ソウルリンカー -魂の調べ-
小森 大
プロローグ
「晃ちゃん、起きて。」
んー、もう少しだけ、後五分……、むにゃむにゃ……。
「もしもーし、起きてくださーい。」
五分経たずに再び誰かに起こされてしまった。むぅ……、もうちょっとでチョコレートマウンテンに登頂成功して食い倒れ下山するところだったのに……。
「なんだかすごく胃がもたれそう夢ね……。」
夢にツッコミを入れられてしまった。僕はそこでようやく目を開けた。
「……ここ、どこだろう?」
そこは一面真っ白な世界だった。どこもかしこも真っ白。地面と空の境目も分からない。
んー……。僕はなんでこんな所に居るんだろうか……。確か学校へ行く途中だった気がする。寝過ごして、遅刻しそうだったっけ?
「おはよう、晃ちゃん。」
誰か僕の名前を呼んでる。声は後ろからした。
僕は、声のした方に振り返り、そして目が離せなくなった。
目の前には絶世の美女。テレビで世界の美女特集をしていたけれど、その誰よりも美しい女性がいた。
うわぁ、すごく美人さんだ。
「うふふ、そう言ってもらえてうれしいわ。」
僕は何も言っていないのにお礼を言われてしまった。これってもしかして……。
「僕の心を読めるんですか?」
「えぇ、そうよ。ごめんなさいね……。」
そういうと女性は申し訳なさそうな顔をしてしまった。
「いえいえ、別にかまいませんよ。特に気にしていませんので。」
「あら? いいのかしら、心の中を読めるなんて気味が悪いんじゃない?」
「大丈夫ですよ。なぜだかあなたは、そういうのをできることが当たり前のような気がしますし。」
「そっか、そんな風に感じ取れるのね。さすがね。」
そして再び笑顔になる女性。
「ところで、あなたはもしかしてもしかすると思うんですけれども……。」
「はい、あなたの思っている通り、女神さんです!」
腰に手を当て少し仰け反った女神様。
やっぱり女神様だった。でもなんだろう、おっとりぽわぽわですごくかわいい人――、じゃなくて女神様だ。
まるでいたずらに成功した子供の無邪気な笑顔に思えた。
「なんだか、そう言われると恥ずかしいわね。」
あ、ちょっと頬が赤くなった。やっぱりかわいい。
「もう、よしてよ。」
そう言った女神様は、咳払いをすると真剣な表情になった。
「あなた、
「はい、そうです。僕は東雲晃です。」
名前を問われた僕は肯定の意を示す。
女神様はその返答を受けると一つ頷き言葉を続ける。
「まず最初にあなたに謝らなければいけないことがあるの。」
謝らなければいけないこと? 今日会ったばかりなのに?
「そうなの。実は、あなたは地球で
急に話が飛躍してしまった。地球で生まれるべき魂じゃない? どういうこと? 生まれてきてごめんなさいなやつ?
