第9話 警察官の仕事は
岩場から歩くこと三時間、僕とリリィは貿易都市カルツォーの南門にたどり着いた。
冒険者ギルドは東門の方が近いけれど、今の目的はギルドよりも優先すべきことがある。
先ほど叩きのめした冒険者四人組を捕えてもらうべく、衛兵さんに報告するためだ。
これだけならわざわざ南門ではなく東門でもいいだろう。しかし、ここ二日ほど利用した東門を守る衛兵さんは、なんだかあまり仕事熱心ではないというか、少々おざなりな仕事ぶりだったため今回は遠慮した。
さて、ではどうして南門なのかというと――。
「こんにちはー。」
「ん? やぁ! 君は確か、最近この町に来た子だったね! 冒険者登録は無事に出来たかい?」
そう、初めてこの町に来た時、お世話になった衛兵のお兄さんだ。子供を相手にするような態度を差し引いても、丁寧な仕事ぶりが感じられる彼に、今回報告しようと思ったわけだ。第一印象は大事だよ? うんうん。
「はい、なんとか出来ましたよ。これです。」
僕は、一昨日もらったギルドカードをお兄さんに見せた。
「うん。ちゃんと発行してもらえたようだね。じゃぁちょっと魔道具に冒険者証を
普段ならこのままカードを翳せばいいが、今回はちょっと事情が違う。僕はその旨をお兄さんに伝えた。
「ちょっとその前に至急お伝えしたいことがあるんですが……。」
「え? どうしたんだい?」
「実は、この子が男性の冒険者四人組に襲われていまして、たまたま居合わせた僕と二人でなんとか退けたんです。今岩場に縛り付けているんですが、人手を貸していただけませんか?」
「なんだって!? そんなことがあったのか……。君も最近この町に来た子だね。怪我はないかい?」
視線をリリィに合わせたお兄さんが、容体を聞いてくる。
「ええ、大丈夫よ。」
僕が発見した時はまだ、事に至っていなかったため問題ない。発見が遅ければ分からないけど。
「そうか、よかった……。」
安堵のため息を吐くお兄さん。その時、詰所から中年の男が出てきた。
「どうした、ルーク。急に大きな声が聞こえてきたが……。」
「っ! ジョセフ隊長! お疲れ様です!」
声を掛けられたお兄さん――、ルークさんは、ジョセフと呼んだ男に敬礼する。
「やめろやめろ。もう隊長じゃないと何度言ったらわかるんだ。」
ジョセフさんは、やれやれといった表情で否定を表すため手を振る。確かに隊長というか、そもそも兵士といった格好ではない。むしろ冒険者の方が妥当かもしれない。
「す、すみません……。実は彼女達が冒険者に襲われたようでして。」
「ふむ、詳しく聞かせてもらってもいいかな?」
柔和な笑みを浮かべていたジョセフさんは表情を引き締め、僕とリリィに向かって質問してきたため、詳細を含めた説明を始めた。
・
・
・
「あいつらか……。度々問題を起こしていたが、今回ばかりはもう言い逃れは出来んぞ。いや、させん。」
一通り今回の顛末を話し終えると、ジョセフさんは怒気を含めた表情で吐露した。彼らは以前から問題を抱えている奴らだったらしい。
「岩場で退治したため、ここまで連れてくる手段がなかったので、人手を借りたいと思うんですが……。」
僕は、先ほどルークさんに伝えたのと同じく、ジョセフさんにも人員の催促をした。
「ああ、そういうことなら、すぐにでも人を手配しよう。っと、自己紹介がまだだったな。俺の名前はジョセフだ。以前まで隊長職なんてものに就いていたが、今は退役し、
「アキラです。Fランク冒険者です。」
「リリィよ。Eランク冒険者。」
――。
「え?」
「えぇ!?」
「なんだと!?」
僕とリリィが自己紹介をすると僕、リリィ、ジョセフさんで三者三様の反応を示した。
僕はリリィに対して、強力な魔法を打ち込んだ実績とランクの相違について。
リリィは僕が自分のランクよりも低いことに対する驚き。
そしてジョセフさんは、Cランク冒険者を低ランク冒険者二人が打ち負かした事実に驚愕した。
「あんなすごい魔法使えるのにまだEランクだったんだね。もっと高ランクかと思った。」
「何言ってんのよ! あんたなんて私よりも低いランクとは思えない動きしてたわよ!?」
「いやいや相手はCランクだぞ!? それを二人で、しかも低ランクだと!?」
三人でやいやいと言い争う。ん? ルークさん? 僕が対峙した相手がCランク冒険者だって知った時から、口を大きく開けて止まったままだよ。
一向に止まない言葉の応酬に鶴の一声がかかる。
『おい、その辺にしとかないと日が暮れるぞ?』
