第5話・大口依頼

 占い師から出会って数日がたった。ネフィアは毎日もらった本を読み、頭に魔方陣を覚えさせて戦える努力をしている。


 本を読めるのは才があるからだ。ネフィアは扱える才がある事に誇りを持ち、毎日自慢してくる。そして今日は彼女はお店を休んだ。なので1日訓練に当て鍛えている。


「だいたい覚えた!! 後は実戦あるのみ!!」


「あーあんまり本を鵜呑みにするなよ」


「何故だ?」


「皆が忘れているが魔法ってのは世界のルールをねじ曲げる方法だ」


「そうだぞ? 忘れていない」


「いや、魔法ってのは自由なんだ」


「ん?」


「自由であるから十人十色の魔法になる」


「十人十色? そんなバカな話はない。先人が見つけたのを使って行くのに個人の色など…………」


「魔法は自由を導きだすルール改悪の悪法だ」


「よく、わからんぞ………言っている意味が」


「そっか。じゃぁ~まだ俺には敵わないな」


「な、なに!! 何の魔法が使えるが知らないが絶対にお前は剣士だ!! 余の方がうまく扱える!!」


 ネフィアが背中に向け力一杯、魔法書で叩く。バシバシいい音が部屋に響く。


「はは………!! いたい!! いたい!! 本の角はやめろ!!」


「死ね!! 死ね!! 死ね!!」


 殺意も込めて殴られる。


トントン


「「ん?」」


 玄関の扉が叩かれる音がした。客人らしいので扉を開ける。開けた先では白い鎧を着た騎士が立っていた。大きな袋をもっている所を見ると旅の途中だったのだろう。


「すまない。ここはトキヤと言う御仁の家と伺っている」


 鎧の兜から女性の声がした。男と思っていたが、鎧の主は女性らしい。マークからある国家を思い出す。


「はぁ俺ですが何か? マクシミリアン騎士団が何のようですか?」


 マクシミリアン地方の騎士がわざわざ来ている。 


「邪見しないでくれ。頼みがあって来たんだ」


「わかりました。中でお話を伺います」


 彼女を案内し、椅子を下げる。そこに座っていただき、お客の接待の要領で対応する。


「マクシミリアン騎士団かぁ………」


 自分は名高い騎士団の名前を思い出していた。帝国に与する騎士団、地方騎士であり、一領地を納める国とも言える大きな団だ。


 帝国と戦い、守りきり。帝国領地を一部頂いた。帝国の法が届かない所。「その騎士団がなぜ?」と思う。


「ふぅ………やっと一息つける。兜を外すが他言無用で頼む。殺さないといけなくなるからな」


「わかった。約束しよう。他言無用だ、元黒騎士にかけて」


 きっと、名のある人なのだろう。それも大分身分が上の。


「ありがとう」


 兜を外した瞬間、綺麗な長い髪が落ちる。金色のネフィアと同じ髪色。そして、尖った耳に人間とは違った綺麗な顔つきとシルクのように白い肌。たったそれだけでわかる。人間じゃない。


「「!?」」


 一目で誰でも。彼女が人間じゃないことがわかる。魔族は一部の人間より美しく見える。ネフィアの様に。


「初めましてエルミア・マクシミリアンです。現マクシミリアン騎士団長の大祖母であり、元騎士団長です。種族はハイエルフ。珍しいでしょ?」


 ネフィアが声を出して驚く。何故ならハイエルフは本当に珍しいからだ。珍しい所じゃない、考えてみれば文献にしか書かれていない種族だ。全てのエルフの原点だ。


「ハイエルフ!? 森から一切でない引きこもり種族だぞ!? 余も引きこもりだったが、輪にかけて引きこもりだ」


「ネフィア!! やっぱりそうだよな!! エルフは魔族では珍しくないがハイエルフを外で見るとか信じられん!! 初めて見たし、文献でしか知らなかった」


 魔族にいるのはハイエルフから混血となった者たち。ダークエルフとエルフだけである。


「ふふふ、外見的にはエルフと変わりません。ええ」


 にっこりと驚いてくれたのが嬉しいのか笑みを浮かべる。手を押さえて笑う姿はお上品に見えた。ハイエルフはエルフと違いは大きい古い森の民であり。純血種だ。


「あーあー、驚いたがここを教えてもらったと言うことは黒騎士団長から?」


 自分は彼女と接点はない。なら、誰かが差し向けたに違いない。


「そうです。教えていただきました」


「いったい何を依頼されたのですか?」


「精鋭数人の発注。マクシミリアン騎士よりも強く、生き残れるほどの強者」


「いや、依頼内容です」


「………………………契約後に。金額は個人の資産から出す。この家を建て替える金額を出そう‼」


 中々、厄介な依頼。黒騎士団長、投げやがったなこっちに。関わりたくないのが見える見える。


「なんと!! 元勇者、受けるぞ‼」


 金につられて顔を出すネフィア。俺は彼女に呆れる。


「あなたは? 彼女さん?」


「違う!! 汚ならしいこいつの彼女なぞヘドが出る!!」


「そうなの? わかった。なら依頼しても大丈夫そうね。恋仲を裂くかもしれないから」


 エルミア嬢が胸を撫で下ろす仕草をした。自分は、何故か少し彼女の嬉しそうな寂しそうな表情に目に止まったがわからないでいる。察するには情報が足りない。


「わかった。行きましょう。その表情が知りたくなりました」


 その表情は何故か自分を突き動かす物と良く似ていた気がしてつい、一つ返事で依頼を受けてしまう。と言うことは「愛」なのだろう。


「本当か!!」


 エルミア嬢の表情が明るくなる。そして、暗転し申し訳なさそうに言葉を吐いた。


「本当に………い、いいのか?」


「この元勇者がいいって言うんだ‼ いいに決まってる!! さぁさぁ言うんだ‼ 依頼内容を‼」


「わかりました、信じましょう。依頼内容は死都の玉座まで私をつれてってください」


 言い放った言葉に自分は「え!?」と驚きの声をあげる。死都は魔物によって滅ぼされた都市であり、スケルトンなどが死都を守るために徘徊している。危険な場所。


 黒騎士団長は試算をした。マクシミリアン騎士団に恩を売るか騎士団の被害を試算して。そして、断った。彼は感情では動かない。故に割があわないと判断したのだ。


「あーマクシミリアン元騎士団長さま……」


「エルミアでいい。私はトキヤと呼ばせてもらう。そっちのが都合がいい。身分種族をかくしてるのでな」


「えっとエルミア嬢。死都はさぞ危険ですね」


「ああ、だが。行きたい。行きたいんだ。理由がある。終わったらゆっくり話をするから。お願い……連れてって」


 エルミアが椅子から降り、丁寧な土下座する。元騎士団長がここまで懇願するのにビックリする。ネフィアが偉そうにその肩を叩き。俺は頭を押さえる。


「顔を上げよ。エルミア、大丈夫。彼なら何とかしてくれる。なっ? なっ?」


「お前はお留守番だ」


「何故だ!! 実戦じゃないか!!」


「危険だからだ」


「ふん、なんと言おうと行くからな。依頼だから」


 お金で釣られてる。


「ネフィアと言ったか? やめた方が………」


 エルミアが心配そうに言いだす。「その通り!!」と思う。


「ふふ、余は元魔王ぞ。大丈夫大丈夫」


「えっ!?」


「あっあああ!! 違う!! こう、変なこと言うんだ‼ ネフィアは!!」


 ネフィアが少し怪訝な顔をしたあと、自分の口に手を当てた。


「…………ふふふ、わかった。隠し事だな。私と一緒の。では元魔王殿にも頼むとしようか」


 少し、困った事になったがエルミア嬢詮索せずに詳しい話は自分の領内屋敷へと言い、そのまま家を出ていった。ネフィアが店員の仕事を終わった後で領地へ行く事にする。それよりも俺は怒る。


「すまぬ」


 去ったあと、一言。ネフィアは申し訳なさそうに顔をふせて言った。それに怒るのをやめる。


「余計なことを口走った。本当にすまぬ」


「…………まぁ、相手が良かったから。気にするな」


「いや、気にする。ここでは禁句だ。殺されても文句は言えない」


「まぁな。でもそんときは逃がすさ。帝国からな」


 旅資金はある。いつだって旅の支度は出来ている。そう、騎士団と殺し合いながら逃げる事になることぐらい予想している。


「まぁ、これで一攫千金。旅が出来るな‼」


「そうだな‼ でも、お前のことを黙っていてくれと言うことで足元見られるがな!!」


「そ、そんなぁ………」


 ネフィアが残念そうな可愛い顔をする。非常に元気が出る顔だった。俺はそれだけで死地を覚悟する。






 私は勇者から多くの事を聞く。マクシミリアン騎士団の治める領地は帝国から北西の方面一帯である。魔国の国境付近に都市があり、重要な拠点となって、東北側魔国から防衛している緩衝地となっている。


