第22話終 終幕

 その週末、屋敷とは谷を挟んだ反対側にある駐車場まで高萩は訪れていた。

 あの時の医師が運転手だったのが、西園寺家からの監視か探りを入れにきたのだろうと予想がついたが、大人しく揺られてきたせいか向こうもわざわざ口に出してまで何か聞いてくることはなかった。


 あの時のメイドと医師、なんなら友の話まで全てが嘘かもしれない。そうであっても、高萩は全ての真実を暴きたいと思っているわけではなかったし、1番の被害を被った千歳がそうだと言うのなら騙されるのもやぶさかではない。友は生き残り、黒幕は死に、怪物は封印された。もう自分が関わることは二度とないだろう。

 事件は丸く収まった。

 たとえそれが人の手で書いた歪なものであったとしても。

 どのような形でもこれに手を加えれば必ず悪いことになる、そう予想がついたから、高萩は折れることにしたのだ。

 友の疑問も医師の感謝と疑念もメイドの困惑も精々それぞれが折り合いをつけることだろう。


 礼を言って車を降り、自分がメイドと落とした橋の向こうに目を向ける。ここからでは木々に隠れて玄関と屋根が辛うじて見える程度だが。

 あの後上空写真を見て、あの屋敷は川で出来た谷に囲まれた場所だったことを知った。

 あの屋敷自体も防火扉で区切られ、なんらかの薬剤が撒かれる仕組み、橋を落とすと完全に陸の孤島になること。全てが有事の際にあの怪物を閉じ込めるために出来ていたのだなと思う。可愛らしいのは見た目だけで中身はただの要塞だ。

 あの中では感じることのできない、谷底から噴き上がる風が頬を撫で、太陽光がカンカンと降り注いでいる。ぼんやり眺めるその先、木々の作る木陰の一箇所が暗すぎるような、黒すぎるような気がしてもっとよく見ようとしたところで後ろから声をかけられた。


「高萩一様。帰りましょう。」


 そちらをふりかえり、医師の顔を見返す。西園寺という家も友も臭いものに蓋をする方針だ。気がついても何もできることはない。高萩も肩をすくめて乗りなれたバンに乗り込む。ミラーを調整しながら先程気になった場所はもう見失ってしまって見つけることが出来なかった。

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