「ああ! そういう意味じゃないの! ごめんなさい! 実はあなたの魂は地球とは別の世界、ここエクストランデの輪廻の環にいるはずだったけれども、どういうわけかあなたの魂だけ輪廻の環から外れてしまったの。私も原因を調べてみたのだけれど、いまだにわかっていないのよ。」
「……つまり、僕は本来異世界の人間で輪廻の環を外れた末に、地球へと流れ着いたということでしょうか?」
「そういうことになるわ。本来魂というものは、生と死のサイクルを輪廻の環に沿って滞りなく繰り返すものなの。そしてそれは各世界ごとに分けられている。これは絶対のルールよ。だからあなたの魂も、どんなことがあっても輪廻の環から外れるなんてことはなかったはずなんだけれど……。それに外れた直後に気が付けばすぐに戻せたのだけれども……。」
そこで女神様は俯き渋い顔をしてしまった。僕一人のためにこんなに親身になってくれるなんて良い神様だ。
それにしても異世界だなんて、作り話のような展開だなぁ。ライトノベルとか読んだことあるけど本当に存在したのか。
「そんな顔しないでください。あの世界でも今では十分に生まれて良かったと思えていますから。」
僕がそう言うと、女神様はありがとうと言って微笑んだ。
「……それで、僕はこの後どうなってしまうのでしょうか。というか僕はどうしてここにいるんでしょうか?」
そこで、ようやく自分が置かれている状況を思い出した。本来であれば、神様とこうして話をすることもないはずだ。
「そうね、今の話よりもあなたがどうしてここにいるのかを一番最初に話さなければいけなかったわね。結論から言うと、あなたは交通事故で亡くなってしまいました……。」
ああ、やっぱりそうか。死因はわからなかったけど、なんとなく自分がもうこの世の人間ではないような予感はしていたんだ。……今のこの世は女神様のいる空間なんだけど。
「そうですか……。まだおじさんにも恩を返しきれてないのになぁ。申し訳ないことした……。」
寝ぼけて赤信号でも渡ってしまっただろうか。昔から眠気には弱いと自覚してるからあながち間違ってないかも。
「いえそれは違うわ。あなたはブレーキの壊れた暴走トラックに轢かれそうになった人をその身を擲って助けたのよ。」
む、半分自分のせいなのか。僕はあまり人助けなんてしない方だったんだけどなぁ。よっぽど助けたい何かがあったのだろうか。
おっと、それよりも――。
「その轢かれそうになっていた人はどうなったんですか?」
「その人はあなたに突き飛ばされた拍子に転んだ時の擦り傷以外は無事よ。」
うん、それならまぁ――、良くはないけど命を救えたのならよかった。
「でもさすがね。普通なら助けられる距離ではなかったわ。
ふふふ、僕も常日頃から武術の研鑽に明け暮れていたから――、ん? なにか聞き捨てならない言葉を聞いた気がする……。
「勇者……? 僕は勇者として生まれる予定だったんですか?」
「えぇ、そうなの。本当は勇者として様々な恩恵を受け取って、世界の救済をお願いしようと思ってたんだけど……。」
そこまで気にかけていたなら魂の行方を見守ってほしい所だったけど、ぽわぽわお姉さんだもんね。
「む、失礼ね。これでも地球に流れ着いたのを見つけてからは見守っていたわよ。」
頬を膨らませて怒る女神様。そういうところがかわいいんだよね。あ、また照れた。
「そ、そうだ、これからのことだったわね!」
パンッと手を合わせて話題を切り替えた女神様。ここからが本題のようだ。
「これからあなたには、世界の魂の救済に手を貸してほしいの。」
勇者の話からなんとなく想像はできていたけれど、世界の魂の救済?
「世界じゃなくて、世界の魂の救済なんですか?」
「えぇ、魂を救ってほしいの。」
「魂とはまた特殊な依頼ですね。世界で悪さをする人や魔王なんかの退治とかだと思ってましたけど。」
勇者といえば魔王討伐ってイメージだったけどそういうわけじゃないのか。というか魔王いるのかな? いるんだろうなぁ。
「これは元々こちらの世界で生まれたあなたに依頼をする内容だったものよ。それと魔王って言っても別に悪さをしてるわけじゃないわよ。魔族の王ってだけなんだから。それでも確かに悪さをしていた魔王もいたけど……。そこは人族の王と同じよ。善い王もいれば悪い王もいるよね。」
そっか。以前やったゲームのラスボスが魔王だったけど、結局あれも人間の王様の依頼だったっけ。でもあれは魔物の王でただの悪者だったか。変な固定観念が付いちゃってたな。
「でもどうして魂の救済なんですか?」
「そうね、それには順を追って説明するわね。まず魂というのは人々の体を動かす原動力と考えてもらえるとわかりやすいと思うわ。それを身体の中にある器に入れることで初めて命としての形となるの。そしてこの魂は、一生を終える頃までに傷や穢れを背負うの。これが老化現象ね。一生を終えた魂は輪廻の環によって穢れの浄化と傷の修復を行って再び生を受けるの。これが一般に言う輪廻転生よ。これは人に限らずにすべての動物に適応されるわ。ちなみに寿命の違いは魂の修復度の違いね。本当はすべての魂がハイエルフみたいな長寿の種族に対応してるのが基本なんだけど、すべての魂は傷や穢れの度合いによって修復が完了する時間が大幅に違うの。でも、修復が完全に終わるのを待っていたら、地上で活動する生き物がいなくなっちゃうから、修復度に合わせて生き物の種類を揃えることにしたの。ひとつの種族だけにして修復途中で送り出しちゃうと種族内で寿命の差異が極端に激しくなっちゃうからね。不自然な差が出ないようにしてるの。これ内緒よ。これが知られたら今以上の差別が起こっちゃうから。」
さらっと重大事実を教えられてしまった気もするけど、そうか、人の一生ってこういうことになってたのか。魂の修復度なんて話を知られたら長寿が高潔で短命が下劣みたいな話になっちゃうもんね。でも動物だけ? 植物とかはどうなっているんだろう?
