第4話 足跡

俺は走っていた。まだ朝も早い、仲間達はまだ寝ていた。


気が付いたのは、寝返りを打った時。寝ぼける視界の先、ドアと床の隙間にどこか乾いた紙が一切れ。


『瀬を早み 岩にせかるる滝川の 割れても末に 逢はむとぞ思ふ』


神経質な筆。

俺はその手紙を手に、寝間着のまま駅に向かって走り出した。


昨夜遅くから降り始めた雪が、辺りを白く染めていた。冷たさも感じない。俺は必死に駆ける。

昨日、先輩は荷物をまとめていた。胃潰瘍で血を吐き暫く救護室で過ごしていたが、このままでは兵隊としてお国の役に立てないと判断されて郷里に帰ると話していた。


夢を見ている私には分かる。胃潰瘍は現代では治る病気だ。でも、その当時は不治の病だったのだ。



駅に向かう道に、足跡が続いている。しかしこの雪で、それはすぐに消えてしまいそうだ。


だから、私は雪の風景が切なくて寂しい。この時の記憶なのかもしれない。



始発の電車は、もう出発した後だった。山桜の吸い殻に、雪が薄く積もっていた。



歌の紙を握りしめて、俺は声を押し殺して泣いた。





先輩。

割れても末に、のように。





貴方にまた逢えますか?

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