魔法魔術講座 3
「魔法適性には、各四大精霊に応じて上から順にSSS、SS、S、A、B、C、D、Eっていうランクがある。ランクが上がるほど、その属性の精霊魔法を使う際の魔力消費が少なくなり、使える魔法の種類も豊富になる。つっても、明確な判断基準はなくて、魔法師たちが雰囲気で判断しているらしい。一応、Eランクが初級魔法使用者、Dランクが中級魔法使用者、CランクとBランクが上級魔法使用者ってな感じの目安はあるみたいだが、そもそもこの魔法の等級自体も適当に決まってるらしくてな。同じ等級の魔法の中でも難易度にかなりのバラつきがあって、あんまアテにならねェんだよ。まあ、自分の力を知るためのおおよその目安、程度に思っときゃあ良い」
「……なんだか、ものすごく適当なんですね……」
魔法と言えばこの大陸の主たる力なのだから、もっとしっかりと決まっているものだと思っていたのだが。
少年の呟きに、グレイはわざとらしいため息をついてみせた。
「やっぱお前もそう思うよな? この大陸の人間は、魔法を特別なものだと思ってねェんだよ。だから、いちいちそれに対して細かいことを決めようなんて思わなかったんだろうな。中級くらいまでの魔法だったらほとんど誰もが使えるものだし、上級以上の魔法なんて戦にでもならない限りそうそう使う機会もねぇしで、魔法というものに対するそもそもの理解が全然追いついてねぇんだ。理解してなくてもできちまうから」
精霊にお願いすればなんとなくなんとかなってしまうもの、程度にしか捉えていないのだろう、というグレイの言葉に、少年はぱちぱちと瞬きをした。
なるほど。自分やグレイのような人間からすれば非日常に見える魔法だが、それが当たり前なこの地では、わざわざそれに対する知見を深めようなどという考えは浮かばなかったのだろう。
「こんな感じで腹が立つほど適当な魔法だが、一応、ある程度しっかりとした定義に基づいた区分もある。魔法の等級は、下から初級、中級、上級、超級とあって、ここまでは本当に適当だ。でもまあ、超級魔法が使えりゃ、各国の国王に及ばずとも遠からずっつった実力者って認識で良いだろう。だが、その上に存在する、極限等級ってのには明確な基準がある」
その等級は少年も聞いたことがあった。確か、赤の王が帝国の竜を退けた際に使っていた魔法が極限魔法と呼ばれていた筈だ。
少年の表情から察したのか、グレイが頷いて見せた。
「うちの王様がこの前使ったのが、この極限等級の火霊魔法だ。極限等級の魔法は、火、水、風、地の属性にひとつずつしかない。そして、この魔法を使えるのは、それぞれ、赤、青、緑、橙の国の王のみだ」
「始まりの四大国の王様だけ、ということですか」
少年の言葉に、グレイが頷く。
「単属性の極限魔法を発動するには、それぞれの属性の強力な加護が不可欠だ。赤の国なら火霊、青の国なら水霊、といった風に、この四国の国民は皆、対応する精霊の加護が強く表れているからな。強力な加護を得られる素質があるのが、始まりの四大国の人間だけなんだよ。それに加え、基本的に王家の血筋の人間は魔法適性が高く、生まれつき超級魔法までは難なくこなせる人間が多い。となると、極限魔法を使える可能性のある人間は四国の王族にまで絞られる。とまあ、これだけなら何も国王しか使えないって話にはならねェんだが、もう一つ重要なのが、極限魔法を発動する際に消費する魔力量だ」
言いながら、グレイは黒板に、そこそこの長さの柱と、それより二倍以上長い柱を並べて描いた。
「例えば、王族の中で最も魔力量が多い奴が持ってる魔力量がこの短い方くらいだとしたとき、極限魔法を発動するのに必要な魔力量が長い方だとしよう。この状態で極限魔法を発動しようとした場合、何が起こるか判るか?」
問われ、少年は黙って首を横に振った。魔法を知らない少年が、そんな質問に答えられる訳はない。
「難しい話じゃない。使用量が貯蔵量を越えたとき、魔法は発動せず、魔法師の持っていた魔力は全て失われ、死ぬ。……つまり、そういうことだ。極限魔法を発動するために必要な魔力ってのは桁違いに多くて、どんなに適性の高い人間でも普通は使えねェんだよ。……ただ、国王として即位すると、そこに王獣の加護が加わる。国王になるってのは、王獣と契約を結ぶようなもんだからな」
言って、グレイは短い柱の上に長い柱を描き加えた。
「王獣の加護は、国王の貯蔵魔力を劇的に底上げしてくれる。何がどうなって底上げされてんだかは俺も知らねェけど、そうやって初めて、極限魔法を使用できるだけの条件が揃うんだ」
その説明を受け、少年はようやく、赤の王がものすごい魔法を使ったのだということを知った。国王しか使えない魔法というのは、そういうことだったのだ。
「で、この極限魔法を使えると、その属性の精霊魔法のランクがSSSってことになる。という訳で、最高ランクの魔法師ってのは実質始まりの四大国の国王しかいない」
「……それじゃあ、この前のとき、あの人は切り札を使ったんですね……」
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