第21話・アクアマリンの冒険者ギルド
次の日。連合国の冒険者ギルドに顔を出す。連合国冒険者ギルドの建物は移住区と商業区に複数あった。帝国とは違って酒場と隣接して大きいだけの施設。帝国のは城一つがギルドで多機能だっただけに帝国の規模の大きさ再確認した。
そしてギルドに来た理由は仕事をするためにはギルドの受け付けに頼み登録しないといけない。いい条件の依頼を回してもらうためにも酒場に居ると言う事を知ってもらうためだ。出来る事が多い勇者のお陰ですぐに依頼は来るだろう。自分が先に登録する。黒髪ポニーテールのきつい目の受付嬢が対応してくれる。ビックリしたのは片腕がなかった。
「では、ここに滞在期間を。気にするな片腕のことは、戦争の怪我だ」
「あっはい!! すいません」
「いや、いい。慣れている。みられるのはな」
落ち着いた芯のある、片腕でも強い大人な女性だ。
「冒険者ランクは普通のシルバーか」
「はい」
マクシミリアンの依頼によってランクが上がったらしい。ブロンズ、シルバー、ゴールド、ダイアの四種類が基本だ。
ダイアはギルド長がそのランク帯らしい。なので大体3段階。ダイアより上が有ると言うけど。それは余り知られてないらしい。そういうこと勇者は知っていたので教えてくれた。勇者はゴールドと言っていたが、それを知っている事が嘘をついていると察する。
「じゃぁ、仕事があれば呼ぶよ。ネフィア殿」
「あっ待って欲しい。パーティーが居るんだ。おーい!! 登録済ませたぞ‼ お前も同じ内容なんだから早くしろ‼」
「ああ、悪い。薬を買っていたんだ。これがないと辛くて辛くて」
「病気でもないのに薬なぞ……」
「性欲抑制剤はいる。絶対」
「……………おう。絶対飲め」
いつも飲んでる薬はそういうのだったかと納得した。病気かどうか不安だったが、杞憂に終わる。約束は守ってくれるのだ。男として襲わないと約束してくれている。
「はい、これ。おれのカード。ん? きみは……」
「ん? お前」
勇者が身分証を提示し、目を細める。相手も身分証をしっかりと見ている。二人は知り合いなのだろう。
「ネフィア、頼むがあっち行ってろ。古い仲だ」
「お、おう。わかったぞ」
緩い雰囲気から一辺。真面目な顔で言われたので渋々離れる。酒場の空いている椅子に座り、自分はこっそり魔法を唱えた。酒場で紅茶を頼みながら横目で見る。
「音拾い」
教えて貰った魔法を発動させる。音を細かく拾うだけの魔法だが、隠し話は聞きやすくなる。風魔法の応用らしいが、何故かこの応用だけはスッと覚えれた。
自分は拾う音を酒場の人間の声が聞こえるが削除していき、勇者と受け付け嬢だけに絞る。
二人で見つめ合う姿に嫌な気持ち、ワケわからない憤り、嫉妬などの感情が湧きながらも。平静を装い。押さえて盗み聞いた。少し勇者が違う顔をしている。いつもと違う冷たい表情で口を開いた。
「ここで、会うなんてな。ガーベラ騎士団の騎士」
「同じく、帝国の『魔物』黒騎士が何のようだ?」
「黒騎士は抜けた。今は、冒険者。そっちは受け付け嬢かな? 抜けたのか?」
「…………ふ、片腕切り落として言う台詞はそれか?」
自分は驚き、口を抑えて落ち着かせる。「切り落とした!?」と声が漏れそうになったのだ。
「何か言ったらどうだ?」
自分は息を飲む。知り合いどころの話じゃない。それよりも、勇者を知れるチャンスっと思っていたのに加害者だとは驚いた。これは聞いていていいことなのかどうかを悩むが結局、盗み聞き事態。誉められた行為ではない。
しかし、自分は何があったかを。彼の過去を知りたがっているため。悪いと感じつつ、聞くことにした。
「すまない………そうだったな」
