ、喉乾いたから水買ってくるわ。いるだろ?」
「………うん」
勇者が何処かへ行く。勇者を見ずに風で音を拾い。離れたことを確認する。両手で掴んだそれを眺め続ける。
「なんで………どうして………こんな石ころで……こんなに私はうれしいのだろうか?」
胸の前に持っていくと胸の中に熱を感じ、口元は自然と笑みを浮かべた。
「はは、これじゃ女じゃないか………はは」
大丈夫、男にまだ戻れる。戻れる。そう言い聞かせた。しかし、どうにも、何も。すぐに戻りたいと言う熱がゆっくり失われつつあることを自覚していく。
「……もう少し。ネフィアでいようか」
夢魔の力で余は戻れるだろう事を最近やっと、わかってきたのだった。
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