10月14日

第11話

 私たちは再びいつもの喫茶店に集まった。そろそろ店員さんに顔を覚えてもらえるだろう。

「心咲が生きていると仮定してから、もう一度改めて今回の謎を振り返ってみよう」

 テーブル一杯に広げられた資料。文字の量に目がおかしくなりそうだ。

「まず初めに議論すべきは、一連の殺人は百瀬千枝ではなく保科心咲であるという可能性だ」

「それは……」

 私が最も考えたくなかったことだ。確かに彼女が殺している可能性もなくはない。

「でも心咲は百瀬以上に動機がないよ。加えて確実に殺したという証拠は百瀬にしかない。ここは殺人犯は百瀬という線で考えるべきだよ」

 私がそう信じたいからこのような見解を出したわけではなく、ただ単に客観的に考察した結果だ。……恐らく。

「……それもそうだね」

「仮に心咲が殺していたとしても、証拠がない以上現行犯でない限り逮捕さえできない。警察も百瀬千枝が犯人だとして動いてるしね」

「となると……」

「張り込みしかない」

 それも、前以上に確実に確保できるような包囲網を敷く必要がある。二度と私たちの目の前で人は殺させない。

「次に現場から忽然と姿を消すという点だけど……」

 正直、全く分からない。暮之葉神社で私たちもその姿を消すというのを体験したが、本当に跡形もなく消えているのだ。

「呪い絡みだとは思うんだけど……」

「もちろん呪いに透明化や瞬間移動がある訳がない。それは呪いではなく便利な魔法だからね。……これは僕の仮説だが、そもそも犯人は一度も現場に来てないのではないか、と考えている」

「と言うと?」

「これを見てほしい」

彼は資料の束の中から、一枚の茶色の便箋を取り出した。見出しの部分には『珊瑚紅葉さんごもみじ傀儡かいらいの簡易呪法』と書かれていた。下にはこの簡易呪法の手順が書かれている。

「有賀さんが持っていた簡易呪法を書き写したものだ」

「簡易呪法って……心咲も使ってたやつ?」

「そう。簡易呪法とは、代償を払う代わりに対象を呪う方法のこと。そしてこれは、いわば洗脳だよ。対象を呪い思いのままに操る。だがこの仮説はあまりにも弱いんだ」

「……条件があったり?」

「その通り。この呪いの対象に選べるのは親しい人物のみ。そうじゃないときちんと操作ができないんだ。犯人は今までに200人近く手にかけている。その全員と親しいというのは現実味がない」

「となると、やっぱり殺人犯は直接殺しに行って姿を消した……ってことになるか」

 結局行方を眩ませられる仕組みは何も分からないままだ。

「あとは、あまり考えたくないけど……警察に証拠隠滅を図っているやからがいるか、だね。警察の内通者であれば、犯人を逃がすことができる。それも捜査に直接関わっているような人間だ。それこそ、神津さんのような」

 そうか。その線も考えなくてはいけないのか。でも彼のあの目は、本当に百瀬千枝を許そうとしない目だった。復讐と怒りの目だった。主観的な感想になるが、彼が殺人犯の協力者とは考えにくい。

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