「植物は特殊でね、これは世界の清浄化を務めるものよ。といっても植物は空気と土壌、水質の清浄化を担当しているわ。だからって取って食べちゃダメってことではないからね? 食料供給の為に結構余裕を持たせているから。まぁこれは食物連鎖の基本かしら?」
確かに食物連鎖の下位ともいわれる植物がいないと立ち行かないよね。動物同士の争いだけでは早々に破綻すると思う。
「ちなみにこの世界にはちゃんと魔物がいるわ。魔物たちは魔力と瘴気の清浄化を担当してるの。」
おぉ、魔物いた。というか魔力もあるんだね。魔法で強大な敵をドカーン! ふふ、憧れる。でも魔物も世界の維持に貢献してるとなると……。
「魔物が魔力と瘴気の清浄化を担当しているということは、狩りすぎるとかは大丈夫なんですか?」
「特に問題ないわ。魔物はその身に穢れた魔力と瘴気を集めて誕生するのだけれど、その時点で七割は役目を終えてるわ。」
七割なんだ。残りの三割は?
「残りの三割の内二割は、物資の供給。肉や毛皮などの素材ね。あとの一割は、呼吸による魔力と瘴気の浄化よ。」
へぇ、よくできてるなぁ。こういうのって世界のシステムっていうんだろうか? さすが女神様だね。あれ? なんかもじもじしてる。
「いやぁ、これらは別に私が考えたものじゃなくて、テンプレートみたいのがあるのよ……。私よりも高位の神が考えたものよ。」
そう言って苦笑いする女神様。さらに高位の神様もいるのか。
「っと、話がそれちゃったわね。それで魂の救済なんだけれど、実はね……、魂、帰ってこないの。」
「……それって、輪廻の不具合? 侘び石ですか?」
「もう! 違うわよ! ゲームじゃないんだから……。輪廻転生の機能には問題ないの。でもね、魂が帰ってこないの。」
「機能は正常なのに魂が戻らないのは確かに変ですね。」
「えぇ、だからあなたにはその原因を探ってもらいたいのよ。私は直接地上に干渉できないから……。」
神様だからやっぱり直接地上に手出ししちゃダメなのかな? だとしても行方は探せそうだけど……?
「地上に干渉できなくても魂の行方は追えないんですか?」
「確かに、行方を調べることは可能だけれど、それでもわからないのよ……。」
んー……、女神様にもわからないことが僕なんかにわかるんだろうか……?
「恐らくだけれど、直接地上から探ることで何かわかると思うの。魂の絶対量っていうのはほぼ変わらないから。輪廻の環に戻らないってことはなんらかの力によって地上に留められているんだと思う。」
……よし、とにかく調査してみないことには始まらないよね。
「わかりました。僕でよければその調査、任せてください。」
「ありがとう、晃ちゃん! もし晃ちゃんが了承してくれなかったらどうしようかと思ったわ。もうすぐ
え――、えー!? ちょっとなにそれ、聞いてないよ! 世界の崩壊!?
