第4話・魔王の初仕事と怖い占い師

 早朝、警備の仕事が終わった日にネフィアに直接依頼があることを俺は聞いた。


 その仕事を教えてはくれなかったのだが、鏡で接客の練習を行うところを見たので給仕として働いこうとしているのがわかる。


 「いらっしゃいませ」の発声や、鏡で笑顔の練習をしているのを覗いたときはあまりの可愛さで心臓が跳ね。物音で見つかって殴られたが、心地いいものだった。


 ネフィアが新しい自分と向き合ってるので良かったと思うので痛みなどは気にならないし、閉じ込められていた箱入り娘が元気だったのは嬉しさが勝つ。もっと心が死んでいると思っていたのだ。


 ネフィアが仕事に行ったのを見送った後。自分は慣れ親しんだ場所に足を運ぶ事にした。


 場所は表通りから冒険者ギルドを突き抜けた先にある黒騎士団の所有地の酒場。大きい酒場であり冒険者等多数の人が椅子に座り、たむろする場所である。そこで酒場に入りカウンターにいる店主に声をかけた。


「ん? なんだいボウズ」


「会いに来た」


「そうか。まぁ、お前は顔パスだ」


「どうも」


 カウンターに入り、裏の扉を開ける。葉巻の臭いが廊下に充満し、暗がりの中に扉と衛兵が座っている。不審者からここを守っている。その衛兵に声をかけ、中に入れてもらった。中に入ると執務室になっており一人のローブを着た男が窓に向いて立っている。


「誰かな?」


「お久しぶりです黒騎士団長殿」


「その声は………」


 黒騎士団長と呼ばれた男が振りかえった。顔の上部は仮面をつけ、表情を読み取れないが驚いているのがわかる。名前は隠匿しているし、何百年と生きている魔導士で変わった場所に執務室を設けている。


「団長!! 俺を忘れちゃ困る!!」


「アホが忘れるわけがない。魔法使いを辞める宣言した奴だ。忘れるわけがない」


「あー懐かしいなぁ」


「懐かしい。勇者としての任務はどうなった?」


「俺は諦めたよ」


「それほど手強いか魔国内は…………よし、飯を食べに行こう。積もる話もあるだろう聞かせろ」


「はいはい、情報提供ですね」


「そうだ、魔国の情報は重要だ。非常に」


 昔から団長は変わらず少し安心した。彼は黒騎士団を纏める者であり、その魔力は騎士団全員を倒せるだろう。


 そして帝国と契約した悪魔とも言われる人であり、多くの功績を残している。俺は団長に連れられ、大通りの有名店へ行く。


 女性の給仕が可愛い子だけしか働いていないので人気のお店で中には貴族に嫁ぐ子もいるほどに店主がよく見つけてくる。何故ここにしたのかと言えば、騎士団に店が支援をしているので営業協力の名目だ。店長に挨拶をすませ、勝手に席に座る。昼飯前なので、まだ客は少ない。