「ふん、仕方がない。それが戦争って奴だ。お前を倒せなかった私の実力不足だったのさ。お前は私に勝った」
「いいや、実力は同じだった。ああ、強かった。戦場のガーベラ騎士。名前は知らなかったけどな。こういうところで出会うんだなぁって本当にわからないもんだ」
「トキヤっと言うんだな、お前………」
「よろしく。ガーベラ騎士団の名騎士様の名前は?」
「紫蘭だ」
「紫蘭かぁ。俺と同じ東方の民の出だったか」
「いや、アクアマリンの民だ。そういう名前をつける奴がここにもいる」
「ふーん。積もる話もあるだろう。今夜、どうかな?」
「ふん。よかろう。強敵と飲む酒の味はいかほどの物かな?」
何か、仲良くなってる。昔から知っているのだろう。勇者を知っている事に少し妬ける。妬けると考えて自分の心情に驚き。唇を噛んで落ち着かせる。
そんな中で勇者が戻ってきた。少し複雑そうな顔をして自分の前の席に座る。だが、彼は彼女との事は一切話さなかった。
*
受付時間が終わり。酒場が活気づいていく。一枚の紙に目を通す。
トキヤと言う冒険者の身分証の写しだ。こいつは黒騎士の注意人物。黒騎士団は死神たちと言われ恐れられていた。そんな中での一人だ。ネームド「魔物」と言われ、恐ろしい力で多くの騎士を屠っている。
「抜けて、ドラゴンでも狩ったのか………冒険者でもネームドじゃぁないか」
冒険者のランクにダイアと違った物がある。ダイアはギルド長になれば貰えるし、ギルド長と同じランクの人物でも贈られる称号だ。だが、別にネームドランクと言うものがある。
物差しで計る以外の物。何が出来るか分かりやすくするために付けている。知っているものは少ない。持っている者が言い触らすこともないためそのランクはレジェンドランクとも言われている。出会うだけでもビックリだ。
「ドラゴンキラー」
ランク名に分かりやすい、何が出来るかを記入していた。竜を狩れる者ほど強い者。
「戦争が終わっても戦い続けて居たんだな」
このランクは並々ならぬ努力をしなくては取れない物。コネや金などでは取れない。本当にドラゴンを倒しているのかもしれない。だから、こそ。
「トキヤと言ったか………どんな話を聞けるのだろうな」
失った左腕のを撫でるように触る。長く、失った物。何かと一緒に失くした物を思い出せるといいかと考えて。
*
夜中、勇者が一人で出掛けると言う。それを見送るわけだが。自分はすぐに支度をする。そして魔法を唱えた。
「音拾い」
勇者の足音を拾い。遠くから尾行する。あいつがあの女性と会いに行き一緒に酒を飲むらしい事は知っている。昔を知れるチャンスだと考える。「決して気になる訳じゃない。喋らないあいつが悪い」と言い訳を心の中で考える。
「くぅ!! 男の余が何故こんなことをコソコソと。まぁ黙って待つよりかいいか。そうだネフィアが知りたがっている。そうそう余ではない余ではない。誰かが知りたがっているのだ」
言い聞かせながら酒場に入り、中で勇者の声を拾う。
「紫蘭さん遅くなりました」
「さん付けだと!? トキヤ、お前は普段そんななのか?」
「そ、そうですが?」
「はぁ……悪魔、魔物のような男と思っていたぞ」
自分は心の中で「それは、自分からも言うが。中身は悪魔だぞ。まぁ………余以外の者に対してだが」と考えながら酒場の外飲み用テラスで店員に葡萄酒を頼んだ。盗み聞く風の魔法は便利で片手間の情報を収集できる。
音を拾うだけなのにこんなにも便利な魔法を知ることが出来てよかった。
「悪魔で魔物ですから。当たりです」
「ふむ。元気だな異様に。あの戦争で精神が病んだ奴も多いのに」
「確かに、歪んだ奴が出てきた。俺は元から歪んでたから変わらないんです」
「………自分を卑下するな、お前」
