第1話 早速始まるイベントは

 んぅ……。あれ、なんだろう? 周りがうるさい。

 僕は絶え間なく響く喧騒に睡眠からの覚醒を余儀なくされた。

 むぅ……。せっかくたこ焼き魔人が、恐怖の灼熱たこ焼きマシンガンを放って来ていたのに。食べ損なった……。

 それよりもここはどこだろう? おかしいなぁ。風になびく木の葉と草花の心地よい音色を子守唄に、昼寝をしていたはずなんだけれど……。

 地面の感触は草原のやわらか絨毯ではなく、土と岩でゴツゴツゴワゴワとしている。

 この感じはどう受け取っても草原の中心じゃない。

 手足の自由は効かず圧迫感がある。これは縛られてるね。

 そしてなんかここ臭い! 土と岩ではなく別の何かの暴力的な臭さだ!


『おお、やった起きたかお姫様!』


 突然頭の中に声が響く。ああ、そういえばランドっていう拳闘士の魂を仲間にしたんだっけ。それよりもっと声小さくていいよ、聞こえてるから。


『お姫様扱いするならもうちょっと気の利いたことを言いなよランド。』


 寝起き早々けたたましく粗雑なランドに対して文句を言う。まったく君にはデリカシーっていうのが足りないよ。


『ハッ! 俺様は常に紳士的だ。まったく爆睡しやがって……。そういう文句は周り見てから言いやがれ!』


 誰が紳士か! と思うものの口にはしない。

 そんなことよりこの状況を把握することからだね。そう思い、僕は周りを見回す。

 ここは洞窟を切り拓いたのだろうか、ごつごつとした岩肌が見える。床には藁が敷いてある。と言ってもご丁寧に僕の手前から奥の方には敷いてないけど……。周りには木箱や服、酒瓶等が散乱していてなんとも汚い。もっと綺麗にしなよ。

 そして僕は、改めて喧騒の元となっている集団に目を向けた。

 そこには十数人ほどの男たちがいた。皆薄汚れた服を着ている。何日も風呂に入っていないのだろうか。彼らの顔は煤けていて、髪はボサボサ。顔くらい拭けばいいのに……。

 そんな彼らはなんとも楽しそうに酒宴を繰り広げていた。


『誰この人たち? それよりこれどういう状況?』


 僕は、これまでの経緯を知っているであろうランドに聞いてみた。


『こいつらは盗賊だ。アキラが寝てからしばらくして盗賊の野郎が木に近づいて来てな、アキラを見つけたのさ。たまたまだろうな。たぶんそいつも木陰で休憩でもしようとしたんじゃねぇか?』


 つまり僕が見つかったのは偶然だったわけだ。それはまあいいとして、盗賊が近づいてきていたのなら僕を起こしてくれればいいのに。


『ランドも冷たいなぁ。盗賊が近づいてきてるのわかってたんでしょ? なんで起こしてくれなかったのさ。』


 僕は薄情なランドを窘める。


『はぁ!? テメェふざけんな! 俺様がどんだけ騒いでも眉根ひとつ動かさなかったのはどこのどいつだ!?』


 残念、窘められたのは僕の方だった。うん、完全に油断してたね。平和な日本で暮らしていたせいで、昼寝中に危険あるなんて思わなかったからなぁ。

 それに比べると、こっちの世界では常に危険と隣り合わせだったっけ? 魔物もいるしね。それを考えると今回は迂闊すぎたよ……。


『ごめんねランド、ちょっと迂闊すぎたね。次からはもっと周りに気を付けるよ。……くそぅ、これから安眠できる機会はかなり減ってしまうのか。人生の半分を損した気分だ……。』


『あぁ、分かればいいんだ。それにしても人生の半分って、どんだけ寝るのが好きなんだよ……。』


 睡眠は大事なんだよ? 仕事や勉強の効率だって段違いなんだから。睡眠を舐めてかかると痛い目見るよ?