「トキヤ。魔国の旅行はどうだった?」


 団長はテーブルに肘を乗せ、仮面に見える口元に笑みを浮かべながら話しかけてくる。


「人間と変わらないと思った。まぁ力が全ての世界だったかな? 結構、泥々してて帝国内と変わりない」


 自分は灰皿を団長の前に移動させ小さい木の箱を灰皿の横に置く。お土産だ。


「ほう、これは」


「魔国の葉巻。どうぞ」


「いただこう」


 木の箱から1本葉巻を取り。先を千切った所を火の魔法で点火する。それを吸って満足した声で「ほほう」と盛らす。


「んっ………良いものだ」


「それはよかった」


 団長が葉巻をプカプカ吸っている間にお水が出された。


「ご注文はお………」


「ん?」


 店員と目が合う。綺麗な店員だった。金色の髪で切れ目な美少女が顔を赤らめる。ここで働いてたようだ。


「お、おま!! おま!! 何でここに!!」


 美少女ことネフィアが指を指し叫ぶ。団長が顔を眺めたのち自分に向き直り、口を押さえながら話始める。


「知り合いかい?」


「あ、ああ。冒険者仲間だよ」


「お前にか? 不思議なものだな。これを二つだ」


 紙の上に書いてある料理を指差す。それをメモを取る元魔王ネフィア。女の体に慣れるのが早い気がするぐらいにスラスラ仕事を覚えていた。地頭の良さを見せる。


「は、はい!! かしこまりました!! 下僕よ!! ニヤニヤするな気色悪い!!」


 自分が指摘されて初めてにやけているのを理解した。ちょっと頑張って我慢しても頬が緩んでしまう。緊張しなければいかないのにだ。


 ネフィアの給仕姿が見れてうれしい。やはり可愛い。惚れた弱味はあるだろうが可愛いと思う。それに、案外世間体を知っているも好印象だ。


「似合ってるし、様になっているぞ」


 ついつい、誉めてしまう。黒騎士団は帝国に忠誠を誓う集まりである。敵や売国には容赦がない。元でも魔王はバレたら殺しにかかってくる。それでも我慢できず、にやけてしまう。


