第8話 ブロンズランクの実力と魔法は

 さて、手加減するだなんて大見得を切ってみた訳だけど……。

 以前の大男と細身の男の動きを基にするならば、個人と相手をする分には特に問題がないだろう。

 しかし、今回は4人が全力で、しかも武器を持った本格的な対人戦だ。

 更に僕自身も、先ほど憑依ソウルリンクをした後であるため、万全とは言い難い。

 僕は腰からナイフを取り出し逆手に構えた。


「おいおいなんだその玩具おもちゃは。舐めてんのか!?」


玩具おもちゃなんてひどいなぁ。これ僕の愛刀だよ?」


 これは、以前盗賊から頂いたナイフだよ。刀身が白く鈍い光沢を放つナイフは、確かに玩具おもちゃのように見える。僕も最初は、その場で凌げれば御の字だと思っていたんだけど――。

 しかしどうしたことか、今の今まで研がずにいるにもかかわらず、切れ味は落ちないどころか刃こぼれ一つしない。非常に謎なアイテムである。

 今度あの髭おじさんに見せてみよう。せっかく鍛冶屋に寄ったのに見せ忘れていた。


「かかってきなよ。僕がこいつで、遊んであげるからさ。」


「く、クソがぁ!!」


 大男は叫ぶと僕に向かって突撃してきた。やっぱりこの人は頭に血が上りやすい。ちょっと挑発するだけで憤怒の表情だよ。


「っらぁ!」


 大男は上段からから袈裟斬りをしてきた。


「よっ!」


 僕はバックステップで回避する。


「でやぁっ!」


 大男はそのまま下段に構え、切り上げてきた。


「ほっ!」


 僕は更にバックステップした。


 すると、僕が地面に着地するのを見計らって、細身の男が横から短剣で横薙ぎに切り付けてきた。


 僕はその場にしゃがみ込んで短剣をやり過ごし、相手が攻撃を振り切ったところを見計らい、相手の軸足を蹴り付け転倒させた。


「ぐぁっ!」


「だぁっ!」


 僕が細身の男を転倒させた瞬間を見計らい、大男が唐竹に剣を振り下ろしてきた。

 僕はそれから逃れるため、左へ飛び退いた。その時――。


「"マグ クレイル レンジ"!!」


 背の低い男が地面に手をかざしながら何かを叫んだ。なんだろ、胸騒ぎがする。


『――アキラ飛べっ!』


 ランドが叫ぶ。僕は咄嗟に横へ飛び退いた。

 次の瞬間、僕のいた場所を中心に地面から棘が生えた。

 咄嗟に避けたため地面に転がってしまう。な、なにあれ!? もしかして魔法――。


「"マグ フレイム ショット"!!」


 中肉中背の男が杖を構え、叫んだ。すると小さな火の球が無数に宙に現れ、一斉に僕へ向かって飛んできた。

 依然として地面に転がっている僕。しまった、このままでは火に飲み込まれるのは確実だ。


「そのまま焼かれて死にやがれ!」


 僕に迫りくる火の球を見て大男が叫ぶ。

 僕は咄嗟に顔を腕で覆った。

 

「"ナヤ サンク シールド"!」


 炎に飲み込まれるはずだったが、未だにその熱を感じない。

 僕は腕をどけ、火の球が襲ってくるはずだった方を見る。

 そこで見たものは、空間の途中で無数の火の球がバシバシ当たり消滅している姿だった。一体どうなってるんだろう。

 よくよく目を凝らしてみると、火を遮っている場所には何か透明な膜のようなものが見えた。膜の向こうが少し歪んで見える。

 僕は凛とした声が聞こえた方に顔を向けた。その先はツインテールの少女が両手で握ったメイスを突き出している姿だった。

 あの子がこの膜を創りだしたのか。


 火の雨が止むのと同時に、膜が消える。

 次に、彼女は魔法を放った二人がいる方を向き――。


「"ジル クレアズム レギオン"!!」


 次の瞬間大きな振動が一度だけ地面に伝わり、二人組を中心に巨大なクレーターが出現した。


「なっ、あああぁぁぁ――!?」

「うわああああぁぁぁ――!?」


 二人はそのままクレーターの底に旅立った。


「ふんっ、こんなもんね。」


 彼女はやり遂げたとでも言うようなセリフとともに、左手の甲でツインテールの左側を軽く撫で上げた。おぉ、なんか高飛車なお嬢様みたいな仕草だ!

 はっ!? そうだ、他の二人は?

 二人がいるはずの方を向くと、細身の男は起き上がった状態で、大男は立ったままの状態で、クレーターを驚愕の表情で見ていた。

 大男がはっと我に返り、女の子の方に目を向ける。


「――クソアマァッ!!」


 大男が女の子に向かって駆け出した。まずい、奴を止めなければ。

 僕は、手近にあった小石を手に取ると渾身の力を込めて、奴目掛け投げつけた。

 小石は大リーガーも真っ青な速度で大男の迫る。うわ、世界取れそうだねこれ。

 大男が剣を振り上げ、女の子に迫る。


「"ナヤ サンク――"」


おせぇ――!」


 女の子が呪文を唱え出したところで男の後頭部に小石が直撃する。小石は勢いに負け爆ぜた。うわ、あの石ちょっと脆かったかな? それなりに硬かった気がするんだけど……。それとも大男の頭が異常に硬いのかな?

