卒業式
いきなり中学の卒業式に現れた両親2人はVIP待遇で貴賓席に案内された。
なぜかPTA会長をスルーして父兄代表として挨拶をお願いされる。
明らかに誰なのかというざわめきが会場に広がっていた。
紹介された父さんの肩書に厳かなはずの卒業式は蜂の巣を突いたような騒ぎだった。
総合商社『カバラ』CEO。
父さんは面接時名前も知らない外国の会社だと言っていたがそんなわけなかった。
俺が生まれる少し前に21世紀最大の謎と言われる事件があった。
日本海に突然巨大な島が現れた。
その国は『冒険王』と呼ばれるアルビノのような真っ白な少女女王が統治していた。
日本神話創世に登場する名を持つこの国は長い間論争になっていた『邪馬台国』だとか、中国の伝説の『蓬莱島』ではないかと騒がれた。
偵察衛星網が発達していた時代に今までこんな大きな島が発見されないなんてありえない。
だが常世国の実態が公表されるたびに当時の世界は大騒ぎになる。
高額迷彩と呼ばれる超科学技術で衛星の監視網から隠れていたという。
常世国はオーバーテクノロジーと言える超科学力を有した国だった。
突然姿を現したのは冒険王の王配、つまり女王の配偶者となった人間。
彼が元日本人で、出身血の知事を表敬訪問したいという事だった。
この馬鹿馬鹿しい提案を知事が受けた。
そのつながりで当時内閣官房長官だった県出身大物議員とパイプを作った。
のちに内閣総理大臣となった議員の長期政権の後ろ盾となった。
…と、歴史の教科書にはある。
受験生にとって日々追加修正されていく歴史の教科書は涙目だった。
だが高校受験しない俺には関係なし。
テスト終了と同時に頭の中から消えていった。
そこには筋肉を詰め込むつもりだ。
王配の名前は『
いつもフルフェイスの仮面を被っている。
顔に大きな火傷跡があると言い人前で仮面をとらない。
元日本人らしいが漂流中に常世国に流れ着いたという話だ。
常世国にはこういった流れ着いた日本人が多いらしく、日本語も通じるらしい。
らしいというのも常世国は日本以外の国とは事実上の鎖国をしているからだ。
最低限の交流しかしない。
だがその影響力は絶大だ。
その超科学で作られたとされる金属は常に品薄。
代表的な物は『ヒヒイロカネ』で、その耐熱性脳と硬度はタングステン鋼を遥かに上回る。
現代科学では製造不能と言われている。
宇宙開発やら第3次世界大戦後の次世代兵器開発やらで各国が垂涎の素材として注文が殺到しているらしい。
その注文の窓口となっているのが『カバラ』だ。
地元の沖合に金平島を停泊させ商業活動をしている。
常世国に世界各国が接触しようと試みた。
だが常世国は頑なに日本以外の国と交流しようとしなかった。
教科書に書かれているコロナ禍や第3次世界大戦にも直接関与はせず、日本を影からフォローするに留まった。
第3次世界大戦後に戦勝国を中心に再構成された新国連の参加の呼びかけにも応じていない。
いくつかの大国が武力によって常世国を従えようともした。
だがそのことごとくが撃退された。
核兵器を無力化する『ニュートロンジャマー』という技術は世界の核バランスを崩壊させた。
当時大国だった国が派遣した空母打撃群を『瞬間物質移送器』で相手の首都に転送、直立した艦隊の柱を立てた。
いつ倒れてくるか、原子力漏れが首都で発生するかわからないこの艦隊の解体費用は天井知らず。
これ以降常世国に武力行使しようという動きはなくなった。
サイバー攻撃に対しても量子コンピューターで対応し、『
このウイルスはデバフと呼ばれ額に特定のマークと数字が浮かび上がる。
時間経過とともに数字が増えていき、同時に痛みが襲う。
現代医学ではこのデバフを解除するのは不可能。
解除するには直接常世国に出向かなくてはならない。
そんなSFでしかお目にかかれないとんでも技術のオンパレードな常世国は鎖国を主張しながらも着実に世界を掌握している。
量子コンピューターの管理下に新たなネット網を構築、既存のネット環境を駆逐している。
当時は『5G』という高速無線環境導入期だったらしいがその名をもじって『エンドG』と呼ばれている。
その超高速ネット環境を利用し新たなプラットフォームを立ち上げる。
事実上米独占だったIT関連のシェアを大きく奪った。
常世国の超科学力はこれに留まらなかった。
汚染された海の浄化活動を始める。
プラゴミ問題が叫ばれレジ袋が有料化された時代に日本政府は飛びついた。
常世国は浄化活動を無償で行う代わりにそこで回収された副産物の権利を要求した。
当初副産物はゴミだと考えられていたが驚愕の事実が周知される。
金を海水から回収する技術が確立されていたのだ。
海水1トンに含まれる金は1㎎程度と言われている。
海水に金が含まれている事は広く知られていたがそれを実行しなかったのは単純に採算が合わないからだった。
だが常世国の超過額は採算という課題をやすやすとクリアしてしまった。
海水にはその他のレアメタルも含まれ、日本は新たな供給源を自然と手に入れた。
当然そこには利権が絡むのだが常世国自体は産出した鉱物を相場より安価な価格で卸した。
第3次世界大戦後のサプライチェーン再構築で地元に多くのIT関連企業が誘致され、結果多くの雇用が創出された。
最近では『第2のシリコンバレー』なんて言われ始めている。
近年ではデジタル通貨『デスラー』の普及に力を注いでいる。
日々産出される金などの鉱物の貿易などで大国に匹敵する資金力。
量子コンピューターに管理された堅固なシステム。
それに裏付けられた安全通貨としてデスラーは認知されてきた。
第3次世界大戦時に中立をうたっていたスイス銀行が西側に与した事もデスラー普及の後押しとなったと言われている。
資産凍結を避けるために口座を開設した後ろめたい人間が多かった。
この点を非難する人間は多いが柔軟に対応している。
世界通貨となるのは時間の問題だと言われ始めている。
そんな巨大企業のCEOってどんなコネを使ったのか?
一瞬常世国の王配である一文字の仮面の中の素顔が父さんではないかと考えてしまう。
…だとしたら嫌だな。
一文字は女王の代わりとして式典などにたまに参加している。
ヲタクネタとオヤジギャグでたびたびネットを炎上させている。
それに王配ってことは女王の夫という意味だ。
ヲタ仲間同士一文字と気があったといった感じなのかも。
爺ちゃんのガノ友みたいな感じで。
どう見ても同級生にしか見えない父さんはその挨拶を難なくやり遂げた。
場数が違うという印象。
俺にウインクを送ってきたが半目。
ウインク慣れしてないならするなよ。
しかも俺が息子じゃないかって疑っていた周囲の顔が確信に変わったじゃないか…。
「父さんがカバラのCEOなんて聞いてないんだけど?」
「そうだっけ?」
人にもみくちゃにされながらなんとか帰りのタクシーに乗り込んだ。
世界№1企業と言う人も多いグループ会社のCEOにコネを作ろうと多くの父兄が群がった。
卒業式の主役は俺のはずなのに。
ほとんど話をした記憶のない同級生からすげーまくし立てられた。
なんで黙っていた?とか父さんを紹介して欲しい、とか。
なんとなく父さんが正体を明かさなかった理由を察してしまう。
多分これが最後の学校生活だったから正体を明かした。
高校・大学と進学していれば正体を明かすのは先になったと思う。
ちやほやされて育った子供は碌なヤツにならない。
英雄先生が俺に言った言葉。
なんとなく俺は周囲に守られてばかりの子供だったように思う。
そんな子供は今日で卒業だ。
これからは弱い誰かを守れる男になる!
「ところで父さん…カバラのCEOって事は年収とんでもないでしょ?」
「まあね」
「その息子のお小遣いが月3千円ってどうなの?」
中学生のお小遣いの平均が約3千円だったはずだ。
僕の言葉に都が反応する。
「私が決めたの。
ハジメったらアンタのお小遣い月1億だとか言い出して…」
…は?
「いや、中学生が月1億の小遣いもらったらどういうふうに使うか興味ない?」
我が父親ながら感覚がおかしい。
「アンタ、ハジメのやる事にいちいち驚いていたらあそこで生きていけないから…」
父さん、あっちではなにをやっているんだ!?
「金持ちになったらやってみたかったんだ!
ほら、『東のエデン』とか『ガッツべんけい』とかみたいにさ!!」
多分アニメか漫画だろう。
爺ちゃんがこういった切り返しを好む。
このあとにどんなアニメかと聞くと話が長くなるのは経験済みだ。
華麗にスルー。
都が父さんに腹パンを入れている。
ここがタクシーの中だって忘れてないか?
運転手さん、すいません。
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前作との差別化として地の分を出来るだけ削り、会話で物語のテンポを良くしたいと考えています。
いざ書き始めてこの始まりはそれが出来ていないなと考えました。
本編を補完するプロローグという位置づけがいいかと思いSSとして投稿となりました。
【 閲覧ありがとうございました 】
作品向上のためのご意見・ご感想をお待ちしております。
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