第5話 スケッチ
訓練が終わり、楽しみの飯を食べ、風呂に入る。
変わらない一日。
夕暮れ。外に無造作に置かれた木箱に腰を掛けて、先輩は煙草を咥えながら掌の上のメモ紙に鉛筆で何かを描く。
訓練所に遊びに来ている、白い犬だ。
耳が垂れた、中型犬。皆が可愛がっていた。
犬の名前も思い出せない。だが、柔らかな毛の手触りは記憶の何処かにある。
「 はいいな、動かずにおとなしく座っているから、描きやすい」
先輩は、一部の人の前でしか絵を描かない。以前、上官に見つかり小言を言われたからだ。
何処か笑っているような白い犬の絵と、先輩の文字が小さな紙に所狭しと並んでいる。
「 君も、俺は軟弱者だと思うかい?」
先輩の煙草の薫り。私である俺は、即座に答える。
「素晴らしい絵だと思います! の良さが、分かりやすいと思います」
言葉足らずで、洒落た返事も出来ない自分こそ軟弱者に思う。
「 君は、素直だな。今度、君を描かせてくれ」
どうして、顔に光が当たって見えないのだろう。
貴方の顔と名前を、思い出したい。
貴方の夢を見ると、胸が苦しい。俺は、描いて貰えたのだろうか。
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