第10話 突如現れた謎のヒーローは
最悪だわ……。
私の名前は――、リリィよ。微妙に間が開いたですって? 細かいことにいちいち突っかかってると嫌われるわよ?
私の生まれは神聖王国ヴィルフェイニア。神聖教を国教とする国で、今やその教えは世界中に広まっている。
私もある理由から神聖教にお世話になっていたけれど、神の意志と称し魔族排斥主義を推し進める体制、未だ続く獣人族へ対する差別意識に嫌気が差して国を捨てた。
以前から世界の創造主たる神が、魔族へ人族をけしかけることに疑問を感じていた。
しかし、私に国を捨てる決意をさせたのは獣人奴隷の表情だった。この世のすべてに絶望したような目。あれを間近で見てしまった夜は寝つけなかったわ。
あんな表情をさせる人族が本当に高潔で高貴なのか、すべての頂点に君臨すべき種族なのか。
その日を境に、目につく周りの物すべてがひどく汚らわしいものに見えてしまった。
そして決意する。他の国を見て判断しようと。この国だけではすべてはわからないと。
そして私はヴィルフェイニアを捨て、最西端の国、スメニア王国へたどり着いた。この国へ来て初めに思ったのは、獣人と人族が共に笑顔で共存していたことね。
素敵だったわ。手と手を取り合い共に生活する姿はあの国では見られなかった。
この国ならば私の疑問にも答えてくれる。そう思い、私はとある町で冒険者として活動することにした。
私はファイトラビットを狩って日銭を稼いだわ。あの腕から繰り出されるパンチは脅威だけど、当たらなければ問題ないわ。他はただの野兎と変わらないのだから。
そして私は晴れてEランク冒険者となる。まだまだ低ランクだけど、すぐにでもDランク、ゆくゆくはブロンズランクも遠くないわね。
その日、初めての討伐任務を受けようとしていた時、声がかかる。
「よぉ、最近ファイトラビットが安く手に入ってるって聞いたがあんたか?」
声を掛けてきたのは私よりもはるかに大きい男だった。
「そうだけど、なによあんた。今忙しいんだけど?」
「まぁまぁそう睨むなって。あんたEランクに昇格したんだろ? ちょっと受付の声が聞こえてな。これから岩場の近くにゴブリンの討伐に向かおうしたんだが、どうだ、一緒に行くか?」
「ゴブリン? あんな何もない所になんでいるのよ?」
「さあな。どんな理由かは知らねぇが、目撃情報があったんだ。巣作りでもしてたら一刻も早く潰さなきゃならん。その身なりだと魔法が使えるんじゃないのか? 臨時でいいから混ざってくれねぇか?」
なんだか胡散臭くて怪しかったけど、渡りに船だと思って引き受けてしまった。それがあんな面倒なことになるなんて。はぁ、最悪だ……。
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「なんですって!? 私を騙したのね!!」
「騙してなんかねぇよ、実際ここにはゴブリンの目撃情報はあったんだからよ。」
「昨日兄貴が一匹見ただけじゃないですか。」
細身の男がけたけたと笑って言う。
一匹だけって、私が来る必要なかったじゃない。
「そんなものの為に私をパーティに誘ったの?」
「そんなものって、おいおい……。ゴブリンは根絶やしにしねぇと、すぐ増えるんだぜ。お前のような女を攫ってな!」
げらげらと笑う大男。
こんなことならギルドで断っていればよかったわ。
「時間の無駄だったわ。帰らせてもらうわよ。」
「おっと待ちなって、俺たちはお前の為を思って誘ったんだぜ? 数の少ない相手にお前をぶつけて討伐の経験をさせてやろうっていう優しさだ。」
「まぁゴブリンだけじゃすぐ終わっちまうからな。そのあとは、俺たちがいろいろと経験させてやるよ。いろいろとな!」
背の小さい男が下卑た笑みを浮かべる。
ドワーフ? いや、ただ背が小さいだけかしら。
「なによそれ、考えてることがゴブリンやオークと対して変わらないじゃない!」
「おいおい、あんな考えなしに腰振ってるクソ共と一緒にすんなよ。俺たちはちょっと遊ぼうぜって話をしてるんだ。」
「結局それが目的じゃない!! 薄汚いわね、あなたたち!」
「何とでも言え、すぐにそんな悪態もつけなくしてやるよ!」
咄嗟に大男に腕を掴まれてしまった。しまった!?
「くっ、離しなさい!」
その時、気の抜けたような声とともに大男が吹き飛ばされた。
いったい何が起こったの? その場は時が止まったような時間が流れた。
いや、一人だけ動く者があった。
「ねぇ君、大丈夫?」
「へ? え、えぇ大丈夫……、って、誰あんた!?」
そこには今まで居なかった
「僕? うーん……。通りすがりの、プロレスラー?」
「な、なにそれ……?」
なんだかわけのわからないことを言う男の子との出会いだったわ――。
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その後、アキラと名乗ったこの男の子は町の門でFランク冒険者であるとわかった。
なによそれ、私よりランクが低くてあの動きは反則よ!
そのかわりアキラもなんだか私のランクに驚いていたようだけど。
それよりも私たちの話を聞いていた
その後、再び岩場に戻った私たちは無事にあの四人組を馬車に乗せることができたわ。あんな最低野郎たちは一生鉱山にでも籠っていればいいのよ。
今回の件は、冒険者ギルドに報告しないといけないため、アキラと一緒にギルドへ向かったわ。
お世話になっているシルビアさんが、私のことを睨んでいる。な、何? 私何かしたかしら?
今回の件を報告するととても心配されたわ。アキラが。理不尽な!
そういえば、どうやらこの子はずっと一人で活動してるみたいね。どうしようかしら。私もそろそろ相方が欲しかったのよね……。
Fランクでまだソロであるなら、今のうちにパーティを組んでおくべきよね。
それに、なんだか面白そうな子だし。
「ねぇ、アキラ。あなた一人なんでしょ? どうかしら。私とパーティ組まない?」
その時シルビアさんから不穏な空気を感じた。しかし、アキラが了承してくれると
、一気にその空気が霧散した。もう、一体なんなのよ!
その後、シルビアさんがアキラにご執心であったことを知った時、当時の私はなんて怖いもの知らずだったのかと今更ながらに恐怖した。
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