「うるさい、黙れ屑」


「ははははは!! お前ら仲がいいな!! クククク。本当に冒険者仲間か?」


 そんな、知らない団長が腹に手を当て笑いだした。ある意味情けないなと思う。


「お前が、困ってる姿は珍しい!! 面白い!! 女に興味がないものだと思っていた」


「お、おう」


 ないわけじゃない。一途なだけだ。


「お嬢さん!! はいチップだ。良いものを見た御礼だと思ってくれ。女で困る姿なぞ、姫様ぶりだ。やはり占い師に女難の相が出ていると言われた通りだな」


「団長、全くそんなことはないと思うぞ」


 心情は早くネフィアに去ってほしい。満足した、落ち着き考えると危険すぎる。女難の相は確かに今はそう思う。


「かしこまりました!! 覚えておけよ、お前」


「わかったよ、後でな」


「ふん!!」


 彼女が去り胸を撫で下ろした。危ない危ない。


「はぁ……姫様でも振り向かなかったお前が。あの子にはご執心か? 面白いぞ。てっきり同性愛者と思っていた」


 ある意味、間違ってない。元々、男である。男娼にもなれるぐらいには既に整っていたが。お陰ですぐにわかった。探した人は彼女だと。


「まぁ、他は興味がない。それより団長、あの子かわいいでしょ?」


「綺麗だが性格が悪いだろうな」


「まぁ………それを含めて。絶対護って行こうと思ってます」


「なら精々頑張れ。黒騎士団を蹴ったんだ不幸になれ」


「厳しい言葉ですね」


 しかし本当に安心した。元魔王を知らないことに。そして、完全に自分は黒騎士団を裏切っている。裏切っているからこそ顔を出した。様子見である。


「団長、魔王に会ったことは?」


「ない、見たこともない」


「魔王はな、金髪の美青年の剣士だ」


 嘘は言ってない。間違っちゃいない。だが、男であることを説明する。


「いい情報だ。お前より強いのだろうな。まだ、魔法は封じてるのか?」


「いいや、魔法は解禁するよ。普通の冒険者で生きていく」


「そうか、本当に諦めたのか」


「ああ」


 このあとは魔国の情報を提供した。今は、目をつけられる訳にはいかない。安息が必要だ。ネフィアのために。




 食事後、団長と別れてお店でネフィアの仕事が終わるのを待つ。終わった後を見計らって声をかけた。


「おつかれさま」


「長い時間ジロジロと眺めよって。仕事がしにくかった!! 何故ここに来た。他に店があっただろ!!」


「運が良かったんだ。俺の運が」


「自分は最悪だった。よりによってお前に見られるとは………くそ」


 ネフィアの肩がうなだれながら深いため息を吐く。


「まぁ気を落とすな。『さすが魔王』と俺は思うぞ。違う体でもなれる早さ。すんなり仕事をこなすスキル。『さすが魔王』と言えると驚いている」


 両手で大袈裟に驚いた素振りを見せた。同じ事を2度言う。


「フフフ、余は偉大だからな」


 すんなり彼女は機嫌を治してくれる。「あんまり誉められたことがないのだろうか?」と思ったがそのとおりできっと褒められてない。


「偉大な魔王さま。仕事終わって疲れていると思うのですが。一人、君に会いたがっている人がいるので一緒に来て貰えませんか?」


「ん? 誰だ?」


「占い師」


「占い師? 占い? 何故?」


「まぁ、会ったらわかる。俺の人生を狂わした張本人様だ」


「狂わした?」


「まぁいずれ話すときが……来ればいいな。でどうする?」


「まぁ会ってやらんこともない。余は寛大だ」


 胸を張りながら腕を組み。ふんぞり帰るがただ可愛いだけである。


「ありがたき幸せ。では、ご案内します」


 誘ったのは俺だが……ネフィアは他の人にも簡単について行きそうで少し不安になる。店長に帰りの挨拶をすませ店を出た後。占い師の店がある場所へネフィアを連れて歩きだす。周囲に人がいない事を何度も確認し、話を始めた。


「ネフィア、真面目な話だ。今日、一緒に居たのは帝国黒騎士団団長様だ」


「!?」


 ネフィアの顔が驚いた顔をする。帝国の黒騎士団ぐらいは知っているのだろう。さすが悪名高い騎士団。


「あの、味方殺しの騎士団か?」


「売国奴等。国益を損なう輩や国家転覆は全て摘む。昨日は味方でも帝国のためならなんだってする」


「お前はそんな奴と何故、親しげに話を?」


「元黒騎士団の騎士だから。知り合いなんだ」


 ただ、異様に変人同士仲がいいだけである。まぁ、直接個人で依頼も受けてたし目立っていたから。


「お前、強いのか?」


「弱い。そう信じて鍛えてる。でも自信はある」


「………ふーん」


 そして例の占い師の店の前の到着する。店は「雑貨」「魔法書屋」と看板に書かれている。あまり際立って珍しい店ではない。雑貨は一般人でも来るだろうが魔法書は魔力を持った者以外は必要がないため売れ行きは良くない筈である。


 それに裏道であり表にはもっと大きな魔法書以外も売っている本屋がある。なので、商品を売って儲けてるように見えないが、店はここに存在し続けていた。ずっと昔から。


 扉を開け中に入る。お客の来客を示す鈴が店内に響き渡り、店主を呼び出す。


「おやおや、お客かい?」


「ばあちゃん。お久しぶり」


 奥の部屋から緑のローブを着た、腰の曲がった老女が杖を持って現れる。ローブの中の顔はしわしわのばあちゃんで、微笑ながら俺の名前を呼ぶ。


「ああ、トキヤ君だね。見つけたかい?」


 俺は頷き彼女を紹介する。


「あの薬……ありがとう。見つけたから紹介するよ。元魔王ネファリウスだった。今はネフィアって言う偽名」


「そうかい。そうかい。お茶を淹れるよ」


「いや、挨拶だけだから。ネフィア、彼女が占い師だ。名前はない」


 自分は手で彼女の背中押す。ネフィアを前に出した。


「こ、こんにちは」


「こんにちは。では、さっそく見せて貰おうかね?」


「な、何を見せるのだ!?」


 自分は奥の部屋にゆびを指す。奥の部屋には紫のカーテンがかけられ中が覗けない。


「占いが本業だ。約束したんだ。見つけたら占いさせて欲しいって」


 ネフィアの背中を優しく押した。そして自分は本を眺め、一冊だけ抜き取り窓際にある椅子に座って占いを行うまで時間を潰す事にした。





「さぁ、お嬢さんどうぞ」


 勇者に連れられた来た店で占い師が怪しいカーテンの中に入る。勇者は椅子に座り、何かの本を取って読みだした。


「………失礼する」


 自分も占い師について行き、カーテンを潜る。中は六角形のテントのような小部屋であり、中央に水晶玉が鎮座していた。椅子が二つと天井には魔法のカンテラが部屋を照らすために吊ってある。片方の椅子に座り水晶を覗くと、自分の顔が歪んで写った。


