第6話

「御子柴。百瀬千枝は自分を呪った両親への復讐として、両親を呪ったんだよね?」

「そう、そのはずだ。だが楓ちゃんの話を聞いて変わった。そして妹を思って行動するのなら、普通は連続殺人などに手を出さない」

「だからお姉ちゃんは殺してないんです!あんなに優しくて元気だったお姉ちゃんが……人殺しなんて……」

 彼女は再び泣きだしそうになって、とっさに袖で目元を拭った。

 西沢が犯人であると断定された理由は防犯カメラだった。最新の技術は立派なもので、わずかに見えた顔から個人を特定することができる。これが間違っていたとは考えにくい。かと言って彼女がここまでの殺人を犯す動機もない。

「今日はありがとう。もし聞きたいことがあればまたメールすればいいかな?」

「あ、えっと……」

 彼女はきまりが悪そうに私たちから視線を外した。

「私、もうメール見れないと思います。その、丸山まるやまさんのパソコンから勝手にメール送っちゃったので……」

 恐らく丸山さんとは孤児院の職員の名前だろう。小学生なりに覚悟をして楓ちゃんは私たちにメールを送ったのだ。彼女の必死な様相にも納得がいく。

「学校の帰りとかなら会えると思います。杉尾崎西小学校です」

「分かった。用があったら校門の前に立っておくよ」

 御子柴一人だと通報されそうだ。その時は私も一緒に行こう。

 それから私たちは楓ちゃんと別れ、もう1人の情報提供者に会うことにした。

 集合場所はとあるファミレス。夕日が程よく傾き始める時間で、窓から差し込む西日が心地よい。

 ファミレスのドアを開いて現れたのは、綺麗な白の長袖ワンピースを来た女性だった。相も変わらずお奇麗な人だ。

「お久しぶりです、はま先生」

 浜先生は保健室の先生だ。百瀬千枝が高校生の頃、保健室登校をしていた時に関わりがあったらしい。

「久しぶりね、御子柴くん。それと……」

「西沢叶芽です。一応杉尾崎高校の生徒でした」

「ああ、貴方も百瀬さんの同級生さんね」

「はい。今日は百瀬について色々教えてくれるとのことで」

 彼女は近くの店員さんにアイスティーを注文してから、さっきまでの柔和な表情を消し私たちを見た。その何を考えているか分からない瞳に、軽く鳥肌が立つ。

「……貴方たち、呪いなんてものを研究しているみたいね」

「はい。パラダイムだらけの現代社会に警鐘を鳴らすためです」

「それとシンプルな興味。そうでしょ?」

「……はい」

 彼女は深くため息をつき、下を向いた。落胆とも諦観ていかんともとれる表情だ。

「これ、前にも言ったわね。それでも貴方は止まらなかったけれど。……この一連の事件を追うのはやめときなさい」

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