ソース漬けカツ丼
どうしてだろう。
渇望が抑えられない。
この刻どうしてもじいちゃんに会いたくなった。
じいちゃんに会って、じいちゃん特製のソース漬けカツ丼が食べたくなった。千切りキャベツが申し訳ない程度にご飯とカツの間に挟まっている。
もちろん、珊瑚も作れるけど。
やっぱり作り手が違うと味も違ってくるんだろうか。
珊瑚のは、少しだけじいちゃんの味とは違う。
もちろん美味しいほっぺたが落ちるくらい。
けど少しだけガツンドが足りない。
食べたい食べたい食べたい。
渇望が抑えられない。
「じい、ちゃん?」
「りん、か」
これはきっと夢だろう。
だって俺は珊瑚たちみたいにじいちゃんが見えないから。
ああそうか。
夢の中だけでもソース漬けカツ丼を食べられたらいいなって。
我慢できない俺の願望を叶えてくれたんだろう。
でもだったらどうして。
じいちゃんは笑って作ってくれていないんだろう。
じいちゃんは険しい顔でジイさんに詰め寄っているんだろう。
じいちゃんが俺を見て、とてもびっくりしている。
ジイさんが俺を見て、少しびっくりして。
やわく持ち上がった上瞼が下瞼にくっついて、目尻が下がった。
ああ、笑っているんだ。
どうしてだろう。
少しだけ珊瑚に似ていると思ってしまった。
ジイさんの手が伸びてくる。
捕まえようとしている。
状況なんてさっぱりわからない。
「凛香!!」
「梨響が逃げろって言ったから逃げる!!」
きっと夢だからだ。
夢なのにこんな怖い思いをさせるなんてひどいと思いながらも、反面、夢でよかったと思う。
だって夢でなければ、じいちゃんを片腕で抱えて駆け走るなんてできるはずがないんだから。しかも空中を。空中って走れるんだなすごいな。まあ夢だからだろうけど。
「おや、どうしましたか。まだ丑三つ時を少し過ぎた時分ですが」
瀧雲は訪ねて来た道花を診療所には入れずに外で話を聴く事にした。
柔和な態度の瀧雲に尋ねられた道花は視線を右往左往させながらも、声だけは冷静にどうしてでしょうと言った。
「どうしてでしょう。あなたに会わなければと」
「そうですか。では、本当は八恵華さんが眠っている間に済ませようと思ってたのですけど」
突如として襲ってきた幾重もの蔓を躱して、瀧雲はその出処である道花に向かって一礼してのち、言った。
治療を開始しましょうか。と。
(2022.2.21)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます