第19話

 ここに誘導したのは神津さんからのメールだった。『神津さんが内通者』。信じたくはなかったが、客観的に見てそうとしか考えられなかった。 しかし有賀と百瀬は意に反して不思議そうな表情を浮かべていた。

「……神津って誰だ?」

「え?だったらなんで私たちが来ることが分かってたんです?」

「なんでって、あの人に『御子柴たちが来るかもしれない』って言われただけだぜ」

「あの人……?」

 神津さんではない私たちと接触していた人。かつ神津さんのメールを受けて私たちがここに来ることを知っている人物。……そんな人、存在するはずがない。誰かにつけられていたのだろうか?

「懐かしいわね、神津って名字」

 その時、部屋の扉を開けて誰かが入って来た。白い長袖のワンピース。私たちはこの人を知っている。

「――、貴方でしたか」

 彼女が元から有賀と繋がっていたと考えると、百瀬と有賀の仲介人になっていてもおかしくはない。

「4日ぶりね。御子柴くんと西沢さん」

「なんで先生が……いや、そもそも……」

 なぜ先生が私たちの行動を知っているのだろう。なぜ先生はこの二人に協力しているのだろう。疑問は山ほどある。

「聞きたいことは色々あるわよね。それを教えてあげるために、君たちを招待したのよ。質問どうぞ」

「私たちの侵入を把握していた手段は?」

「少し長くなるけど話してあげる。まず最初に。私の名前は梓葉あずは。そしてもう一つ。『珊瑚紅葉と傀儡の簡易呪法』をご存じかしら?」

 御子柴からこの前聞いた呪法だ。親しい人限定で対象を洗脳し操作できる呪い。それが一体——。

「……今、自分の名前を梓葉、と?」

「ええ」

 『珊瑚紅葉と傀儡の簡易呪法』。犯人の殺害の手段を考えていた時に御子柴から聞いた呪いだ。親しい人物限定で洗脳し操作できる呪い。

 そして浜先生の梓葉という名前。中々聞かない名前だが、一度だけ聞いたことがある。

――『妻を――梓葉を想うとやめられねえんだ』。

「不躾な質問をします、浜先生。先生は元々結婚していたがとある出来事をきっかけに離婚しましたね?」

「合ってるわ」

「元々の姓は神津。合ってますか?」

「ふふっ、大正解」

 浜先生は満面の笑みで私に拍手をした。

 浜先生は神津さんの元妻だ。だから『珊瑚紅葉と傀儡の簡易呪法』で神津さんを操作し、私たちを誘導するメールを送ることができた。神津さんは協力者じゃなく、操られていただけだったんだ。

「正解したからはい、これ。あげるわ」

 浜先生は私に近づき、一枚の紙を渡した。『彼岸花と輪廻の簡易呪法』と書かれている。


手順1:対象の身体の一部と彼岸花を250g用意する。

手順2:それらを燃やし、『呪われてあれ』と唱える。

(注)蘇った対象は生前の記憶を持たない。ただし、最初の蘇生以降の記憶は引き継ぐ。この呪いは不完全なため対象の活動可能時間は8時間のみ。時間切れになると身体の全てが彼岸花に戻る。


 これこそが現場に残った彼岸花の正体。心咲が姿を消す手段。記憶を持たない理由。

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