第5話 八つ首
そこは賑わう駅前。人でごった返す場所。雲に紛れてその上空に揺蕩うアヅチ。
「雲型迷彩の加減はどうだいサイカク」
「上々でさぁ。それよりこれからどうするんです?」
「風が出て来て周りの雲が動いたら、それに合わせて列車ムサシの前へ出ろ。そんで出発寸前で真上に付けろ」
「ほうほう、そんで?」
「出発したら同時に飛び乗る」
「ははぁ! そいつは大盤振る舞いだ!」
キセルもいいとこだが、正規の方法では倶利伽羅をムサシには乗せられない。ではどうするか? ノブナガの述べた通りだ。
風来坊の風が吹く。列車の警笛が鳴る。いざ尋常に――
「――勝負」
倶利伽羅はムサシに飛び乗った。
●
蛇の腹の中、そう形容するのが相応しいだろう。これこそがヤマタノオロチの死骸から作られた神聖列車。
その屋根に、いや背中に穴を開けて飛び乗った倶利伽羅は辺りを見回す。
「これが……ムサシ」
『如何にもお客人』
「誰だ!?」
突如、空間に響く声、それはまるでノブナガが来る事が分かっていたかのように余裕を持った声音だった。逆に虚を突かれたのはノブナガだ。
『列車には車掌という者がいるのですよ、ノブナガ様』
「いよいよ狸くせぇ。お前、イエヤスだな?」
『カカッ! まあ隠すつもりもありません。もとよりこの腹に入った時点で貴方は終わり……』
「何?」
『ヤマタノオロチの権能は八つの首がある事。八つの命。この列車に乗ったものはその魂を八つに分解される。さあそのまま弱った魂を一つ一つ喰らうて差し上げましょう』
そこでノブナガが笑みを浮かべる。倶利伽羅を操り、刀を構える。
『ここから逆転の目があるおつもりで?』
「俺の倶利伽羅はあらゆる権能を否定する! だからミツヒデの天照も地に落ちた! 俺の倶利伽羅は互いの性能勝負に持ち込む力技の大絡繰サ! 風来坊ノブナガの倶利伽羅は天下無双! 腹の中に入れた事を後悔しなァ!」
『……なるほど、ならばその強固な魂、八つ顎で砕いてみせましょう。ムサシ真形態へ移行』
がこんがこん! 轟音が鳴り響き、ムサシが姿を変える。それはまさしく『大怪獣』、神聖の頃の姿、ここにありきという風貌。
「そうでなくちゃ面白くねぇ!」
そこで大蛇の背に砲撃が直撃する。そこにあったのは大盾と大砲だ。壁にも見える。
「これがヤマタノオロチ! いよいよこの素戔嗚も真価を発揮出来ようというもの!」
『ヒデヨシか!』
「騙し絵は出来上がったな。さあさ、あとは画竜点睛と行こうじゃねぇか!」
倶利伽羅がムサシ、いや大絡繰『八岐大蛇』の首を列車の屋根から屋根へと跳ねて一つ刎ねる。血飛沫も飛ばない。残骸が落ちて行く。
さあさ、まずは
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