第3話 まつろわぬ神


 人を呪わば穴二つ、神を呪わば――


 ●

 

 アサギリ城にアヅチで突っ込む一行。


 ●


「主砲を打ち込むぜぇ! 風来坊の旦那!」

「応! ぶちかませ!」

 瘴気砲が渦を巻いて火を噴いた。アサギリ城はその一撃で燃え上がる――はずだった。そこにあるのは光の障壁。神聖の力としか思えない。


「どこのどいつだ!?」

『まさか、あなた様と再び相まみえようとは』


 天から来る梯子、それを降りる翼の生えた大絡繰、それは天照あまてらすと呼ばれるの機体だった。


「ミツヒデ!」

『ノブナガ様、あなたは此処にはいてはいけない人だ』


 ミツヒデは神機・天照を駆っていた。

 それは天下を三分する大絡繰『天照アマテラス』『素戔嗚スサノオ』『月読ツクヨミ』の内の一機である。


『本来ならば魔人を討った時点で天下は平定されるはずでした。それが誰の手に渡るかは分からずとも。しかし、魔人が放った「時代変転」の呪いのせいでヒノモトは三つの神機に分かたれた』


 ノブナガ、倶利伽羅で空中にいる天照に斬りかかるも。



 時代変転、本来ならば太平に向かうはずだった歴史が混沌の瘴気に落ちた呪い。

 しかし、それと魔人は無関係のはずだった。少なくとも風来坊ノブナガの認識はそうだった。

 光神ミツヒデは語る。


『私が天照こんなものを駆る破目になったのもあなたを殺し損ねたからだ』

 

 ノブナガ、倶利伽羅で天照を落とそうとする、が届かない。そして――


『天輪、墜ちろ』


 光線が降り注ぐ、それは倶利伽羅を焼き焦がし、アヅチの甲板にまで被害を及ぼす。


「チョロチョロ飛んでんじゃねェ! 降りて来て正々堂々戦いやがれ!」

「気炎万丈、行けます!」

「キチョウ! 行くぞ! 大炎斬!」


 天照の翼を切り落とす倶利伽羅。だが。


「天照の性能はこんなものではない」


 光剣を抜く天照、大太刀を構える倶利伽羅。剣戟は繰り返され、アヅチの甲板はめくれ上がり、衝撃で戦艦が揺れる。

 

「おいおい! 神機同士の戦いなんてアヅチがもたねぇ!」

「なんとかしろサイカク! とは言ってられねぇか……降りるぞキチョウ!」

「ですが、それだと町に瘴気が……」


 冷酷に言い放つノブナガ、彼の中の魔人は消えていないのか。天照をアヅチから押し出す倶利伽羅。落ちる、落ちていく。地面に激突する。

 天照は障壁を張り無傷、一方、倶利伽羅は落下による衝撃で絡繰の機構に歪みが出来た。


「キチョウ! 大丈夫か!?」

「……っぅ、旦那様こそ」

「心配いらねえよ……こちとら天下取りの風来坊だ……」

『楽に殺してあげます。どうか投降を』

「殺すと言われてはいそうですかなんて馬鹿がいるかよ!」

『残念です、では無惨に殺すと致しましょう』


 天照が光剣を振りかざす、それは大気を斬り裂き、倶利伽羅に届く、間一髪のところを大業物で受け止める。しかし。

 

「旦那様! 刀にヒビが!」

「光剣相手じゃ分がわりぃか!」

『ここまでです』


 そこに。


『やぁやぁ! ミツヒデ! ここまで神機を持ち出すのは領地内とはいえ協定違反じゃないか?』

『……そういう貴方は敵領地に神機を持ち込んでいるようだが?』

『こいつか? こいつは神機じゃないさ。うちの職人に造らせた特注の模造品「素戔嗚スサノオ」だ』

「名前の付け方は相変わらずだな


 ノブナガはそう口走る。天下三分の神機を操る天下人。その一人がミツヒデの領地、光の国の一端に現れた。それは一大事である。


『ああ! ノブナガ様! あなた様の草履! 今もまだ持っておりますぞ!』

「やめろ気色わりィ。誰が懐で温めろなんて言ったよ!」

『形勢逆転とは思いませんが、光翼を失った今は退くのが得策でしょうか』


 光に包まれる天照。


「逃げんのかてめぇ!」

『また一対一で戦いましょうノブナガ様』

「夜襲を仕掛けて来たヤツの台詞じゃねーな!」


 光に包まれて消える天照。転移したようだ。なにもかも規格外、それが神機。倶利伽羅も分類的には神機に含まれるが、天下三分の三機と比べると性能に劣る。しかし。これでアサギリ城は守りを完全に失った。


「サイカク、アサギリ城に降伏するように勧告を出せ」

「受け入れるかね?」

「こっちにはヒデヨシがいる。業腹だが、今はこの領地、あいつに預ける」

「旦那様……」

「いつか取り返すさ、貸しとくだけだ」


 こうして光の国での一端の戦闘は一時幕引きとなる。これは戦乱の世を勝ち貫く、まつろわぬ神、風来坊ノブナガの伝説の始まりである。

 それにしてはキチョウにヒデヨシとおんぶにだっこだが。

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