第2話 光の国


「おお、おお旅のお方、お宿はどうだい?」


 客引き数多の道中。刀までは隠せない。侍と言えば高給取りだ。いい金鶴だ。引く手あまたなのも仕方ない。その町は光り輝く工芸品が煌びやかに店に並んでいた。


「こちとらただの風来坊だっての」

「でも宿はどうしましょう」

「んなもん、そこら辺の馬宿でも借りれば――」

「強盗だーっ!」


 町の一角がざわめきたつ。大荷物を抱えた男が一人駆けている。ノブナガはさっと走り出す。


「旦那様!?」


 その大荷物の男に飛び蹴りを喰らわすと、男はすっころんで荷物をぶちまけた。それはガラクタにしか見えなかったが――


「こりゃあ、大絡繰の部品じゃねーか! どこでこんなもん……おい盗人」

「ひぃ!? 刀!?」

「殺しゃしねーよ、こいつをどこで――」

「よくやってくれた! ありがとよ兄ちゃん!」


 そこで白髪の爺さんに話かけられるノブナガ。怪訝そうに。


「あん? あんたの荷物かコレ」

「如何にも、天下の絡繰職人と言えば俺の事よ、今はでっかい船をこしらえてるところだ」

「船! 飛ぶやつか!?」

「応! 飛ぶやつだ!」


 そろーりそろーりと逃げ出そうとする盗人を捕まえておくキチョウ、とてもじゃないが華奢な見た目の女人の力ではなかった。


 意気投合するノブナガと爺さん。二人は近くの飲み屋に入る。キチョウは盗人を近くのドウシンに預けると、それに付いて行く。


「俺のおごりだ。取り返してくれたお礼にな!」

「ありがてぇ、酒なんていつぶりだ……! かーっうめぇ!」

「いい飲みっぷりだ!」

「爺さん名前は?」

「俺か? 俺はサイカク、絡繰職人やってるが、それ以外にも手広くやってる」


 飲みながら会話を続ける二人、ノブナガは風来坊である事を、サイカクは大きな空飛ぶを造ろうとしている事を、ノブナガは国盗りをしようとしている事を、サイカクは戦艦を買い取ってくれる人物を探していた事を。

 互いに話し合った。そして、利害は一致した。


「キチョウ! 全財産はたくぞ!」

「はい!?」

「戦艦だ! 戦艦を買うんだ!」

「……それが国盗りに必要ならば」

「勿論!」

「毎度あり!」


 サイカクの工房に向かう一行。歩いてさほどかからない。道中、「反逆者のサイカクよ……」なんて噂話がノブナガの耳に聴こえた。

 そこは巨大な伽藍洞だった。工房というには巨大すぎた。

 そこに鎮座するは真っ黒の船、砲塔を備え、羽根を付けた異形。


「これが戦艦かァ!」

「気に入ったかい?」

「ああ! ああ! 最高だ! これで国盗りが出来る! まずはこの町の城を落とそう!」

「賛成だね、俺も操舵士として乗ろう。こいつの駄賃はこの町でいい」

「そんなの実質タダじゃねーか! おいまずはあの山までこいつ飛ばせるか!?」

「いいけどよ、何があるんだ?」

「俺の倶利伽羅だ」


 事情を話し倶利伽羅を回収するため発進する戦艦。


「戦艦の名前、なにがいい?」

「アヅチ! アヅチがいい!」

「ほう、魔人ノブナガの城か、いいねぇ」

「サイカクさん、この炉に瘴気を入れればいいので?」

「応よ、頼むぜ奥さん」


 伽藍洞をぶち壊し飛び上がる戦艦アヅチ。その巨体に町は騒めきたつ。


「いよいよあの謀反人動きやがった!」

「だからみんな止めたのに!」


 山へと向かうアヅチ、その速度は大絡繰で走るより早い。


「こいつは超越物だな。これも時代変転の影響か」

「分かるかい? さすがは魔人と同じ名前なだけあるね、こいつの核には龍の心臓が入ってる」

「なんだって!?」

「神聖の臓物ですか……それは立派な炉になりましょう」


 キチョウは重々しく頷いた。

 アヤカシと似て非なる瘴気を喰らって大気を浄化する神聖、それが龍。普通、人の手に負えるモノではない。


「どうやって……」

「知らねーのか風来坊さん、この町は神聖の死骸から出来たのさ、とびきり大龍だ」


 光の国をは文字通り、光の屍の上に作られた凄惨不潔の理想郷。あの町で見た光輝く工芸品の数々も神聖の屍から作られたものなのだろう。


「旦那様、深入りしない方がいいかと呪われかねません」

「……そうだな」


 神聖に手を出したとあっては、その恨みを買いかねない、という事だ。しかし――山にたどり着き倶利伽羅を回収する、と。


「おいおい、こいつも神聖の鱗で出来てるじゃねーか!」


 サイカクは一発で見抜いた。そう倶利伽羅もまた。神聖から作られた大絡繰だった。


「俺のは貰い物だ。縁起が良いだろう? そんな事より、早く国盗りと行こう。此処の城は?」

「アサギリ城だ」

「聞いた事もないな」

「小さい城だ。アヅチの主砲を叩き込めば一発で落ちるだろうぜ」

「光の国も此処から終わりか」

「いいね闇出時やみいずるときだ」

「恰好つけすぎだ」


 いよいよ城攻めが始まろうとしていた――

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