第22話・元魔王の探検


 探索開始日の1日目、紫蘭からの依頼の一つを受け、今は連合国騎士団と共にその依頼を行おうとしている。預けていた馬ともう一匹買い付けてアクアマリンの数人の騎士と共に都市を出たのが早朝。そこから南下し、舗装されていない道を進む。


 道中で弱い数メートルもある液体状の魔物に出会ったが馬で走り抜けた。それ以外ではそこまで足止めを食らう事はなかった。


 到着は太陽が沈みかけの時刻となり。馬で走っても半日ではいけない場所である事を再確認。時間も遅いので探索は明日となった。夜営の準備を行い。夜食はベーコンの薫製と柔らかいパンを食べる。


 短期間なので長持ちする食料は持ってきていない。薫製ベーコンだけである。そして騎士に夜。言い寄られたが、勇者と一緒に殴って蹴り飛ばした。





 2日目の探索。今日、本命のダンジョン探索である。依頼内容は最近発見された遺跡ダンジョンの地図作成と先行の軽い調査だ。依頼者はアクアマリンの国。


 そして、もうひとつ。盗賊等盗掘者の始末するために騎士団を駐留させたい。なので騎士団を同行させ、探索を直接報告することになっている。勇者と自分は探索の準備を行う。


 騎士団たちは木を切ってテントや壁を造り。駐留箇所を作り、後続に備える。我々は軽装に身を包んでの先行探索だ。


「探索ってなんでダイヤ以上なんだ? 誰だって出来るだろう?」


「いいや、一人二人じゃ誰も出来ない。良いことを教えてやろう。戦争で威力偵察で放った場合。何割生き残る?」


「………5割?」


「1割以下。1割生き残っていればいい。敵もバカじゃない、全力で殺してくる。ダンジョンもそうだ。一人でも生きていれば情報が共有できる。数を沢山用意すればいいな」


「そうすればいいのか? なら何故………やらぬ?」


「戦争の爪痕で人がいないのさ。人がいないのに殺してどうする? それに『死にます。いきませんか?』と言って集められるか?」


「あーなるほど。大切な人材、死にたがり以外に来ないから無闇に頼めないのか……」


 二人で話ながらダンジョンの入り口まで足を運ぶ。周りは朽ちた石材の建物が建ち並び草に覆われ、石の足場の間から小さな小川等が流れている。魔物から護る壁もないの昔の建造物だ。


 最近になって地下の入り口が見つかったらしい。だが、盗賊ギルドに先を越されていると噂がある。出会ったら戦闘だ。


「ここが、そうか」


 大きな大きな口を開いて冒険者を飲み込もうとするダンジョンの口。中は真っ暗だ。幽霊出るだろうから背筋が冷える。


「幽霊いそう」


「いたら、喰うだけ」


「………お前、喰う言うけど。倒すことを喰らうと言葉を兼ねているんだよな?」


「そうだけど?」


「そうか、てっきり幽霊を食べるのかと思ったぞ」


「ああ、美味くないからしないけどな」


「んんんんん!? 含んだ言い方。どっちだ?」


「ほら、魔法を唱えるぞ。じゃま」


「あっ!! わかった。音は任せろ」


 余も風の魔法を唱える。


「よし、行くぞ」


「音拾い」


「風読み」


 ダンジョンの中に向けて魔法を唱えた。勇者は風を流して姿を探し、自分は音を拾う。中は幾多の足音が響いていた。風魔法は便利だ本当に。


「魔物がいる。足音、複数。数までわからない」


「ええっと、こっちは降りる階段までは見えた。魔物はいない。どこまで拾えた?」


「わかんない」


 勇者が地図を書く。直線の階段、そこから分岐している。マッピングという物だ。


「迷路かもしれない。戻れなくならないように印をつけて進む。ゆっくり……ゆっくりとな」


「わかった」


 ダンジョンの口の中へ入っていく。魔力のカンテラを腰につけて照らし進んだ。分岐についた瞬間勇者が目を閉じて魔法で確認する。


「今から長い詠唱をするから警戒してくれ」


「うむ。音拾い………」


 勇者が跪き黙々と呪文を唱える。足元に緑の魔方陣が広がっていた。それが、複数生まれ魔力の増幅を感じる。多段詠唱と言う高等テクニックだ。


ドン!! カサカサ


「何か来る!?」


 耳元に近付いてくる足音が聞こえる。重量のある。恐ろしいほど力強くなにかを擦る音。廊下の奥を覗く。暗くてなにも見えないがずっと奥に確かに何かがいる。自分は時間があることを利用し魔法を詠唱。詠唱時間を長くして威力を上げる。


「ファイアーボール!!」


 片手に廊下を埋めるほど大きな炎の球を生み出す。それを打ち出した。炎の球が回転しながら進み。通路を照らし出しながら進んでいく。


「音拾い!! そこぉにシュート!!」


 そして曲がり角で炎を曲げる。音のする方へ誘導し、そして………耳元に。


ドゴォオオオオオン!!


