妹とカップ麺
一正雪
第1話
「ねぇ、赤いきつねと、緑のたぬき、どっちにする?」
キッチンの方から妹が声をかけてきた。
引っ越しの手伝いで、今日は妹の新居に泊まることになった。
「どっちがなんだっけ?」
荷物を端に寄せながら、聞き返した。普段、カップ麺を食べないから、いまいちピンとこなかった。
「んー、とね、きつねがうどんで、たぬきがそば!」
目が悪いからか、字を読むのに時間がかかっていた。掃除の邪魔だからと言って、さっき妹は眼鏡を外していたのを思い出した。
「んー、じゃあ、たぬき!」
キッチンにいる妹に聞こえるように、答えた。
「分かった!…あっ!」
「どうしたの?」
気になる声が聞こえたので、キッチンに顔を出した。
「ごめん、お姉ちゃん。ふた開けたら、中の天ぷら飛んでって、シンクの中で砕けちゃった。」
「は?どうしてそうなるの?」
「いや、ホントごめん!何か勢いよく開けすぎた。ふたも間違って全部はがれた。…マジでごめん!」
こいつ、カップ麺作ったことないのか?マジでか。こんなに不器用なのか。一人暮らし大丈夫か。
言葉は出てこないが、頭の中で妹の事が心配になった。
「仕方ない。いいよ、食べれない訳じゃないから。」
笑ってやった方が良かったんだろうが、引っ越しの手伝いと、昨日までの仕事の疲れでどうでもよくなった。
「ホントごめんね…」
少し、眼を潤ませながら妹がもう一度謝る。
「大丈夫だから。気にしなくていいよ。シンクの中まだきれいだし、集めて乗せれば大丈夫でしょ。」
さっきよりは明るい口調で答えた。
「じゃあ、私の油あげ、半分こしよ。」
そう言って、妹は赤いきつねにもお湯を注ぐために蓋を開けた。
しかし、蓋は勢いよく容器と離れる音がして、そのまま中の油あげが宙に舞った。
さっきもこんな感じだったのかと考えてる内に、油あげは見事にシンクの中にカァーンと音をあげてダイブした。乾燥していた油あげはきれいに割れた。
「ごめぇぇん、お姉ちゃん!」
ほぼ半泣きの妹がこっちを見る。
私は、赤いきつねの蓋を手に持ったままの妹の様子と、さっきの油あげの見事な空中での回転を見て、おかしくなって声をあげて笑った。
「なんで、そうなるの?ホント、不器用すぎ。」
笑いながら、妹に言った。妹もつられて笑い出した。
「ごめん、力加減おかしいよね。」
一通り、笑いが落ち着いてから、シンクの中に砕けた天ぷらと油あげを二人で集めて、容器に入れて二人で、お湯を注いだ。
ガムテープで蓋を止めたカップ麺を眺めて、また、二人で思い出し笑いをした。
妹とカップ麺 一正雪 @houzuki
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