おお、天の声、もといランドが終止符を打つべく僕に声をかけた。
僕は、この不毛な? 言い争いを止めるため声をかけた。
「すみません。そろそろ岩場に向かう準備をしないと……。」
「そ、そうね。こんなことを言い争ってる場合じゃなかったわ。」
「あ、ああ、すまない。いつまでも奴らを放置するわけにもいかないな。ルーク。おい、ルーク! いつまでだらしない顔してるんだ。衛兵を二、三人手配してくれ。俺は他の
「は、はい! 了解しました!」
・
・
・
「この先です。」
「うむ、ついに引導を渡してやる時が来たな。」
南門のやりとりから二時間、日の光もだいぶ傾いてきた頃、岩場に馬車と数人の男女がいた。
「本当にリリィはついて来なくてもよかったんだよ?」
「別にいいじゃない。ついて来ると何か問題かしら?」
「いや、別に問題じゃないけど……。」
リリィは今回の被害者だ。多少なりとも男に恐怖心が芽生えているものかと思ったけど、そんな素振りは微塵も見せない。逞しい子だ。
そんなことを思っていると、冒険者四人組を縛り付けた岩場に到着した。
男達は岩に縛り付けられた状態で、ぐったりとしている。
さすがに数時間に渡り拘束し続けられたためか、元気がないようだ。
「よぉダンツ。もう言い逃れは出来んぞ。婦女暴行未遂だ。冒険者資格は剥奪され犯罪奴隷落ちだろうが、沙汰が下るまで牢屋でしばらく反省していろ。」
「ま、待ってくれ、ジョセフの旦那! 俺たちは急にそこのガキに襲われただけなんだ!捕まえるならそいつだ!」
今更ながら、大男はダンツというらしい。彼らは犯罪奴隷に落とされるようだ。そりゃ女性の尊厳を踏みにじろうとしたんだ、当然だよね。しかしこの期に及んで僕に濡れ衣を着せようだなんて、とことん見下げた奴らだ。どうしてくれようか。
「ふざけるんじゃないわよ! あなた達の行動は盗賊達と何一つ変わらないわ! 人を騙してこんなところまで連れ込んで、それでいてアキラを捕まえろだなんて、とんだ最低野郎よ!」
おおう、僕が考えを巡らせているとリリィが反論した。ちょっと冷静になっちゃった。
「まあまあリリィ、そのくらいにしておいてくれ。お前らの話は後でたっぷりと聞いてやる。連行するぞ!」
ジョセフさんの号令で各々が役割を果たしていく。というか衛兵さんもいるのに、もはやジョセフさんがリーダーだね。さすが隊長職を務めていただけはあるみたいだ。
ぎゃあぎゃあと騒ぐ四人組を手際よく馬車に連行していく
馬車に四人を詰め込んだところでジョセフさんが、僕とリリィに向き直った。頭を下げてくる。
「アキラ、リリィ。今回の件――、アキラについては以前にも彼らと揉め事があったと聞いた。本当にすまなかった。」
突然の行為で僕とリリィは驚いて固まってしまった。その様子に苦笑いを浮かべつつジョセフさんは続けた。
「実は、彼らのことは以前から度々問題になっていた。だが、証拠が不十分で常に我々の手を逃れてきたんだ。恐らく表に出ていない余罪も数多くあるだろう。今回も君達が彼らを退けることができなければどうなっていたことか……。本当に感謝する。」
どうやら以前から犯罪を繰り返していたようだ。うまく立ち回ることで犯罪と結びつかないようにしていたのかな。Cランクに登り詰めたのも、粗野だが善い冒険者というのを演じていた可能性もある。以前、シルビアさんに怖気づくような素振りを見せたのもその一環だったんだろうか。
「ま、まぁ別に問題ないわ。こうして私たちは無事なんだから。」
「そうですよ。頭を上げてください。」
頭を下げ続けるジョセフさんに催促する。そこまで大したことをした自覚がないから何ともこそばゆい。リリィも心なしか顔を赤らめている。リリィもこういう状況に慣れていないのかもしれない。
「しかし――。」
「いいんですって。僕達――、というか、僕は女の子が困ってたから助けに入っただけに過ぎないですから。ジョセフさんは気にしないでください。」
「私は別に困ってたわけじゃ……。」
なにやらリリィがぶつぶつ言ってるが、あの状況を切り抜けるのはリリィ一人じゃ大変だったんじゃないかな?
「そうか……、そういうことにしておこう。さぁ早く町に戻ろう。今から戻れば日暮れには間に合うはずだ。」
「はい!」
「えぇ、そうね。」
景色がわずかに黄色みを濃くし始めた頃、カルツォーに向け馬車は進んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます