第15話

「聞きたいことは山ほどある。君は妹が虐待されるのを防ぐために、両親を呪い殺したそうだね。そんなに妹思いならなぜ人を殺す?暮之葉神社での殺人後に置いたあの彼岸花の意味は?どうやって警察に捕まることもなく現場から姿を消せるんだい?保科心咲と協力関係である理由は?」

 御子柴の『保科心咲』という言葉に彼女は反応した。こちらに顔を上げこちらを向く。

「……嘘」

「これは、一体……」

 鮮血が飛び散っているその白い顔。懐中電灯に照らされたその顔は酷く怯えていて、涙をこぼしていた。

「私を、知ってるんですか?」

 それは見慣れた顔だった。私が何度も夢に見た顔だった。私が助けたい親友の顔だった。楓ちゃんのあの訴えは、正しかった。

「助けて下さい!私を、私を解放してください……!」

 連続殺人鬼のは、私に救いを求めていた。

「何言ってるの、心咲……?」

 様子がおかしい。私たちのことを忘れているし、助けを求めている。解放とはなんだろうか。もしかして、御子柴が言ってたあの洗脳ができる簡易呪法によって殺人を犯しているというのだろうか。

 奥からいくつもの懐中電灯の光がこっちに向かってきているのが分かる。心咲が捕まる。殺人犯を捕まえるというのに、私は酷く揺れ動いてしまっていた。

 彼女は警察の姿を見た後、何を思ったか警察の方へ走り出した。明らかに変な走り方だ。足がうまく動いていないような、それこそ、何かに抗っているようにも見える走り方だった。

「待って!」

 私の言葉に耳を貸さず、彼女は走り続けた。私は懐中電灯を片手に心咲を無我夢中で追いかけた。懐中電灯の光を受ける彼女はフラフラと走り、左側に倒れこみ――。

 姿を消した。

「……え?」

 警察も異常に気が付いたのか足を止めた。数個の光がサーチライトのようにトンネルの色々な場所を照らす。だがその光の中には誰もいない。あの時と同じだ。犯人は逃げられないはずなのに、忽然こつぜんと姿を消す。

 私は心咲が倒れこんだ場所を照らした。

「あ……」

 地面には黒いレインコートが脱ぎ捨てられていた。凶器の包丁も袖の辺りに置かれている。そして何より私の目を引いたのは、何十本ものだった。

 犯人は完璧に姿を消した。レインコートと凶器と大量の彼岸花と――多くの謎を残して。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る