 着弾音を確認する。魔物の動きがない。目標沈黙。


「よし、他にもいる!!」


 同じように索敵。そこからもう一発用意し打ち出した。音の魔法は本当に便利だと思う。一方的に見つけていける。


「よし、出来た。風見!!」


「うわぅ!? ちょ!!」


ブワッ!! ペチ!!


 ダンジョンの中を風が巡っていく。強い風に煽られ、転けた。痛い。スカートがはためき、倒れた余を勇者は手を伸ばしてそれをつかむ。


「やるならやるって言え!! くそばか!!」


「すまん、すまん。よし、全部の空気を入れ換えまで時間がかかるが。図面は出来た」


 勇者が目の前に魔方陣を生み出してマップを表示する。その細道一本一本がゆっくりと表示される。迷路になっており、風に魔力を乗せて張り巡らしたのだろう。


「凄い………もうマッピングが終わったのか?」


「書き写しがある。はぁ………1日かかるだろう」


「何故、迷路が?」


「宝石を取られたくないから迷路にする。珍しい事じゃない。防衛手段さ」


「宝石があるのか?」


「わからない。ゴーレム、デーモン、スケルトンがいれば確実だ。特に個人的な理由でデーモンは好きだ」


「ふむ。じゃぁ………写してる間、暇潰しで魔物を倒す」


 今さっきと同じように音を拾い。そこに向けて炎の球を走らせる。着弾させて魔物の数を減らして行く。


「………ネフィア。凄いな」


「えっ!? 今なんて!? 褒め称えたか!!」


「凄いな、その発想。音で索敵したのを倒すなんて。それと魔法を操る技量もすごいなぁ」


「ふふふ!! もっと誉めてもいいのよ?」


「凄い凄い!!」


「へへへ!!」


 やっとやっと褒めてくれた気がする。その日は、ダンジョンのお掃除と書き写しで終わった。そのままダンジョンの出口で夜営をし明日に備える。





 3日目は雨である。ダンジョンに入らないよう返しがついていて水が入っていかない。しかし、階段と廊下に一応水抜けようの側溝が掘ってあり、マップを見ると大きなフロアがあるらしい。


 地下水がそこに溜まっているのではないかと予想がたてられる。マップを使い探索。勇者が描いた物を元に最深部を目指す。


「一応、二人のパーティだ。前方は俺、後方は頼む。気を付けて行くぞ」


「わかった」


 二人で最初の分かれ道の右を進む。左は全て行き止まりだ。手元のカンテラで照らしながら進む。余は魔法で音を拾いながら気を付けていた。


「あーいないねぇ」


「いないなぁ……あっ。まて」


 通路の先に黒い生き物が見える。近付くと焦げた臭いが鼻についた。蜘蛛のような魔物だが死んでいる。小さい蜘蛛もおり、多くの亡骸が転がっている。


「あーここは巣か」


「うえっ………キモい」


「大きくなるとキモいな。先は長い。印を残しながら行くぞ」


「うん、音拾いしながらついてく」


「そうだな。それよりも……ネフィアは俺より拾える範囲が広い」


「まぁ……うん。そうだな。あー先に1匹いる」


「直接、攻撃する」


 勇者に話を盗み聞くために頑張った結果だ。そして魔物がちょうど通路の先にいる。奥は明るく、姿が見える。発光している生き物だ。


「あれは………デーモンだ」


「あれが?」


 牛頭に斧を持って歩いてくる。明るい理由はデーモンの近くに魔力の塊が浮いていた。カンテラと同じように魔力の力で照らしているのだろう。初めて見たデーモン。しかし、英魔の悪魔族の上位のデーモンとは違うようだ。牛の頭に石の大斧を持ってる。


「ぶほ。ぶおおおおおおおおお!!」


 我々は視認され、デーモンが叫ぶ。


「下がってろ、炎の球でも用意して」


 勇者が背負ている剣を掴み鞘から抜き、片手でもち歩く。デーモンが声をあげて走ってきた。それに呼応するように勇者の歩がだんだん早くなり走り出す。


「ぶもおおお」


 デーモンが石斧を降り下ろし潰そうとする。勇者が両手で剣を持ち。下から上へ振り上げ、斧に下から真っ向でぶつけた。


 廊下の中央でぶつかり合い、ダンジョンが揺れる衝撃が生まれた。自分が持っているカンテラ大きく揺れて衝撃の強さがわかる。


ガキン!!


