第19話・賞金首

 黒騎士団長室に私はやって来た。トキヤが家に居ない事の報告をもらい。それの確認のために。仮面の彼の名前はしらない。親もいないので役職で呼ぶ、高圧的に。


「黒騎士団長。家に居ないとはどう言うこと?」


「そのままの意味だ。姫様」


「………監視をつけていたそうだね」


「そう、昨日までな」


 一月、監視を続けた結果。出る気配もなく、数日が過ぎたらしい。そして怪しく感じて突入したのが昨日だった。


「何故わかったの?」


「俺がおかしいと報告を受けて挨拶に出向いたら留守だった。もちろん壊した扉は直したが」


「あら、荒々しい」


「怪しいのは怪しいからな……そして、もぬけの殻だったさ」


「何故わからなかったのかしら?」


「さぁな、昔から暗殺は特異な奴で監視も多く配置したんだ。それを察して我慢している。攻めてくるかもしれないとあいつをよく知る者が考え身構えたわけだ。しかし、逃げるような事をした。結局、一緒にいる彼女が誰かもわからなかったな」


「ええ、そうね。私のところもダメだった。怪しいわ………それに憎い。二人きりが」


 黒騎士団長に聞いたが非常によろしくない。私のお控えに調べて貰ったがわからなかった。トキヤを奪ったあの女は許さない。今は何処へ行ったかを個人で調べさせている。


「黒騎士団は今の所、奴の捜索はしない。干渉はない。姫様よ、忙しいのだよ私達は」


「ええ、いつもありがとう。帝国を守ってくれて」


 黒騎士団長にはこれ以上頼めないらしい。まぁ十分活躍はしてもらった。後は自分で何とかする。


「見つけたら………女を殺っても問題ないかしら?」


「ええ、干渉しません」


「わかったわ。では、またね団長様」


「はい、姫様」


 部屋を後にする。何処へ行こうと、今度は掴まえてみせる。








 姫様が去った執務室。入れ替わるように部下が紙を持ってくる。最近の賞金首リストだ。黒騎士でも賞金目的で狙う。軍資金と治安維持のために。故にリストの更新確認もする。


「今回、巨額の懸賞がかけられている人が居ます。では失礼します」


 部下の黒騎士が持ってきた紙を1枚1枚捲る。すでに何枚かバツ印をしてあり。赤い印は誰かに先を越されたもの。黒い印は自分達が刈り取った者と分けている。優秀な黒騎士はこれを個人の懐にも入れていた。そんなリストを見ていると一枚の賞金首の紙で手が止まる。


「ん?」


 1枚、気になる賞金首があった。巨額の懸賞がかけられている賞金首。今さっき部下が言ったのはこいつの事だ。


バンっ!!


 それを机に叩きつけて席を立ちじっくり見る。内容は魔国の首都がある場所まで生け捕りに多額の賞金。首で半値とかかれていた。これは魔国からの異例の依頼であることがわかる。急いで今さっきの部下を呼びなおし。黒い対魔の鎧を身を包んだ部下が急いで駆け込んできた。


「団長!! なんでしょうか!!」


「これの出所は!!」


 賞金首の紙を見せる。似ている。あの女に。


「それは恐らく。魔国からの商人からです。一番高額で破格の価格ですね。敵国の魔国ですからしっかり貰えるかどうか、わかりませんが?」


「そうか。急がしてすまない………下がれ」


「はい!!」


 部下をすぐに下げた。魔国からの異例の依頼と言うのは確定とする。依頼主は魔国内の権力の重役者。姫様には言っていない事で、トキヤが馬を3頭購入した情報がある。そして、逃げるように消えた二人。執務机に両肘をつけ、意識を思考の海に落とす。用意周到な逃げに疑問が出る。


「賞金首、心当たりがある」


 何度も紙を見ても勇者と一緒の冒険者だ。「何故、魔国が出すのか?」と黒騎士団に入ってきた情報をまとめる。スパイによると魔国は現在、「魔王が居ない」と言う噂が流れている。


