10月12日
第4話
「西沢。昨日のあの事件から面白いことが分かったよ」
彼はいつものカフェで、テーブルの端から端まで資料らしき紙を並べていた。
「神津さんから資料を貰ったんだ」
紙を手に取り片っ端から目を通してみる。
まず老人の様子。創傷から凶器は刃渡り20㎝の包丁で、賽銭箱の前に置いてあったという。そして老人の身元。彼はあの暮之葉神社付近に住む独居老人で、1か月前に奥さんを癌で失っている。その影響からか、中々家から出ることもなかったらしい。あの神社は奥さんと行った夏祭りの会場で、それが奥さんと一緒にいられた最後の時間だったそうだ。
「警察はこれを踏まえて、自殺という見方に方針を転換したそうだ」
「そう……」
大切な人を想っての自殺。どことなく心咲に重ねてしまい、あの時止めればよかったという後悔が胸に押し寄せた。
「だが僕は、あれは自殺ではないと考えている。自殺にしては不審な行動が多い」
「でも、警察も散々調べたうえで自殺と判断したんでしょ?」
「それはあくまで科学的な見地からだよ。西沢。僕らは探偵だが、それ以上に何の専門かな?」
「……呪い」
彼は笑顔で頷いた。そして多くの資料の中から一枚の紙を抜き出し、私の前に持ってきた。
「僕たちは解呪師。そこに在るものを見るのではなく、違和感を見る」
彼が突き出した紙には、
「これ、彼岸花?」
「そう。あの時賽銭箱は開いており、その中に何十本もの彼岸花が詰め込まれていたらしい」
呪いと植物は、なぜかは分からないが深い関係にある。呪われた人は体から花が咲いたり、腕や足を失って代わりに蔦が生えてきたり。
彼の言いたいことは、恐らくこの彼岸花も呪いに関係しているということだろう。
「僕は調査を続ける。君は助手だ。君にもぜひ、僕を手伝ってほしい」
「……うん。分かった」
*
私たちに足りないのは情報だ。百瀬に関する情報を集めるために、まず依頼者と会うことにした。
しかし集合場所の公園にやって来たのは、1人の小学生くらいの少女だった。
「文面的に幼いとは思っていたけど、まさか小学生とはね」
その少女はどこか怯えた様子で、しかし何か決意をしたような目をしていた。肩からかけているカメラの紐を握り、私たちの方に駆け寄って来た。
「あの、御子柴さん、ですか?」
「ああ。依頼者の
「そうです。あの……助けてください!」
彼女の突然の申し出に、私と御子柴は呆気に取られた。百瀬に命を狙われていたりするのだろうか。
「あたし、お母さんもお父さんも死んじゃって、お姉ちゃんも行方不明で孤児院にいるんですけど………いじめられてるんです」
確かによく見ると、手の甲や首に僅かにアザが見える。
「なるほど。僕たち探偵にそのいじめを誰かに伝えてほしいのかな?」
「ち、違います!お姉ちゃんを連れ戻してくれたら、私は孤児院を出て行けるんです」
彼女は涙目でそう訴えた。お姉ちゃんを連れ戻す。今回の彼女からの依頼は百瀬千枝を探すこと──まさか。いや、間違いない。
「……名前は?」
「──百瀬です。百瀬楓です」
この少女は百瀬千枝の妹だ。
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