「何も、写らんよ。お嬢さん」


「う、うん。そうか」


 ちょっと恥ずかしい。


「では、占ってあげよう」


 占い師が水晶に手を乗せて魔力を流す。水晶が虹色に色を変えた。しかし、それ以上の変化はない。


「見えたね。じゃぁ……お話をしましょう」


「お話?」


「ええ、魔王ネファリウスは消えました」


「な、なに!? 余はここに居る!!」


 声をあらげて言い放つ。


「静かに聞いてくださいね」


 しかし、占い師が次の言葉を制止する。眼光が光った気がして少し気圧された。知らないが、何か深く強いと勘が囁く。化物でもあり、危険人物であると頭が理解する。


「わ、わかった。睨まないでくれ」


「いい子、ではお話しします」


 占い師が水晶を撫でる。いとおしいそうに。


「魔王ネファリウスは死ぬ運命にありました。運命は枝分かれした木のように多岐にわたる選択で決められる物です。しかし、自分が全部選択出来るわけではなく。人によっても決まってくる物です」


「う、うむ。それで余は…………」


「死んでいたでしょう。彼が現れなければ遠からず」


「…………そうか」


「彼が行ったのは生まれ変わらせる方法であなたを救いました。今は、小さい双葉ですが寄り添っている大きい木に護られています」


「大きい木?」


「彼です。彼はあなたの剣であり盾であり絶対裏切ることのない道具みたいな人です。安心して彼を使ってあげてください。なんでもしてくれるでしょう」


「そうだ!! そこに疑問が!! なぜ奴がそこまで余に仕える!! 余に出会ったばっかりで何故!!」


 椅子から立ち上がる。占い師が少し微笑んだ後に言葉を続けた。


「いつか、心から話せるようになると思います。その日まで、信じてあげてください。信じれないなら毒薬でもお売りましょうか? なんでも揃えております。ククククケケケケ」


 占い師が憎たらしい笑みを浮かべる。


「いらない。あいつに頼らないといけないからな。やはりあいつから聞けと言うのか………」


「ええ、ええ。後悔はさせませんよ彼は」


「なぁ、占い師。未来は占えるのか?」


「いいえ、見ることは出来てもその通りになることはない。実際、あなたがここに居るのも予想外の結果であり、これからも予想外の結果が続くでしょう。だから楽しんです。ネフィアちゃんも楽しんでください。新しい世界を……いつか終わる世界をね」


 含んだ言い方に背筋が冷える。


「奴も同じことを言う。楽しめと………魔王の席は逃げない。少し楽しむことにしよう」


 それから余は他愛のない話をした。敵対しないように。






 占い部屋から出た瞬間、勇者が立ち上がり話しかけてくる。


「終わった?」


「ああ、色々聞いたよ。楽しそうな場所も……」


「これ、あげるよ。お買い上げだ」


 勇者が本を手渡してきたのでそれを受け取る。火の魔法書なのがわかり、本の内容が目に入ってくる。


「『お買い上げありがとう』と言いたいとこだけど面白かったからタダでいいよ。まぁ、全部なくなるしねぇ~ケケケケ」


 占い師が満足げに笑いながら余の手から本を取り。持ち運びができるように取っ手をつけてくれた。このまま魔法具として扱えそうだ。


「いいのか?」


「いいさ、未来は見えてるとつまらない。面白い予想外の結果だから、ご褒美ね。今なら上手く扱っていける筈だよ?」


 占い師が本を差し出し、自分はそれを受けとる。


「占いの結果?」


「いいえ。勘ですよネフィアちゃん。まぁ、あんまり強いと刈られちゃうよ」


 自分は本を開き、一瞬だけ覗いた。昔では理解出来なかった物が、今では読める。そして余は御礼を言った後。勇者とともに店を後にした。

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