「感情が無いから見えない………か………」


 勇者として行動していたトキヤが怪しいのは明白。何かを知っている。何かを隠している。こそこそ逃げるように都市から消えたこと。馬を3頭買ったのは追っ手を考えての事。どう見ても過剰。だからこそ、引っかかる。


「勇者は黒。堂々と出来ないのは後ろめたい事があるからだ。あいつが後ろめたい事なんて………いや、変わった」


 近くに女が出来た。「惚れている」と言っていた。姫様ではない女。だが、何処か高貴な雰囲気もあった。


「ネフィアっと言った冒険者は確か……」


 3ヶ月程度前。春先に登録された新米冒険者。それ以外の素性は知らない。いや、わからない。あれだけ目立つ令嬢がだ。箱入り娘なら分かるが、令嬢ならば政略結婚の使い道はある筈。あれだけの娘なら噂にならない筈がない。


 勇者の任務を放棄してトキヤが帰ってきたのも最近だ。


「何故だ………何故だ? 魔王が消えた噂は最近だが、消えた月は大体3ヶ月前との噂では予想されている。族長同士が抗争激化は最近と言っていたかな」


 何故か、時期が合う。消えた時期と帰ってきた時期が。


「仮定をして、論を組み立てた方が早い。情報はある。賞金首と言う情報も」


 仮定を決めて論を組み立てる。魔国からの賞金首はネフィア。魔国は下剋上のある国。ネフィアは重要な位置に居たのではと思う。そして気になるフレーズがある。


 賞金首を持ってくる勇者求むと書かれている。勇者の意味は魔王を倒す英雄と考えられる。露骨な表現。だが、それは本当に勇者だったのならば。


「………そうか。あれが魔王!!」


 ネフィアっと言う女は新米の魔王だ。男だと思っていたが勇者の任務を持った奴が言った。「魔王は強い男だった」とあいつが黒ならこれは俺を騙すために言うだろう。


「仕組まれた嘘!! 気付かなかった!! 魔王は女だ!!」


 全ての話に繋がる。考えて見れば過剰とも言える盗賊ギルドの口封じや、たった3人での魔都での活躍。手元の賞金首の線は簡単だ。下剋上が起きている。あの新米魔王より上と信じる族長や他が魔王になろうとして首求めている。禅譲ではない。力が全ての世界が魔国だ。あれが魔王ならば力で纏めるには無理だろう、裏切られたに違いない。一目見た情報で器がない事を感じる。


 魔国では新しい王になれるチャンスなのだろう。いつだって魔国は王が変わる時期がある。いや、コロコロと変わっている。安定していない。波乱の時代。


「………裏切り者め。始末しないといけないか」


 裏切り者を殺すのは黒騎士団の鉄則。次に弱い魔王を捕まえ拷問し殺す。帝国内に長く入りすぎた。情報を持ってしまっている。不安分子だ。


「!?」


 その時気が付いた。自分はあいつの風の魔法を詳しく知らない事に気が付いた。敵である奴を全く知らない。机を殴る。悔しさよりも自分への戒めに。そう、まんまと出し抜かれたのがわかったのだ。


「あいつ!? 俺に手の内を見せていない!! 黒騎士に誰も!! いつからだ‼ いつから!!」


 思い出を片っ端から思い出す。最後に見たのは入団試験。その時から変な奴だった。


「初めから、手の内を見せてこなかった?」


 あの後は魔法使いの5番隊から奴の希望で1番隊へ行き。連合国での戦争で輝かしい功績を残した。


 1番隊前線の斬り込み。猛将との一騎討ちで勝利。猛将への一人での時間稼ぎ無力化。


 魔法使いよりも剣を振る騎士の有用性を示し、一人で暗殺もこなした。俺への不敬を咎めるが、使い勝手のいい奴だった。


 あいつが勇者になると言ったとき。少し、惜しいと思ったがこいつなら倒せるとも考えれたし、姫様の推薦もあった。姫は奴が帰ってくると信じていたし、結婚するのも予定に入れていた。故に、早期退職を承認した。輝かしい未来だからこそ。


