魂本
操霊師か、操魂師が壮史の件に関わっているのではと考えたのは、ただ単に気配を感じ取って、結びつけただけだ。
第六感だけで動くなと立花には叱られたが。
嫌な予感が肥大化していって。
なにもわからないままに。
なにもわからないからこそ。
操られはしないと自負していたからこそ。
操霊師か、操魂師ではないかと疑ったジイに対し、関わっているのかと直接問い質した。
見えもせず聞こえもしない振りでもするのかと思ったがせずに、ジイは俺を認識して黙って話に耳を傾けて。
どちらでもあると正体を明かして。
見守っているはずの壮史も、無関係の凛香も傷つける。
惹かれたから肩を並べるし、背中を押すと明言したのだ。
肩を並べるのも背中を押すのも結構寧ろ偉いと褒めてやりたい。
傷つけない方法であったのならば。
可愛い孫娘を傷つけると言われたのだ。
腸が煮え繰り返る。
なのに。
ただの第六感だ。
憎みたくないと思ってしまった。
逃げろ、逃げろ、逃げろ。
孫娘に片腕で抱えられながら、しかも逃げろと言うしかないこの状況ほど情けない話はないだろう。
けれど、今はそれしかできない。
魂を収集する本の妖怪、
対処は逃げ切るのみ。
魂本は魂を差し出す代わりに、己が身を護ってもらう力弱き存在だ。
力を求める妖怪の元に連れて行かれるのは、必定。
(いや、妖怪、とも決めつけられねえけど)
どんな存在であっても、碌な目に遭わないことは必定だ。
だから逃げ切るに限るのだ。
が。
(凛香)
霊に感覚はないというのに、この疾風はなんだ。
皮膚と眼球の渇きは。喉の圧迫感は。交互に訪れる寒さと暑さは。口に広がるほのかな甘味と塩味は。
押し寄せてくる。
凛香の高揚と絶望が。
走りたいという欲求。
肉体という制限がなくなって真の自由を得た凛香のそれは留まるところを知らない。
(凛香)
話しているのだ。叫んでいるのだ。
けれど。
どうしてだろう。
届いている気がまるでしない。
「大丈夫」
(凛香)
久方ぶりに口を開いた凛香はしかし喜朗に視線を向けることなく、前だけを見据えて言った。
「大丈夫。助け。呼ぶって言ったから。俺、行くよ。閻魔大魔王さまのところに」
(凛香!?)
感覚はないはずなのにどうしてだろう。
だめだと言い過ぎて口と喉がひどく痛む喜朗であった。
(誰か凛香を止め、ないまま助けてくれ!!)
これまでも恋しさ故に肉体を抜け出した凛香に、度肝を抜かされてきた。
走るのが好きで、俺たちを探していたんだと言うが、遠くへと走り続ける凛香を見つけるのはいつも俺か立花だった。
決して両親の元へは行こうとしなかった。
場所を知っているかどうかは関係ない。
会えなかったのだ。
怖かったんだろうと思う。
もし違う家族を育んでいたら。と。
凛香は肉体を抜け出したことを覚えていないし、知っている珊瑚や梨響、神路が伝えることはなかったが。
(今回乗り切ったら、教えるように言おうか)
自分たちがいるからいいと甘く見ていた。
自然に治まるまで待とうと。
(制御する術を考えねば)
(2022.2.23)
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