第12話
「神津さんはそんなことするような人じゃない気がする。彼の事件に関する熱意は本物だよ、多分」
あまり確信はないけど、と念のため付け足してからいつものカフェラテを啜る。
「それは1年近く付き合ってきた僕もよく分かってるさ。でも、念のためにね。それじゃあ、次の違和感は……これだ。賽銭箱内の彼岸花」
「正直これもよく分からないよ。自分が殺したという証を置くような性格でもないだろうし……そういえば、彼岸花が置かれてたことって以前にもあったの?」
「僕も気になって調べたけど、そんな前例はなかった。今回が異例だね」
「……これもいったん置いておこうか」
考えようにもあまりに手元の情報が少ない。いや、少ないというより、その情報の一つ一つにつながりが見えないのだ。
「次は仮にあのレインコートの人が心咲だと仮定した場合、なぜあんな場所にいたのか、だね」
「百瀬が潜んでいる場所なんかにいたら、普通は殺されてしまいそうなものだけどね。自分の家に戻らないのも変だし。逃げた時はあの廃診療所の更に奥へ行ってたし」
「百瀬と協力関係なんだろうか?ただ心咲と組むメリットが分からないね」
「……御子柴。これさ」
私が資料から目を離し御子柴の方を見ると、ちょうど彼も何かを言おうとしているところだった。恐らく私と同じことを考えているのだろう。
「直接見て確かめるしかないね」
「そうだよね、やっぱり……あ」
そうだ。私たちが見に行く以前に、今警察が突入しているではないか。その結果を待てばいいだけだ。わざわざこんな考察をしなくていい。あの捜索で全て解決するんだ。恐らく心咲も保護されるはず。
*
携帯の着信音。御子柴の携帯だ。画面には神津さんと表示されている。
途端に鼓動が早まり、緊張でそわそわとし始めた。カフェラテを飲んで心を必死に落ち着かせようとする。
「御子柴です。……お疲れ様です、神津さん。はい。はい。……そうですか、分かりました。はい、ではまた後ほど」
彼は電話を切ってから、一つ大きく深呼吸した。
「どう、だった……?」
彼のその一言は、鉛のように重くのしかかった。
「駄目だったらしい。もぬけの殻だったそうだ。心咲も見当たらなかった」
私を疲労感が包み込んだ。唯一の手掛かりに繋がりそうな廃診療所という道が、完全に途絶えてしまった。
「そして、手術室——有賀さんが元々実験室として使っていた場所には、大量の彼岸花が山積みに置かれていたらしい」
つまり、少なくとも、あの廃診療所に暮之葉神社で老人の殺害を行った犯人はいた。神津さんの情報は嘘ではなく本物だった。神津さんへの疑いの目は晴れたと考えて良いだろう。彼は白だ。
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