 そして、デーモンの斧が砕け散り、上に弾かれる。その隙に勇者が懐へ入り込こんで大きく横に切り払い。素早く再度デーモンの股から剣を振り上げる。


 十字に切られたデーモンの動きが止まり石になり、砕け、砂になった。そのまま勇者が自分の元に戻り、投げていた剣を鞘に収めて背負い直す。


「デーモンが力負けした!?」


 恐ろしい光景だった。はるかに体が小さい筈なのに。力負けをしない。しかも一瞬で屠った。


「さぁ行こう。この先にあるらしい」


「う、うむ」


 軽く勇者の強さに引きながら。自分達は歩を進める。途中、白骨した死体と。至るところ噛み後がある倒れている人を見つけた。もちろん、死んでいる。盗賊ギルドのメンバーだろうと勇者は言う。


「まて、ネフィア」


「どうした?」


「奥を照らす。ファイアーボール」


 勇者が手で制した後に右手でファイアーボールを放った。壁に穴が開いてあり、地面には矢が転がっている。


「壁から矢が出る罠だ。迂回しよう………迂回して通れる」


「考えて作ってるね。知らないと引っかかる」


 迂回し、奥を進んだ。魔物にも会わず、順調に進み壊れた扉が見える。中を確認し、色んな物が大切に保管されていたが一個も取らず。きびすを返した。印を頼りに入り口まで戻る。結局、2日で依頼が終わり。勇者の腕の高さを垣間見たのだった。






 その夜。雨は上がり、ジメっとした空気。報告は「明日でいいだろう」と言うことで二人でご飯を作る。作ると言っても焼くだけ。薫製の腸詰めとパン。しかし今回はマスタードがある。それを塗って挟んで食べる。


 薫製されたウィンナーのパリッとした皮と桜と言う木の薫製はほんのり花の香りがする。勇者はわからないようで、余の方が舌が繊細だとわかった。


「あぁ美味しい」


「本当に幸せそうに食べるね」


「美味しい……なんで?」


「いや~俺に聞かれても。花の香り。桜……もう春も終わって暑い夏だしなぁ。見せたかったけど来年だな」


「ふーんそんなに綺麗なんだ」


「ああ、凄く綺麗だ。まぁ俺は……いや、なんでもない」


「………また『彼女』と見る方がいいと思ってる?」


「もちろん」


「そっか~」


「何か? 含んだ笑い方だな? あっそう。雨でジメッて気持ち悪い。風呂でも入るか?」


「別に~なんでも。ん? えっ? お風呂?」


「ああ、お風呂。どうする?」


 泥まみれより、さっぱりするから入ってみたい。それに最近は綺麗にしないと、気が気でない。


「うん、入る。うん…………はぁ…………」


「溜め息ついてどうした? やっぱ疲れたか」


「うん………疲れた」


「じゃぁ早めに作るよ。石畳の綺麗な底材を捜してっと」


 勇者が立ち上がり呪文を唱えて水を生み出し。石畳を洗う。底に魔方陣が浮かび上がり、洗った水とは別に四角に固定される。


「えーと水の温度が9度。いい温度まであげたいから………1リットルで必要な熱量は………よし」


 四角の透明な水の箱から湯気があがる。自分は隣で見ていたのだが何をしているのかわからなかった。火でお湯を作ってない。


「なんでお湯が?」


「風から温度もらってるんだ。風が冷たいぞマイナスだ」


「さぶぅ!! わざわざ風をぶつけんでいい!!」


 めちゃくちゃ冷たい風が体にあたった。


「ははは、さぁ入ればいい」


「お、おう………覗くなよ」


「覗かない、覗かせないから安心しろ」


「うむ………覗かないか」


 『残念だな』と何故かそう思い首を傾げながらも、軽装の鎧と服を脱ぎ暑めのお湯に入るのだった。




「入り終えたぞ」


 武具を手入れしている勇者に声をかけた。鎧は脱いで服だけである。タオルは何故か持って来ていた謎が解ける。何処でも風呂が入れるからなのだろう。


「わかった。俺も綺麗にする」


 自分は髪を丁寧にタオルで拭き取る。火の魔法を使い。小さな火球でゆっくり乾かす。そのあと、毛先を小さな鋏で切る。こうすることで痛んだ先の毛を捨て、ゆっくり髪を伸ばすのだ。


 もう伸ばすことがないので気にせず切り揃える。


「ふふふ~ん♪」


 夏の風がちょうど火照った体を冷やし気持ちいい。鼻唄混じりで髪を整えハッとする。


チャプ


「あっ? えっ?」


 勝手に風の魔法を唱えてしまったようで勇者が入った水の音が聞こえるてしまった。暴発するぐらいに体に馴染んでいる。


「………なんで? でも、ちょっと覗いても」


 髪の手入れをやめ、立ち上がりこっそり湯船に浸かる勇者を覗く。逞しい堅い体と幾多の傷跡。それがカンテラで照らされている。


「…………何してるんだろ、『私』」


 少しして、髪の手入れに戻るのだった。本当に何してるんだろう。




















































































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