第7話 少女との出会いと必殺技は
青い空、白い雲。そして、時々恥ずかしそうに雲に隠れる太陽。
あー、いい天気だ。こうして横になっていると眠くなって……、こない!
すごくつらい、もうしんどいよ!
僕は今、カルツォーから南東に三時間程離れた岩場に
昨日乱獲したチキンエクスプレスの精算を待っている僕は、いままで引き延ばしていた予定を遂行することにした。そう、
僕だけ? が使える特殊能力。僕自身の魂に別の魂を重ねることで、その魂が培ってきた力や知識を借り受けることができる。
今回いよいよランドの魂とリンクしようと思ったわけだ。
以前盗賊たちに捕まった時、その場を切り抜けようとした際にはこの
結果その判断は決して間違ってはいなかった。この
「はぁ、はぁ……。これは、はぁ、はぁ……、やばい……。」
体が地面に縫い付けられている。全く動けない。これはあまり長い時間リンク出来ない。慣れてないだけだったなら、いいなぁ……。
だがそれでもこの
実は先程まで、僕の目の前には大きな岩塊がどっしりと腰を下ろしていた。岩山と言っても良いかもしれない。リンクした状態で僕は岩山に掌底を繰り出した。
すると岩山は粉微塵に吹き飛んだ。爆砕だ。人間が繰り出していい威力じゃない。これは人に向けた時が怖いね。主に絵面的に。
あとなんか僕自身に変化が起きたけど、まぁいいや。
「いやぁ、あの威力はすげぇな。俺様の全力と遜色
前言撤回、人間でも繰り出せる威力らしい。
「息はだいぶ整ってきたよ。だけど、まだ……、よいっしょ。満足に動けないね。」
僕はランドの問いに答えつつ、なんとか仰向けに態勢を変えた。寝返りを打つだけで一苦労だ。あー、穏やかな空が見える。
僕は掌底を繰り出した右手を見る。
うわぁ、ガントレットが砕けてる。あの威力に耐えられなかったか。いや、むしろ一撃を耐えられたのか。あの鍛冶師には感謝しないと。あの言動は許せないけど。
ランドは拳闘士。つまり、拳で戦うパワーファイターだ。ランドは素早く相手の懐に入り込む身のこなしと、ドラゴンをも沈黙させる攻撃力を以て、相手をねじ伏せる。
一方僕は以前まで力が無かったため、戦闘スタイルが違う。相手を翻弄するために素早さを活かし、常に相手の不意を打つことを得意とした。
もちろん素手による技も持っているが、所詮合気道や柔術などが主だ。基本的に接近戦は、ナイフなどの得物で相手の急所を狙う。
そのため僕はリンクした時に備え、ランド用の装備を買うべく鍛冶屋に寄っていた。
安物を頼んでいたけれど、店主から勧められたガントレットとグリーブは、とても頑丈に仕上げられていたようだ。
ただのナマクラを買っていたら、この右手は無くなっていたかもしれない。
「とりあえず、しばらくはこのままだね。ちょっと寝るよ。」
「あいよ。前みたいなヘマはすんじゃねぇぞ。」
「ふふ、さすがに懲りてるよ。」
人気のない場所で熟睡するのは、盗賊たちに美味しく頂いてくださいと言っているようなものだ。
今度は、周囲の異変を察知できるように、少しだけ意識を残しつつ眠った――。
・
・
・
「――!? ――――!!」
目を覚ました。何か人の声を聞いた気がする。
「ランド、今何か聞こえなかった?」
「あぁ、遠くで女の怒声が聞こえたな。」
ふむ、悲鳴じゃなくて怒声か。誰かが魔物に遭遇して戦っているのか? でもわざわざ相対した敵に大声を上げる必要があるのだろうか……?
「雄叫びなら上げそうだけどね。ランドとか。」
「んあ? なんか言ったか?」
「……いや、なんでもないよ。」
気のせいだよランド。気のせいだ。
体の調子は……、うん、動けそうだね。
「ランド、声のした方はわかる?」
「左側のあの岩の向こうだな。」
「じゃぁちょっと様子でも見に行きますかね。」
僕は声の聞こえた場所に駆けていった。
岩場を越えていくと、女性の声が再び聞こえた。
「結局それが目的じゃない!! 薄汚いわね、あなた達!」
む、誰かと口論をしているようだ。
直後に姿が見えた。どうやら女性が男達に囲まれているようだ。
「何とでも言え、すぐにそんな悪態もつけられないようにしてやるよ!」
「くっ、離しなさい!」
女性が大男に腕を掴まれてしまった。
あぁダメだよ、女性に乱暴しちゃ。
よし、ここはあの必殺技を出すしかない。
僕は、飛び上がりつつ、声を上げた。
「えきせんとりっく・だいなまいと~」
声に気が付いてこちらを向いた大男の顔面に、両足のスタンプをプレゼントしてやった。僕の走ってきた速度を乗せて――。
まぁただのドロップキックだよ。以前テレビで見たプロレス技を真似てみた。覆面レスラーの必殺キックらしい。あの時は胸元を蹴ってたけど……。
ちょっと普段は聞かない音を響かせて大男が吹っ飛んでいき、岩壁に激突した。砂埃が立ち込める。
うーん、ちょっとやりすぎちゃったな。生きてるだろうか?