 あ、倒れた。さすがにあの威力は耐えきれなかったか。

 女の子は驚きの表情で固まってる。うん、かなり大きな音がしたし、そりゃ驚くよね。。

 よし、残るはあの細身の男だけだ。僕は、男に駆けだす。

 僕の接近に気付いた細身の男は、懐に隠していたナイフを投げつけてきた。

 僕は飛んできたナイフを、手に持っていたナイフで弾き飛ばす。

 ナイフを弾き終えた時、細身の男はその場にいなかった。

 む、どこにいった?

 すると、背後で気配を感じた。僕が気が付き、振り返った時には短剣の切っ先をこちらに向け、振り上げているところだった。

 ふむ、背後を取るならもっと殺気を抑え込まないとダメだよ。

 男が短剣を振り下ろしてきたとき、僕は半身になって避けると、短剣を握っている手の甲にナイフで切りつけた。


「ぐっ!?」


 男の手の甲に一筋の赤い線が出来、軽く悲鳴を上げ、短剣を落としてしまう。

 男に一瞬隙ができる。その隙を逃さず、僕は男の腹部に、拳による渾身の一撃を加えた。

 男は口から体液をまき散らしながら、崩れ落ちた。うへぇ、汚い。


 男が、倒れた後、少女が近づいてきた。


「正義は勝つ!」


「何言ってんのよ……。」


 近づいてきた少女に決め台詞のようなものを言ってみたけど、ウケなかったようだ。


「ふふ、火の球を防いでくれた時は助かったよ、ありがとう。」


「ま、まぁあれくらいなら別にいいわよ。あんたの方こそ助かったわ。それよりも私に切りかかってきた男を倒したあの攻撃なに? あいつの頭が吹き飛んだかと思ったわ!」


「あれは小石をぶつけただけだよ。」


「小石って……。」


 少女が驚愕の表情を浮かべていた。


「怪我とかない? あ、僕は晃、よろしくね。」


「え? あ、うん大丈夫。ってこのタイミングで自己紹介……。まぁいいわ。私はリリィよ、よろしく。」


 彼女の名前はリリィというらしい。


「うん、よろしく。ところでリリィ。いきなりで悪いんだけど、あの穴に落ちた男達を引き上げたいんだ。何かいい方法ある?」


「え? なんであいつら引き上げるの? あんな奴らそのまま埋めちゃいなさいよ。」


 えぇ、なにそれ怖い。しまっちゃうおじさんもびっくりだよ。


「いや、町に引き渡そうよ。被害報告をして正式に裁いてもらわないと。」


「冒険者なんて自己責任なんだから、そこまで丁寧な対処はいらないと思うけど……、まぁいいわ。」


 そう言うと、リリィはクレーターのほうに歩いて行った。勇ましいというかなんというか、冒険者らしいって言えばいいのだろうか?

 穴に近づいたリリィは穴の中の男達を確認すると、おもむろに魔法を放った。


「"ジル クレイル レンジ"!」


 すると、穴の中から地面が盛り上がり、男達がせり上がってきた。そのまま地面が滑り台のようになると男たちは穴の外へ転がり落ちてきた。おぅ……、ご愁傷様。リリィはなかなか大雑把なようだ。


「引き上げたわよ。それで、こいつらどうするの? 四人も大人の男を運ぶなんて無理よ?」


「あぁ、さすがに僕たちが運ぶわけじゃないよ。その辺の岩に縛り付けておいて、衛兵さんを呼びに行こう。」


 さすがに男達四人を運ぶのは骨が折れる。彼らにはここら辺で衛兵さんが来るまで待っていてもらおう。

 そして僕は男達の装備品を没収すると岩に括り付けていった。魔法が使えないように猿轡をしておかないと。


「――よし、これでいいかな。」


 男達はしっかりと岩に拘束されていた。もちろん拘束アイテムの数々は盗賊達に提供していただいたものだ。君たちのことは忘れてないよ。……決して頭の顔しか覚えてないなんてことはないよ?


「で、これで町に戻るの?」


「そうだね、町に戻って衛兵さんに話して、また戻ってくる。あ、リリィはそのまま町に入っちゃっていいよ。」


「うーん、まぁそれは後で決めるわ。」


 そうか。こんなことがあった後だし、迷わず宿で休むものかと思ったけど、なかなか逞しい性格なようだ。


「じゃぁ町に戻ろう。」


「えぇ、わかったわ。」


 僕とリリィは男達をその場に放置し、カルツォーへ向かった。

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