2.

 彼女に会ってから、僕は変わった。金が欲しくてたまらなくなった。この街では金さえあれば、すべてが叶う。

 僕にもできる仕事は、安い賃金か、悪事か、どちらかだった。よく殴られた。よく殴り返した。よく負けた。

 悪いことばかりやった。必死だった。彼女が遠くへといなくなってしまいそうで。  彼女だけを見つづけた。

 毎日、碧い瞳を見にいった。人がいないと近づいて話しかけた。彼女は、錆びた鉄の格子から一歩引いた場所に立った。あまり彼女はその碧色をまっすぐ見せてはくれなかった。いつも、退屈そうで、僕の話を気怠げに、でもちゃんと聞いていた。


 金は少しずつ溜まっていった。少しずつ彼女に近づいている、と思った。危ないことばかりやるようになった。

 しばらくして、もう碧い目が手に入れられると思って、会いに行って、彼女に話した。

 すると、彼女は驚いた顔をして、僕にその碧をまっすぐと翳した。でも、すぐにいつもの表情になって、それから悲しそうに顔を歪めた。なぜかは、僕は分からなかった。

 僕は、彼女を買いにいった。金を抱えて会いにいった。

 値札を持って、売り主に話かけた。そいつは、お前には払えないと馬鹿にして言った。僕が金を見せつけ黙らせると、汚い顔で哂って、奪いとった。あの彼女の金を、     僕から盗っていった。許せなかった。人間はどいつも汚いと改めて知った。自分以外を信じてはいけないと、やっと思う。

 全てが僕から奪われた。何もかも消えてゆくと思った。何もないなか、ただ一つナイフがあった。悪い仕事に使っていたナイフがあった。ただの小さい刃物だった。それを握って、驚きと怒りが殺意に生まれ変わった。汚いそいつに突き立てた。はっきりと死を望んだ。血が周りをマダラにする。汚れた地面を、汚い血で重ねていく。          

 いつも見ている景色と大して変わらない。ただ自分が役を持っただけ。罪悪感など全くなかった。彼女のために殺すのだから。

 ただ、あの大人たちの汚いものが、こっちに移ってきそうで、嫌だった。

 

 牢の鍵は死人のポケットにあった。鍵を開け、彼女の手をとった。この街から出るために走った。彼女は僕についてきた。

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