華麗にその場へ着地する。あれ、静かだな。そう思いあたりを見回してみる。すると全員が飛ばされて行った大男の方を見たまま呆然としていた。
僕は、女性の方を見る。
くっ、僕よりおでこ一つ分くらい背が高い!
髪は長い茶髪をツインテールにしている。瞳は青。服は白を基調とし、赤のラインが走っている。肩には二の腕あたりまでを覆うケープが掛けられている。両手でメイスを握っている。
神官さんとでも言うのだろうか? でも何かを連想されるんだよなぁ……。あ、わかった。某水の都で水先案内役をしているツインテールの子だ。メイスをオールに持ち替えたら、そのまま働けそうだ。
僕は、いつまでも砂埃が立ち込める岩壁に目を向けたままの女の子へ声をかける。
「ねぇ君、大丈夫?」
「へ? え、えぇ大丈夫……、って、誰あんた!?」
「僕? うーん……。通りすがりの、プロレスラー?」
「な、なにそれ……?」
僕の答えに戸惑いを隠せない彼女から目を離して岩壁のほうに向き直ると、砂埃の奥から男が出てきた。
「て、てめぇ~! なにしやがる!」
ふがふが言ってるが、辛うじて何を言ってるか聞こえる。全身はボロボロだ。特に顔面がひどい。鼻は潰れ、歯は何本か折れている。うわぁ、ひどいことするなぁ。
でも生きていた。自動車が顔に飛び込んで来たような勢いだったと思うけど……。この世界の人々の頑丈さが、地球人達にあったら交通事故死は減るかな?
「あ、兄貴ぃ! 大丈夫ですか!?」
兄貴と呼ばれた大男に、他の男共が駆け寄っていく。
あれ? あいつらどっかで見たことあるな。
「あ、思い出した。僕をギルドで勧誘しようとしてた人達だ。なにさ、まだ懲りずに女の子に声掛けてたの?」
なんだよこいつら。シルビアさんに睨まれて竦み上がってたのに、懲りないねぇ……。まだ二日しか経ってないよ?
「何よあんた。あいつらと知り合いなの?」
僕が彼らと面識を持つことを知った女の子が、距離を取って警戒する。心外だなぁ。
「やめてよ。僕だって彼らに狙われたことあるんだから。一緒にしないで。」
「え、なによそれ、
おぉ、中々辛辣なコメント。僕が、女の子とやり取りをしていると、向こうも僕が誰だか察したようだ。
「あ、あいつ! この間ギルドで恥を晒させてくれたガキじゃねぇか!」
「ちっ、こんなところで会うとはツイてねぇ……。」
背が低く、丸い印象のある男が叫び、中肉中背の男がつぶやく。
「なんだとぉ……? てめぇ、一度ならず二度までもやってくれたなぁ!」
大男が僕にようやく気付き怒りを露わにする。
「やぁ、一昨日ぶりだね。元気にしてた? 相変わらず女の子追い掛け回して楽しそうだね?」
「だまれクソアマ! 今日こそはてめぇをぶっ殺してやる!」
大男は腰に佩いた剣を抜いた。
それに続き、細身の男は短剣を懐から取り出し、背の低い男は両手斧を、中肉中背の男は杖を構えた。
物騒だなぁ。殺してやるなんて今日初めて聞いたよ?
「あ、あんたどうすんのよ? こいつらブロンズよ!?」
「うーん、まぁ大丈夫だよ。ちゃんと手加減をするつもりだし。」
「て、手加減!? あんた何言ってんのよ!?」
ん? 僕がそれほど強いのかって意味? それとも、こんな奴らに手加減する必要が無いって意味?
まぁ後者でもいいけど、こいつらには反省をしてもらうことにする。
あのシルビアさんが許してくれるかは知らないけど――。
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