「も、もうすぐってこんなに暢気にしていていいんですか!?」
「そうよね、こうしてる今でも世界の崩壊に近づいてるんだもの。」
「そうですよ! それで、あとどれくらいで崩壊してしまうんですか!?」
僕は、一刻の猶予もない状況と判断して女神様にタイムリミットを聞き出す。そして女神様は……。
「崩壊まであとね……、
……ん? あれ? あと何年だって?
「だからあと二百八年よ! このまま魂が無くなり続けちゃったらあと二百八年でこの世界は終わってしまうの!」
う、うんそれはわかる。わかるよ? あと二百八年しかないのは。でも……。
「……僕の寿命って何年なんですか?」
「そうね……。勇者として生まれるはずだった魂だから、ハイエルフとはいかなくてもエルフくらいに対応できる魂ね。でも一度地球に流れてしまったからちょっと事情があって、普通の人族と同じ寿命かしら。だから長くても八十年……、八十年……? あ……。」
うん、八十年か、八十年……。僕タイムリミットまで人生を二周半くらいできるね。あ、女神様の顔が真っ赤だ。りんご飴みたいだ。おいしいよね、りんご飴。
「は、恥ずかしい……。私、もうすぐとか言っちゃった……。あと八年しかないと勘違いしちゃったわ……。」
涙目を浮かべてぷるぷるする女神様。最終的に手で顔を抑えてうずくまっちゃった。
いやぁ、女神様基準なら確かにもうすぐだと思うよ? 悠久の時を世界の管理に費やしていたと思うし……。それに口では正解を言ってるんだけど、頭の中では別の意味で捉えてしまうことって無いとも言えないし。
でもおっとりぽわぽわ女神様は、ドジっ娘女神様でもあったのか。
「やめてぇぇ……。」
このまま女神様をいじめててもかわいそうだからこの辺にしとこう。
でもよかった。八年だと結構厳しかったと思う。
「良かったじゃないです。八年かと思ったら更に二百年ありますよ。人の身でそれだけあれば十分何とかなると思います。まぁ、のんびりと調査させてください。八十年あればすべての国もくまなく探せると思いますし。」
「そ、そうね。そうよね! ここは僥倖だったと思うべきよね! 晃ちゃん! あと八十年で真相にたどり着くのよ!」
んー、どうしよう。女神様に対して大変失礼だと思うけど、なんだかアホの子を見ているようだ。
「う……、それは言わないで欲しかったわ……。」
そう言うと女神様は両手膝を地面について落ち込んでしまった。しまった、とどめを刺してちゃった。
「女神様、女神様。元気を出してください。せっかくの美貌が台無しですよ。」
「ありがとう……。お世辞でもうれしいわ……。」
だめだ、復活しない。どうしよう、うーん……。あ、そうだ。
「女神様、事情があって寿命が八十年と言ってましたがどうしてですか?」
僕は、先ほど話の中にあった事情について質問してみた。
「そうね、それについても話とかなければいけないわね。あと今後の調査のためにいろいろ用意したわ。」
話題を変えたことにより少し元気を取り戻した女神様。女神様が用意したものってなんだろう? なんだかわくわくする。
「例の事情だけど、あなたの身体が原因ね。地球での生活に対応した身体のために魂の強さに耐え切れないのよ。」
「それってつまり、勇者の魂が普通の人族の身体に入ってしまっているために負担が途轍もなく高いってことですか? それならば新しい身体とかに代えられないんですか?」
自分で言っててなんだけど、新しい身体に変えろだなんてなんだか薄情な感じがする。
「それができれば一番いいけれど、一度決められた器は簡単には変えられないのよ。新しい器に対応させるには、一度輪廻の環に魂を戻してリセットしなければならないわ。そうすると今まで経験してきたこともすべてリセットされてしまうの。せっかくこうしてあなたをすくい上げることができたのにすごくもったいないわ。それに器から魂を外してしまうと入れ直すこともできないわ。」
確かにこのまま転生できれば地球で学んできたことが生かせる。このチャンスは逃すのはもったいないね。
「入れ直しもできないってことは身体能力の強化とかできないってことですね……。」
ちょっと欲をかいてしまった。やっぱり異世界転生って聞くとちょっとチートな能力とか期待しちゃうよね。
「ふっふっふ、安心して。そんなあなたに朗報よ!」
すっかり元の調子に戻った女神様から朗報があるという。なんだろうわくわくがどきどきに変わった!