『ああそれでな、アキラを見つけた盗賊は一瞬驚いていたようだったが、次の瞬間には下卑た顔して笑ってたぜ。いやぁ、俺に対するもんじゃなかったにしても、さすがに背筋が凍る思いだったぜ……。』


 確かにこちらを見てそんな顔されたら気持ち悪いよね。ランドでも恐怖に慄くなんてことあるんだね。


『その後はアキラを担いでこの洞窟に運ばれたんだ。あ、そうだ。途中でアキラのケツを揉みしだきながら「久々に上玉が手に入ったぜ、ゲヘヘ。」ってなこと言ってたぜ。気持ち悪かったなぁ。誰だったか――、ああ、あいつだ。ここから一番遠くにいる奴だな。今杯の中身を空にしたアイツだ。』


 えぇー、なにそれ……。もう完全にそういう方向で楽しもうとしてるやつじゃん……。男色なの? ゲイボルグさんなの? いや、たぶん違うよね。恐らく僕の顔を見て女だと思ったんだ。

 僕はランドが説明した方を向いた。髭もじゃで如何にも真っ当な生き方はしてませんっていうほどの悪人顔だ。いや、顔で判断しちゃいけませんっていうのはわかってるんだけど……。

 その時、男は僕が目を覚ましていることにようやく気が付いた。


「おっ、お姫様が目を覚ましたようだな。今の状況がいまいちわかってねぇって顔してやがる。安心しな、これからたっぷりと俺たちがいろいろと教え込んでやるからな。」


 えろえろと、の間違えなんじゃないだろうか。

 その男が僕に話しかけると他の全員がこちらに顔を向けた。中には体ごとや、見えやすい位置に移動する者までいた。


「さすが、お頭! こんな上玉滅多にいませんぜ。さすがの強運だ!」


 僕を攫ってきた人の隣にいる男が、その人に声をかける。そうかこの人はここのリーダーだったのか。


「おうよ! たまには散歩してみるもんだな。こんないいのが手に入るんだからな!」


 なんだよ散歩って、結構余裕があるなぁ。自由に生きてるんだね。実際自由なんだろうけど。


「久々に楽しめそうだ!」

「最近は攫ってきてもさっさと売っちまってたしなぁ。」

「しょうがねぇだろ。処女は高く売れるんだからよ!」

「でもこいつはどうなんだ?」

「お頭が何も言ってねぇんだからいいんじゃね?」

「っていうかこんだけの上玉なら膜ぶち抜いてたってどこでも買い手があるさ。それよりも俺たちがいろいろと教え込んでやればその手の奴がいい値段で買ってくれるだろうよ、ゲヘヘ。」

「ちょっと幼すぎるんじゃないか? 俺としてはもっと年上が良かったな、グヘヘ。」

「髪が短いな。もっと長い方が好みだ、ヒヒッ。」


 その他の連中が下卑た顔をして口々に語る。最低な奴らだね。女の子には優しくしないといけないんだよ? 僕は男だけど。

 それにしても幼いか……。僕は年齢よりも低く見られがちだ。確かに十六歳っていう歳だからまだまだ大人っぽさはないんだけどね。いつも中学生手前くらいにみられるんだよね……。でもそれで得したことが多々あるので否定はしません。子供料金っていいよね。


『おいアキラ、どうすんだこの状況? めんどくせぇからとっとと殺っちまうか? えっとなんだっけか? ああ、あれだ。憑依ソウルリンクってやつで。』


 女神様が言ってた僕の能力だね。でも試してもいない能力をいきなり使うのは得策じゃないな。


『待ってランド。それはまだ使ったことないからここではやめておこう。狭い場所だし、人数も多い。不測の事態が発生して、また捕まったら意味がないよ。それに女神様が言うには、憑依ソウルリンクしていない状況でもランドの恩恵を受けるって言ってたしね。不安要素は限りなく減らしたい。』


 情報が少ない状況で起きる不測の事態は対応できないことが多い。この場合は僕の能力についてだね。この能力でどれだけの力を発揮するかわからないから、この洞窟を破壊してしまうかもしれない。それ以前にあまり威力が無かったとしたら、その油断に付け込まれて再び捕縛されてしまうなんてこともある。そうなった場合が非常に怖い。


『でもどうすんだ? このままじゃ脱出は難しいんじゃねぇか? 入り口は盗賊どもの後ろの方だぞ。』


 確かに僕がいるのは部屋の奥だ。入り口はひとつ。ちょうど盗賊達が塞いでいる位置にある。


『大丈夫だよ。こんな状況くらいどうにかして見せるさ。この程度のこと、乗り切れなきゃすぐに死んじゃうしね。』


 さて、ランドの力で今の僕にどれくらいの影響が出ているかはわからないけど、さっさと脱出しようか。

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