「心持ちだよ。俺は何も出来ない。『才もない運もない力もない』と思い込んでる。だけど一つだけ一つだけ。これだけは絶対に出来ると信じている物があるんだ」
「何を信じている?」
沈黙。長い沈黙。自分も盗み聞きながら息を飲む。
「彼女を助ける事しか出来ないと信じている。それしか俺には出来ないと律する。絶対にそれ以外を今は求めない」
いつも遠い目をして語る『彼女』の話だろう。いつも、たまに話をしてくれる。『彼女を捜している』と教えてもらっている。
「今日、来ていた子か?」
「近いかも遠いかもしれない。まぁそうかもしれない。ずっと前からそれだけ信じて生きている。俺しか居ないんだ。今は護ってくれる奴が」
「彼女はなんだ? 令嬢か?」
「令嬢。それもすごく上だぞ。まぁ器が小さいが。そんなもの後からついてくる。きっと必ず。もっともっと大きくなる。それまで必ず。必ず。護るんだ」
「ふむ。しっかり騎士はやっているんだな」
「ああ、ネフィアと出会う前から。だが悩んでいる。俺が求める『彼女』の名前をそのまま偽名で使っているけど。良いのだろうか……………きっと別人だろうに」
「偽名か。やはり。帝国の令嬢で皇帝陛下の姫か? お前ならそんぐらい行けそうだ」
「ああ、あれじゃない。あの糞女ではない!!」
「知り合いではあるんだな。ククク」
それから二人は過去話をしだす。姫の愚痴から始まり。戦争の時の話をする。自分は『別人』と言う言葉に引っ掛かりを覚える。胸が痛い。
「あのとき。目の前に若造が来てビックリしたんだぞ」
「そのまま油断してくれて良かったのに……」
「アホか。油断は死に直結する。まぁ正解だったがな。何回だ? 戦ったのは?」
「12回」
「しつこい奴だったな、お前は」
「命令だったんだ。刀を持った女騎士を抑えるのが。こっちのネームド名は『毒花』だったなぁ」
「それで、すぐに戦が終われば逃げたのか………」
「生きるが目標だったから。打ち合って成長して。どんな壁さえ壊してでも強くならなくちゃいけなかった。いい師匠だったよ敵ながら。覚えられた」
「段々手強くなってきて最後に腕を持っていかれた。いや、お情けか」
「ああ、すまん。仲間の元へ送るより。情が湧いて惜しいと思ったからな。綺麗な女だと思ったよ」
「お前は『女が前へ立つな。女性なら家で紅を引き、男の帰りを待て』て言われてカッとなったことは覚えている。あれは本心からだったのだろう?」
自分は運ばれてきた葡萄酒を受け取りそれを眺める。何故か、まったく話してくれない事を彼女に話す彼に怒りを覚える。
「本心半分、挑発半分。乗ってくれると思ったから」
「まんまと時間稼ぎされたよ。12回も。だが楽しかった。変なことを言うが楽しかった」
「俺は怖かった。でも、慣れる。慣れたらやっぱかっこ良かった。大きく見え、越えないとその先にいる『彼女』を護れないと思ったよ。確かに戦ってる間は何も考えられ無かったが」
「そうか………………あのときから前を見ていたのか。愛されているな」
「まぁ当時はまだ会っては居ないけどな………」
私は胸を抑える。少し、痛みがした。「彼女」と何度も何度も聞くたびに痛み出す。
「ロケットペンダントまだ持っているんだな。見せてくれ。チラチラ戦いながら見えていたからな。全く切れないし落ちないから驚いていたよ」
「ほれ………」
「なるほどな。本当に騎士だな。恐ろしいほど。芯が通る強さだ。負ける理由もわかったよやっと」
ロケットペンダント。勇者が着替えの時にいつも首にかけているものだ。余も気になったので窓から覗くが小さくて何も見えない。
「ん……………ちょっとトイレ。すまんな」
「ああ、わかった。葡萄酒おかわり」