「実はあなたは他の魂との親和性がとても高いの。自分の魂に別の魂を
どや顔で教えてくれた内容は僕の想像を超えていた。へぇ、僕ってそんなにすごい能力を持ってたんだ…… 。でもなんで?
「なぜそこまで飛び抜けた能力になっているのかはわからないんだけどね。もともと勇者は他人との協調性に優れているの。これは勇者の魂にほかの魂が惹かれやすいからなのよ。そこが関係してるのかもしれないわね。」
そういえば勇者ってなんだかんだ言って周りに仲間がいっぱいいたりするもんね。あれってそういうことだったのかな? 所詮物語の中の知識だからよくわかんないや。
「そんなすごい能力があるならなんだかこの世界でもうまくやって行けそうですね。」
「うん、あなたならきっと強くなれる。それと、その能力を逆手に取ったアイテムをプレゼントするわ。」
おお、ついにいろいろな用意のいろいろが明らかになりそうだ。
これよ、と女神様が差し出したものはネックレスだった。本体は銀が使われてるのだろうか、とてもキラキラしてる。そして、宝石だろうか、六個の石が嵌っていた。
だろうと思ったのは、その宝石がとても暗く黒ずんでいたからだ。辛うじて色がわかる程度だ。向かって左から赤、黄色、それとこれは灰色じゃなくて恐らく無色かな? あと緑、青、紫と並んでいる。
「これは……。どういったものなんですか?」
ネックレスを受け取りつつどういったものなのか聞いてみた。
「これには、魂を保管しておくことができるわ。それぞれの宝石に一つの魂を入れることができるの。今は黒ずんでいてよくわからないと思うけど、魂を入れることによって元の輝きを取り戻すわ。それぞれの石なんだけど、赤い方から、ルビー、トパーズ、ダイヤモンド、エメラルド、サファイア、アメジストが嵌められてるわ。」
なるほど、これで魂を持ち運ぶことができるのか。ん? でもなんでわざわざこんなもの使うんだろう? 魂を憑依させたままだとダメなのかな?
「ダメよそんなことしちゃ! さっきも言ったようにその身体では常に憑依させ続けるのなんてできないわよ。それ以前に魂の器には二つ以上の魂を入れる余地なんて無いんだから。」
そうだよね、ダメ元で聞いてみたかったところだけど。聞く前に怒られてしまった。そうそううまい話もないよね。
「そこでこのネックレスよ。この宝石の中に魂を入れておけばいつでも力を借りることができるわ。それとわかってると思うけど、無理矢理魂を宝石の中に押し込めちゃダメよ。同意を得てからね。恐らく、無理矢理だと入らないとは思うけど。あと一度魂を入れたらその宝石は再利用できないからね。体の器と同じで一度魂を入れてしまったら他の魂を受け付けなくなっちゃうから。」
ふむふむ、ここは無闇矢鱈に魂を入れてしまうのはやめておこう。すごくもったいない。あ、そうだ。この話を聞いたときに気になったことがあったんだ。
「なんで宝石が六個なんですか? もっといっぱいあった方が便利そうですけど?」
「さすがに、無制限ってわけにもいかないのよ。六個が限界ね。それに私の勘ってよりも確信に近いものがあるんだけど、六個で十分足りると思うわ。恐らくそこにすべての魂がそろった時、あなたは今の何十倍も強くなれるわ。」
「え? そんなに強くなれるんですか?」
「あー、言い忘れてたわね。その宝石に魂を入れると、憑依した時よりは能力が落ちるけど、強化の恩恵を受けることができるの。だから、あなたに余計な負担をかけずに身体能力強化ができるってわけ。直接強靭な体を用意できなかったけれど、この辺りでなんとかあなたの手助けができたわ。」
もう十分助けられたと思うけど、そう言ってもらえるならありがたく受け取っておこう。
「あともう一つ便利な機能を付け足しておいたわ。このネックレスにアイテムを収納できるようにしたわ。容量無制限、時の流れに影響を受けないため中に居れたアイテムは腐敗の心配いらずの魔法瓶いらず。しかも今後力を借りることになる魂に対応した装備を各宝石に登録しておけば、魂の憑依時に装備を換装してくれるの。」
おお、途轍もない便利機能だ。一家に一台欲しい。でもお高いんでしょう?
