第18話・勇者の鍛え方



 旅の最中、勇者に風の魔法を教えてもらう。勇者は手綱を持って歩きながら会話をし自分は学んでいく。


「ネフィア。4大元素わかるか?」


「火、水、土、風」


「正解」


「はははは!! さすが余だ」


「一般常識だ」


「……………おう」


「で、実はこれは世界を形を作っている物と考えられてる。確かに当てはめると大体は区分できるし、二つの属性を持つものだってある」


「ほうほう………」


 難しくない? 難しい。


「では、問題。風とは何でしょうか?」


「風とは? ええっと………こう!! 髪が靡く!!」


「答えは、動きだ」


「お、おう?」


 ダメだ!! 自分にはさっぱりわからない!!


「風の根本原理はこの空気の膨張、収縮、圧力の変化で移動する事なんだ」


「そうかそうか!!」


 一切、わからない。悔しいのでわかったフリをする。


「風の魔法は魔力で空気を動かす。無理矢理動かすのが風の魔法なんだ。火の魔法は火を生み出し操る。水の魔法は水を操り、生み出したり増やしたりする。土は地面を隆起させたり操ったりする」


「わかった!! 風の魔法は空気を操る魔法なのか!!」


「そうそう」


 理解できた。操る物が空気なのか!! 風じゃないのか!!


「それで、何故………音を消したり、姿を隠せるんだ?」


「音の原理。音は波だ」


「………ごめん。わかんない」


「あー、声帯ってわかるか? 喉さわったら震えるだろ?」


「あー、あー、あー」


「そうそう」


「うむ。わかった」


「それを使って空気を震わせて音になる。それが耳に入り、音として感知できる。まぁ即席で操れるのは本当にちょっとだけだがな。あとは唱えないとダメだ」


「へぇ~なるほどな………じゃぁ空気がなかったら?」


「音は伝わらない」


「………空気を無くしてるのか?」


 それが出来たら強そう。呼吸出来なくなる。


「いいや、震えないように魔力を流してるだけ」


「ふーん簡単そう」


 少しだけ世界を知った気がする。空気なんて気にしてなかった。精々、呼吸するだけの物。無ければ息苦しいだけ。


「分かれば簡単だ。じゃぁ、次に姿を消せるのは光の発した色を変えているだけ。こっちはもっと難しい。空気を通っている光を変える。すべての物は反射で成り立っている。光を反射し目がそれを受けとるらしいく………」


「はい!! わかりません!!」


 見栄とか捨てる。ダメだ自分。


「簡単に言えば風の中に含まれてるから操ってやろうってやつ。空気にも水が含まれてるからある程度水の魔法っぽく操れる」


 勇者が唱えて、水球を生み出す。


「ここにある物を使うから、水の魔法より便利だ。温度や場所によって水の保有量が違う。冷えたコップ水滴がつくのは空気に水が含まれているからな」


「へぇ~。なんで水が出るの?」


「温度によって保有量が違うって言っただろ? 保有出来ない水が出てきてるだけだ」


「はい!! わかんないです!!」


 自分は理解をする。火、水、土よりも見えないし難しい世界だと言うことを。


「簡単な音の魔法だけ教えて」


「…………諦めた?」


「い、いや……余には炎があるからな!!」


「わかった。魔方陣を描いて渡してあげるさ」


「はは………」


 風の魔法は諦めよう。自分には無理だ。妥協で音だけを教えてもらった。





 夕刻、早めの野宿の準備。そして勇者が特別訓練をしてくれる。何処から持ってきたのか、大きな木の棒を彼は持っていた。


「何をする?」


「えーと、スパルタで行こうかなっと」


「スパルタ? スパルタ国の方法?」


 砂漠の屈強な国にスパルタ国がある。コロシアムが有名だ。スパルタ王と言う屈強な王も有名で帝国の初代王と同じ歳と聞いている。


「いや、『厳しく』の意味でスパルタって言うんだ」


「そ、そっか!! 厳しくか!!」


「怖じ気ついた? まさか元魔王である君が怖じ気つくなんて………」


「ばか野郎!! 怖じ気ついてない!!」


「よし、男に二言はないな」


「おう!!」


 男扱いやる気が出た。


「じゃぁ、全部避けろ」


 勇者が両手で木の棒をつかみ、振り回す。


「ま、まて!! 当たったら痛いだろ!!」


「当たったらそれで、終わりだな。何故なら」


バガァアアアアン!!


「かはっ!?」


「折れるから」


「げほげほ!!」


 お腹に鈍痛が。早すぎる。しかも、容赦がない。


「痛い!! 手加減しろ!!」


「そうだな。女だから手加減する」


「女扱いするなと………あっ……」


「あと一本ある。わかった女扱いしない」


 自分は変に後悔する。女扱いは得なのではないかと。そして………そのあとすぐに一本が折れた。痛みと共に。


「ひでぇ……てて」


「あぁ……結構避けてくれると信じてたんだが。過大評価だったか。2回死んでる」


「くぅ」


 確かに2回切り払われている。それは実戦では致命傷を受けた事になる。


「今日はこれまで、明日は1本だけでやるから安心しろ」


「………痛い」


「死ぬより安い。まぁ、ちょっと甘やかし過ぎたかもしれないからな………俺が居なくても大丈夫にしなくては」


 勇者が顎に手をやり悩む。何かを考えてる。それよりも疑問が生まれた。


「………ずっと居ないのか?」


「ああ、お前が魔王に戻れば。魔王城に解毒剤もあって男にも戻れるだろうし。そうなったら俺は捜してる彼女を……見つける旅をつつけるかもな」


 少し、唐突に別れの時期を切り出され驚く。


「余はお前の現彼女じゃない?」


「ああ、違う違う。ネフィアに似ている女性に会って確かめたいことがあるんだ。お前じゃないっぽいかな?」


 勇者が初めて目的に近いことを言った気がする。


「そ、そっか。せっかく臣下にしてやろうと思ってたのに」


「まぁ冒険者だからな。風の向くままさ」


「はは………そうだなぁ冒険者だもんなぁ………」


 魔王になったら。こいつと別れる。それが何故だろうか、寂しい気持ちになっている自分がいた。


「さぁ、飯食って寝よう」


「うむ」


 自分の胸を見ても。その気持ちの意味が全くよくわからなかった。









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