勇者が立ち上がるのが見えたので急いで隠れる。目が会ってはないと思う。一瞬だけしかこっちを見ていない。
「ネフィア、どうしてここに?」
大丈夫では無かった。
*
「こっちが、同業者のネフィアだ」
「よろしく。受付嬢の紫蘭だ」
「はい、ネフィアです。こんばんわ」
「同席いいかな?」
「ああ………もちろん」
捕まってしまった。しかし、チャンスである。わざわざ紫蘭さんの隣に座る。捕まってしまったなら直接聞くまでのことだ。
「紫蘭さん。彼とはどういった間柄で?」
「敵同士。戦場で殺し合った仲さ。私が負けて腕を落とされたがね」
「そ、そうなんですか」
「過去さ、今は関係ない。緊張しなくていい」
「ごめんなさい」と心の中で謝った。知ってました。演じています。何も知らないと。
「彼は、過去を話してくれません。どんな方でしたか?」
「ああ、敵の私から見ると本当に厄介者だった。私に仕事をさせてはくれず。しかし、そう。刀で斬れない楽しい敵だった」
「楽しい敵?」
「ああ、何度も全力を出しても立っている。初めて出会った全力を出せる相手だった」
「俺はめっちゃ怖かった。途中から逃げたら追いかけてくるし、向こうから俺を呼ぶんだからなぁ……」
「ふん。呼んだら絶対、出て来た癖に」
「もちろん。騎士団長の依頼だし、いい相手だった」
何故だろうか敵同士認め合っている関係。すごく、綺麗な関係。すごく、胸がモヤモヤする。
「だから、だろうか。腕を切られても恨むことは無かったな。強いものに負けたんだ悔いは無い」
「そ、そうなんですね」
その関係が羨ましく思う。非常に。
「なぁ、紫蘭」
呼び捨てで真っ直ぐ勇者が彼女を見つめる。
「なんだ?」
「もう、刀を持つことはないのか?」
「………残念。片手では無理だ」
「そうか、残念だ。出会いたくない敵だったが。本当に残念だ。本当に」
「ありがとう。その言葉だけで満足だ」
疎外感以上に悔しく思う。彼女は認められている。「自分はどうだろうか? まったく強さで認められていないのではないだろうか?」と自問自答し、落ち込む。
「そうだ!! トキヤ。ちょっと待ってろ」
紫蘭さんが立ち上がり、少しした後。カウンターに戻ってくる。数枚の依頼書と共に。それを勇者が受けとり眺める。
「これを、見てくれ」
「依頼書? 斡旋してくれるのか? いいのか、勝手に」
「奢ってくれるだろう?」
「ああ、わかった。もちろん見せてもら。あああ!?」
勇者が嫌な顔をする。その顔を紫蘭に向けた。
「おい、これ…………他に居ないのか?」
「いないから、ずっとギルド長に頼んでる。ギルド長も嫌がって嫌がって結局、保留」
「なんでいつもいつも。どこのギルド行ってもこんな面倒な物を持ってくるんだよ‼」
「はは~ん。やっぱお前、他でも同じように斡旋されるんだな。保留が無くなっていい」
余は「なんだろう? どんな依頼だろう?」とそれを覗かして貰う。
「くっそ、ああ。何で皆、こんなの頼むんだよ。他に居ないのかよ。おかしい」
「いないからお前なのだろう? ランクは知ってるだろう?」
「ゴールド」
「わかった。嘘をつくんだな。ドラゴンキラー」
そこから、紫蘭が説明し勇者が渋々依頼を受けた。勇者は冒険者でも恐ろしいほど凄いことが今になってわかった。ドラゴンキラーと言うのは流石にわかりやすい指標だ。
さすがに童話のようにドラゴンは無いだろうと思っていたのだが。詳しく聞くと本当にすでに倒していたらしい。さすがは彼と言った所だと納得し、余はそのまま二人の仲の良さを見続けた。
「いつか余もここまで仲良くなればいいな」と考えながら。
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