「叩き売りみたいなこと言わないの。お金も取らないから。」
苦笑いもかわいいよ!
「あなたっておっとりしてる割に意外とお調子者ね。さて、いよいよ異世界に旅立つわけだけど、ここで早速助っ人を呼んでるわ。」
助っ人?
そう言う女神様の隣に誰かが現れた。
その人は筋骨隆々、短髪に切りそろえられた髪を持つ、まさに熱血漢とでもいうべき男だった。
「ハッハッハッ! 俺様が助っ人だ! 名前はランド。俺様にかかれば上級種のドラゴンの首なんざあっという間に捻ってやるよ!」
すごく……、暑苦しい……。暑苦しいけど、その男から発せられる闘気はいままで出会った人の中でも一番だ。間違いなくこの人は、強い。
「ランドさんは拳闘士の中で最強と謂われた人よ。でもそのあっという間に首を捻ることができるって言うドラゴンに挑んで返り討ちに会って死んでしまったのだけど。しかも中級種のね。」
「お、おい女神さんよぉ、言ってくれるじゃねぇか。それにあの時はドラゴンの影に隠れてたポイズンフロッグの毒粘液が目に入っちまったせいなんだからな! 油断した俺様も悪かったが、あいつがいなかったら間違いなくその日の夕食はドラゴン肉だったぜ。」
油断大敵はどこの世界でも同じってわけだね。気を付けよう。
それよりもこれから仲間になるんだから挨拶をしておこう。
「ランドさん、晃といいます。これから恐らく長い付き合いになると思いますが、よろしくお願いします。」
「おう! 敬語なんてしゃらくせぇ言葉使ってねぇでランドって呼んでくれよ。仲間になるんだからな!」
そういうと眩しい笑顔を見せるランド。無駄に白い歯が輝いている。
「うん、わかったよ。よろしくね、ランド。」
「うんうん。それでいいぜ。これから長い付き合いになるんだ。どんどん頼りにしてくれよな、
む、嬢ちゃんだって? まったくこの人は何を言ってるんだか。
「ランド、僕は
「「え?」」
結構いるんだよねぇ、僕の性別間違えちゃう人って。まぁ僕も逆にそれを利用することもあったから別に攻め立てることはしないけど。でもランドが驚愕の表情を浮かべてるのはわかるけど、なぜか女神様も驚いてるんだけど。
「お、おい女神さんよぉ! 話が違うじゃねぇか! お前さん手を貸す人間は女の子だからくれぐれも気をつけろとか釘差しやがって! 全然問題ねぇじゃねぇか!」
「ま、待ってよ! そんなはずないわ! だって晃ちゃんは女の子として生まれるはずだったのよ! むしろ話が違うっていうのは私の台詞よ!」
なんか二人……、いや、一人と一柱が口論を始めてしまった。本人は至って怒ってませんよぉ。だから、えーっと、まあいいや。二人とも矛を収めてくださーい。
「まぁまぁ、そんな細かいことはいいじゃないですか。むしろランドにとっては余計な心配が減って良かったじゃないですか。」
そう僕が二人を窘めるとようやく収まりを見せた。
「そ、そうだな。確かに悩みが減ってラッキーだったぜ。それにしてもどっからどう見ても女なんだが……。あぁいやすまねぇ。別に蔑んだわけじゃねぇんだ。」
「別にかまわないよ。僕もこの見た目を利用したことあるしね。」
僕は背も低く、華奢だ。顔もどう見繕っても美少女顔だ。別に僕が自画自賛しているわけじゃなく、周りからの正当な評価によるものだよ?
「うーん……。どうして晃ちゃんは男として生を受けてるんだろ? こっちでは女の子のはずだったのに……。」
「まぁそうなってしまったんだから今更ですよ。特に僕は、男に生まれても女に生まれても気にしませんよ? ところで、これからランドはどうするんですか?」
話がまた変な方向に進んでしまったが再び軌道修正をする。
もちろんランドのことだ。ランドが仲間になるってことはこのネックレスを使うってことだよね?
「えぇ、そうだったわね。早速そのネックレスにランドの魂を入れましょうか。 ランドさん、どの宝石にしますか?」
「おう! そりゃやっぱりこの赤い石だろ!」
うんそうだよね。ここでサファイアがいいなんて言い出したらどれだけ似合わないことか。ルビーを選ぶのはだいたい目に見えていた。
「では晃ちゃん。ランドさんに触れて。そして石に導くイメージをするの。」
女神様に言われたとおりにする。ランドの厚い胸板に触れる。すごくガッチリしてる……。そこでイメージ。ランドの魂を、ルビーへ……。
するとランドが光りに包まれる。決して眩しいわけではなくとても暖かい光だ。
そして、光はそのまま僕の手に吸い込まれる。手から腕を通り身体を通過する感覚が走る。だけど、気持ち悪くはない。
首元に暖かさを感じた瞬間、ルビーが赤く光り輝いた。
ゆっくりと光が収まるのを待つと、そこには真紅に輝くルビーがあった。
『ハハッ、なんだこりゃ。なかなか心地良いじゃねぇか。』
突然頭の中にランドの声が響いた。
僕が驚き戸惑うのを見た女神様が説明をする。
「これで晃ちゃんはランドさんの力を借りることができるようになったわ。恐らくランドさんの声が頭の中で響いたと思うんだけど、それはネックレスの影響ね。」
「ネックレスの影響ですか?」
「えぇ、ネックレスに魂を入れると常に恩恵を受けるって言ったよね? その状態って言わば半憑依の状態ともとれるのよ。ただ、その半憑依の状態でも本来はあなたに負担をかけるんだけど、ネックレスがそれを肩代わりしてるから、問題ないのよ。その代わりにそのネックレスは外すことができないけど許してね?」
半分憑依しているのなら無闇にネックレスが外せないのはしょうがないか。なんだか呪いのアイテムみたいだ。それよりも、今後魂が増えたときは賑やかなことになりそうだ。
「一人脳内会議、かっこ、一人何役じゃなくて実際に人数分いるよ、かっこ閉じ、かな?」
「まぁ……、そうなる日も来るかな?」
おっとつまらないギャグで苦笑いされてしまった。自重自重。
「そうそう、ネックレスの中にエクストランデで標準的な服とお金を入れておいたからね。」
「ありがとうございます。」
「よし、これで私ができることはすべてやったかな。そろそろ異世界に送るけど問題ないかな?」
女神様が僕に最終確認してくる。
「大丈夫ですよ。問題ありません。」
僕は特に問題がないことを女神様に伝えた。
「うん、わかった。それじゃあ、気を付けてね。世界の魂を頼んだわ。」
そして、だんだんと意識が遠退いていった。
・
・
・
気が付くとそこは草原だった。隣には大きな一本の木。遠くには一本の道が見える。あれを辿ると町があるのかな?
「さてと、まずは……。」
『おう! いよいよだなアキラ! アキラと俺様の世界の魂の救済の旅が今始ま――』
「まずは、昼寝しよう。」
『る! あぇ? お、おいアキラ!? なんだよ早速寝ちまうのかよ!』
うるさいなぁ。睡眠は大事なんだよ? それになにより暖かい空気にちょうど良い木陰。絶好の昼寝日和じゃないか。
というわけで、おやすみ。ぐぅ……。
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