第8話 「聖女様が怒った理由」

 ここは、洞窟最深部。

 休憩を重ねながら、ようやくここまできた。


「随分、深い洞窟だったなぁ、時間がかかっちまったぜ」


「それにしても辺りが静かっスね。それに、最深部には魔物がいるって聞いてきたっスけど、

 本当にここが最深部っスか?」


「うーん、間違いないはずなんだけど……」


 目の前は巨大な岩によって塞がれており、行きどまりだ。もしかすると、

 魔物がいると言う噂は偽物だった?

 ギルドの報告ミスか? 珍しいな。


「……いえ、皆様、戦いの準備を。何やら大型の魔物の気配がします」


「え?」


 ガラガラガラ……。


 途端、

 クレア様の声とともに、岩が崩れる音がする。


(何か……くる!! どこだ……!? いや違う……! これは恐らく……!


「みんな! 目の前のが、魔物だ!!」


「なんだと!?」


「ゴアアアアアアアアア!!!」


「なっ……!? ゴーレムっスか!?」


「こんな巨大なゴーレム見たことないぜ……!それに、妙なもんを纏いだした……。こいつはただのゴーレムじゃねぇ」


 アンガスの言う通り、目の前のゴーレムの身体には、いつの間にか雪のようなものが纏わり付き始めた。


(こいつは……ただのゴーレムじゃない!

 ゴーレムだ!!)


「ゴアアアアアアアアア!!!」


 僕達を煽るように、ゴーレムが吠える。


(くそ……厄介な魔物と当たってしまったな……!)


 まず、ゴーレムには物理攻撃が殆ど入らない。

 それに対し、アンガスは、剣士。ユニも獣族であり、爪を使った物理攻撃が主体だ。相性が悪い。それに加え、クレア様の得意とする魔法は氷魔法だ。通常のゴーレムなら攻撃が通る。しかし……こいつは、アイスゴーレム。

 氷属性のアイスゴーレムに対して、同じ属性である氷属性の呪文は通りにくい。


(ここは、僕がやるしかないか……!)


 僕は、氷属性以外の呪文が使える。

 ただし──


炎球ファイアーボール!」


 片手を前に突き出して、頭の中で

 火の玉を想像する。


 片手から放たれた、火の玉は、アイスゴーレムの胴体へとあたった。

 だが……。


「ゴアアア?」


 ──殆ど効いていない。


 くそ……やはり図体に対して、火の玉が小さい! 火力が足りない!

 僕は、呪文は得意分野ではないのだ。

 これは、長期戦になりそうだ。


「ゴアアアアアアアアア!」


(な……! はやいっ!)


 アイスゴーレムがついに動き出した。

 氷柱のようなものを僕らに放ってくる。


 完全には避けきれず、当たった頬から、ツーッと血が流れる。

 ダメージはほぼ、ない。


「みんな、ゴーレムだってダメージが通らないわけじゃない! 長期戦になると思うけど、

 頑張ろう!」


「あぁ!」

「りょうかいッス」

「……」


 しかし、クレア様の様子がおかしい。

 一点を見つめたまま、

 僕の元へ駆け寄ってくる。


(クレア様……?)


「頬に傷が……」


「大丈夫ですよ、これくらい」


「大丈夫ではありません!!」


 ビクッ。


 クレア様は、いつもとは違う鬼気迫る表情で、僕を怒鳴った。


 さらに、いつもよりも低いトーンで、

 クレア様は、言った。


「……その傷が……命を奪うことになる」


 と、やはり、鬼気迫る表情で、僕を見つめていた。

 驚いて、少し聞き取れない部分はあった。

 が、クレア様が怒った理由は、なんとなくわかった。


(そうか……きっと、そう言うことだ……!クレア様が俺に怒った理由。

 いかに少しの傷とはいえ、戦闘においていかなる時も気を抜くな……と。

 そう、クレア様は僕に伝えたかったんだ)


「……」






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