「全て、この為なら。変人だと思っていたが。もし、護るために最初っから決めていたら?」


 奇行に辻褄が合う。いつだって、含んだ言い方をしていた。損得関係が無く感情だけで動くなら。全てに辻褄が合う。そして狂気を孕んでいる。


「………占い師」


 自分は席を立ち。すぐに部屋を出た。





「あら、珍しいお客さんだね」


「話がある。グランドマザー」


 俺は裏通りの占い店へ足を運んだ。彼女は椅子に座って紅茶を啜っている。椅子に座り話始める。長い間、死なないこいつを監視兼調べをしている。隠した実力者でもある。


「風の魔術師トキヤを知っているな?」


「ええ、上客だねぇ。それよりあんたがここへ来るときは何時だって悩んでいる時だ。なんだい?」


 占い師はよく当たる。ヒントもある。利用できるなら利用する。


「悩んでいるのはトキヤに関してだ。末恐ろしい予想がある。それに……ああ」


「ショックなんだね」


「……………そうだな。出し抜かれた事もだが、新しくあいつを番隊長に据えてどこぞの真似事で6番隊を作る事も考えたからな。裏切れる事など慣れていたし、出さないようしてたのだが。出てしまった」


「恐怖ね。だけど風の柳はしなるからねぇ」


「…………まったくだ。予想外だよ」


 あいつは俺に恐怖を抱かなかった。その他にもどんなに大軍を前にしても、強敵を前にしてもだ。だた、真っ直ぐ前を向いていた。そして、多くの者の前に立ち。斬り込み勇気を与えていた。だから勇者になる奴はこいつだろうと考えた。他にない力が芯があった。


「落ち着いたかね」


「ああ、落ち着いた」


「そりゃ良かった。占い師は本来、悩めるのを相談されるのが仕事だかぁねぇ。予言なんて当てにならないさね~」


「だが、それを信じた馬鹿が居るだろう? あいつがここを好きだと聞いたぞ」


「ああ、いるさねぇ。流石だね。占った。そして、あの子だけにしか見えない何かを見た。黒騎士騎士団入団前だね」


「やはり、情報源はここか。予言が当たったか?」


「いいや、予言は大外れ。姫様との大きな奔流だった筈さ。帝国の勇者になる筈だった」


「予想外の結果か」


「そうさ。何時だって予想が出来ない。だから占いは当てにならない」


 自分は口を押さえる。理解した、あいつの人物像が。狂っている事も。


「うまく逃げられたか。わかった。駄賃だ受けとれ」


 金袋を机に置く。情報をくれるだろう。


「まいど………そうそう、彼女は今は蕾だ」


「殺るなら今か」


「そうさ。でも、気を付けな。大きな大きな大木に守られているからねぇ。あまりに成長した大木ね」


「ふん…………」


「何人か死ぬだろうねぇ。どうするの?」


「決まったことを」


 自分は席を立ち。部隊を集める。狩るための精鋭を集めようと決めたのだった。





「はぁ………面白いねぇ。あの子は」


 黒騎士団長が去ったあと。冷えた紅茶を啜る。見える未来より。見えない未来。今はまったく見えない方の未来だった。外れない筈の未来が外れる。


「開花は心の『きっかけ』。どんな花を咲かせるかな」


 水晶球を覗いたとき。枯れた花から、落ちた芽が伸び。蔦バラのそれが勇者という木に絡み付き栄養を貰い大きくなり蕾になる。しかし、花は開いていない。蕾のまま。きっかけが必要なのだろう。


 何かの拍子に変わるだろう。昔は芽だった勇者のように。


「楽しみだねぇ……全く。暇で仕方ないからねぇ」


 私はクスクス笑うのだった。長い時の中で蜂起を待つ間の一休憩。大いなる物事を行うまでの暇潰しなのだ。世界は壊れる。必ず、壊れる。私達の手で。世界樹の鍵で我々は復活する。


「暇潰しは楽しい……ククク」


 笑う。結局、過去の遺物の魔族は死ぬのにと思いながら。




























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る