 しかし、もう一つ役割があり、帝国の騎士団が恐れる死都の監視もこなしている。


 死都は昔、栄えた都市だったが魔物によって滅ぼされ生きる動物がいない死んだ都市となった。魔物の様に厄介なものが蔓延っている。アンデットの都市に成り果てていた。


 マクシミリアン騎士団の都市へ馬で走り、時間をかけて移動する。馬は2頭の理由は余が相乗りを嫌がった事が原因である。


 そうして、ゆっくりとした道のりでマクシミリアン騎士団を訪ねた。案内されたマクシミリアン騎士団の屋敷は城のような堅牢ではなく3階ぐらいの豪邸である。そう隠居用の屋敷である。


 中に入ると赤い絨毯が広がり、大きな肖像画がある。きっとマクシミリアン騎士団長なのだろう。普段着であろうドレスを着たエルミア嬢がご挨拶に出てくる。耳は人間である。そして……彼女に出会う。


「長い危険な旅路の御無事を祝うと共に感謝を」


「うむ!! くるしゅうない!!」


 自分は胸を張る。勇者に呆れながら肩を叩かれた。


「今のお前は一般の冒険者な」


「はっ!?」


「くすくす。面白いわ、ネフィアちゃん。隠す気あるの?」


「くぅうう。あ、あるんだ一応」


「店でもそんな対応してないのになぁ」


「うるさい‼ 勇者!!」


「勇者言うな。勇者じゃない」


「へぇーあなたがあの部隊に居たのね」


「すぐに脱走したがな」


「正解よ。そう、正解……暗殺なんてくだらない」


 エルミア嬢が手招きをしたあと。使用人を呼び荷物を預ける。


「ここで話もあれなので、私の部屋へどうぞ」


 エルミア嬢についていきホールの階段を上がる。そしてついていった先の扉を開け部屋に入った。中は調度品等、貴族らしい装飾がなされている家具ばかり。金持ちのお家だ。


「どうぞ、椅子にお座りください。葡萄酒をご用意しますわ」


「大丈夫かネフィア?」


「バカにするな。これでもしっかり飲める口だ」


 魔王城ではいつも一人で飲んでいた。葡萄酒だけは、好きに頼めた。他にすることもなく。忘れたい事があったから溺れている日もあった。


「ふふふ。マクシミリアン騎士団のお酒ですよぉ~美味しいですから期待してね」


 自分は疑問に思い、質問した。


「騎士団も酒を作るのか?」


「ええ、もちろん騎士団の非番は農家ですから」


「騎士団なのか? それ?」


「マクシミリアン騎士団は徴兵制と募兵制があり、皆が騎士団員であるのですよ」


「そうだ、ネフィア。だから地場では強いから帝国は同盟で諦めてるんだ」


「…………なるほど。屈強なのか」


 そういえば、魔国もこちらの領土を攻める話は聞かなかった。まぁ魔国と言ってもまだ、統一は出来てないがな。「黙っておこう」と思う。


トントン


「お持ちしました」


「ええ、入って」


 使用人が応答後すぐ部屋に入ってくる。瓶に入った葡萄酒とワイングラスが3つ。机に置かれる。


「なにか他にご用意がありましたらお呼びください」


 使用人の言葉に反応してエルミアが言う。


「自分で取りに行きます。台所まで」


「いいえ、使用人の私達に言っていただければご用意します。騎士団長から命令されております」


「…………わかった。ありがとう。下がっていいわ」


「はい」


 使用人が下がった後。エルミアが愚痴を溢す。


「別に偉そうにしたい訳じゃないのに。まだ老後は早い」


「何故だ? 余なら頼むぞ?」


 エルミアが自分を見た後、寂しそうな顔をする。


「私はマクシミリアンの者ではないのです。それに、どちらかと言えば仕事した方が気が紛れていいんです。一人は思い出す事が多い」


「ふぬ。体を動かすのは良いことだな」


「そうね」


 何故だろうか、自分は何故かこの人の感情が読めてない気がする。勇者がワイングラスに葡萄酒を注ぎ、一口含んだ後に喋り出す。


「何か、あるんでしょうけど終わったらお話をお聞かせくださいエルミア嬢」


「ええ、もちろん。そのつもりですよ生きて帰ってきてからね」





 葡萄酒が尽きるころ、雑談は終わった。ここの地方の特徴と明日から行く「魔都」「死都」の情報。別れた場合の集合場所等も確認した。そして、大浴場を使わせてもらい旅の疲れをとった後、部屋に戻った。


