二十六夜月




 操霊師は、いつまでも漂い続ける死者の霊の生前の記憶を掘り起こし、未練を聴いては問題を解決して行くべき場所へと導く、禁忌ではない存在だ。

 霊を使って道を外れる行為を起こさない限りは。

 しかし操魂師はそうではない。

 存在自体が禁忌であった。

 生者の身体から魂を抜き取り、記憶を操るのだから。








 たゆたう、たゆたいつづける。

 別の場所へ行ったかと思えば、元の場所へ戻り、また別の場所へ。

 縛り上げない限り。

 たゆたう、たゆたいつづける。


 消えはしません。

 ぜんぶ、ぜんぶ。

 あなたも、あなたもあなたも。

 ぜんぶぜんぶ覚えていますよ。


 いつか私を眠らせると言ったあなたも。

 私を消さないでと言ったあなたも。

 私を探し出しますと言ったあなたも。

 私が裏切っても構わないと言ったあなたたちも。

 ぜんぶぜんぶ覚えていますよ。

 今までも、これからも。

 

 ねえ、あなたは最後。

 私にどんな言の葉を残していくのでしょうね。








「明日、十三時に決行しましょうか」


 刹那、二十六夜月が紅に染まり上がったのを知るのは、ここに集う三方だけだった。











(2022.2.20)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る