カンダタの娘達
ワニ肉加工場
序章:あってもなくてもいい話
Prologue:ハイ・ファイ・シネマ
上映中のスクリーン。暗闇に浮かび上がるたった二人の観客。
二人の見た目はこれっぽっちも似通ってはいなかったが、二人の間に流れる雰囲気は、彼女達が姉妹であるように思わせた。
妹らしき背の低い灰髪の少女は景気よく軽食を貪っている。ポップコーンの咀嚼音が耳を逆撫で、ジュースを啜る音が反駁する。灰髪の少女は一通りのノイズを立て終える。
そして、画面に映るアルパチーノ扮する“スカーフェイス”を熱っぽく、それでいてつまらなさそうに見詰めた。
スカーフェイスが叫ぶ。
『そうだ、戦争だよ、ソーサを朝飯代わりに食ってやる』
灰髪少女が子供っぽく言った。
「最高!」
隣に座る姉と思わしき赤黒い髪をした女が、意地悪気に言う。
「ねえ、どうしてスカーフェイスともあろうものが、全てを敵に回してしまうのか、分かる?」
灰髪少女はうざったそうに答えた。
「馬鹿みたいな質問だな。立ち回りをミスったからだろ。ゲームでもそれは一緒だ」
赤黒女は角ハイボールを啜り、アルコール臭い息を吐き、それから言った。
「“なぜ”の説明にはなるけれど、“どうして”の答えにはなってない」
「どうしてって、言ったって、“キレたから”としか言えないだろ」
「トニー・モンタナともあろうものが?」
「アル・カポネだって、ぶちぎれて部下をバットでタコ殴りにしたぜ」
「あれは癇癪。トニーのやつはカタルシスよ。同じにしちゃ、いけないわ」
「面倒くさい言葉遊びだね」
「死に物狂いで積み重ねた者は、時折考えてしまうのよ。心の奥底でね。“こいつで終わりだ”ってね」
「そういうもんなのか?」
そう言って、灰色髪の少女が呆れたように正面に視線を戻す。丁度、スクリーンではスカーフェイスがKG9を乱射する余りにも有名なシーンが流れていた。
灰髪の少女は口を半開きにし、熱っぽくそれを凝視した。半開きの口から声が漏れる。
「細かいことはどうでもいい」
赤黒髪の女が続けた。
「それが一番の楽しみ方」
劇場内には銃声と絶叫が鳴り響いている。
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