「おい、勇者」


「なんだ?」


 先に風呂に入って出てきた筈の勇者が使用人に案内された部屋にいた。


「なんで、お前が居る!!」


「ここが案内された部屋だからだ」


「なにぃ!!」


「ダブルベットだし、眠れるだろう。久しぶりのベットだな」


 野宿ではないベットでの就寝。だが、旅ではこいつと二人で寝ることは無かった。


「どうした? もしかして意識するか?」


「はぁ!? ふざけるのも大概にしろ‼ くそ!! 私は外で寝る!!」


 部屋を出ようとする。「がちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃ」と音を立ててドアノブを回すが開かない。


「ん? ん?」


「どうした? ネフィア?」


「あ、開かない!!」


「ほう。鍵でもかけられたか?」


「な、何故だ‼」


「さぁな。でも好都合」


 勇者がベットから降りてこちらに来る。


「な、なんだ? 勇者?」


 何故か背筋に寒気がする。風呂に入った筈なのに冷や汗が出る。想像するのは淫らな物。


「ここには美少女がいます。ベットも」


「お、おい!! よせ!!」


 ズリズリ、寄っては自分は逃げる。真剣な顔の勇者が恐くなる。身に覚えるのは危機感。襲われる。


「どうした? 逃げて?」


「ち、近付くなぁあああ!!!」


ドンッ!!


「なっ!? 角!?」


 後退し、隅に追いやられた。逃げ場がない。


「ひ、ひい!!」


 女として襲われると余は震える。


「……………くぅははははは」


 突如、勇者が笑いだし。部屋にあった剣を拾って扉のドアノブ前に移動した。


「よっと、鍵開けっと。ほら開いた」


「なっなっ!?」


 勇者らしくない鍵開けを披露し笑みを浮かべて話し出す。


「俺は外で寝るよ。そうそう、何を想像したんだ? ネフィアちゃん」


「…………」


 顔が赤くなっているのが分かる。おちょくられたのだ。こいつに!!


「あああああああああ!! くっそおお!! ちくしょおおおお!!」


「はははは、おやすみ」


 勇者が部屋から出ていった。自分はその場にへたりこみ悔しさに涙が出そうになる。そうして、数分後落ち着いた。


「くっそ、あとで一発殴ってやる」


 そう決め、部屋を出る。怒りを静めるため。


「使用人を探して勇者が何処に居るかを………」


「なんだ? ネフィア」


「なんでお前がここにいる!?」


 部屋を出たすぐの所で壁に背中を預けて勇者が寝ていた。すぐに手が届く場所に剣を置いて。


「癖さ、安心して寝ろ。誰も襲わない」


「…………お前、もしかして護衛してるのか? ここで? 安全だぞ?」


「エルミアはお前が魔王と知っている。少なからずまったく危険ではないとは言えないさ。まぁそんな事は全くないだろうが……趣味でここにいる」


 真剣な顔で正面を見続ける彼。今さっきとは纏っている空気が違う。


「明日も野宿かも知れないんだろ?」


 今さっきの怒りが嘘のように静まる。


「そうだな。だから早く寝ろよネフィア。誰も通さないからさ」


 優しく勇者が声を出す。本当にここにいるのだろう。


「…………気が変わった。隣で寝ろ」


「えっ?」


 勇者が今さっきとは違って驚いた顔をした。少し仕返し出来た気がして溜飲が下がる。


「まぁ絶対襲わないこと誓えよ‼」


「けっこう前に誓った気がする」


「…………余が忘れてただけか? まぁよい。ここは寝るには居心地は悪いだろうし、ここではなく中で護ればいい」


 それだけ言った後、二人で寝た。何故か安心して背中を預ける事が出来たのは心に閉まっておこう。







 森を抜け出した。


 気紛れで遊びに出た。

 

 禁止されてることに心が踊る。


 そして、人に出会った。


 美味しいものをくれて食べた。


 何かの袋に詰めらた。


 次に開けられたときは檻の中だった。


 泣いても助けてくれなかった。


 殴られた。


 覆い被さった。


 女を知った。






バッ!!!


「はぁはぁはぁ………んぐ………おえぇ………」


 自分は寝ている体を起こし、吐き気を押さえる。すでに起きて支度をしていた勇者が驚いた顔をしたあと。水瓶から水をコップに入れ渡してくる。


「す、すまん。はぁはぁ」


「汗がすごい。いきなりうなされてたが悪夢か?」


「あ、悪夢だった…………」


 男に犯される恐怖を味わった。


「すまん、離れてくれ。知らない男に襲われた夢だ。お前じゃない奴な。他人の夢……」


「…………わかった。先に部屋を出ている」


 勇者が部屋の外へ出る。夢の内容は喋るにはヘドが出る内容だった。


「夢だったが、生々しい。いったい何が…………」


 落ち着くまで。あれがいったい何だったのか考えたが答えは出なかった。わかるのは他人の夢だった事ぐらいだ。




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