第2話
「追ってみよう」
クロアゲハは右往左往によろけながら街を飛んで行った。コンビニを横切り、路地を抜け、山に入り、とある神社で留まった。
「……止まった。ここが今夜の百瀬の殺害現場かもしれない。西沢。今夜一緒に張り込みをしてくれないかい?」
「え、殺人鬼と会うの……?」
ここにいるのは非力な女と長身細身の男だけ。しかも相手は刃物を持ってる。襲われたらまず死ぬだろう。
「そもそも確実にここに来ると決まったわけじゃないし。それに君は僕の助手だろう?」
「まあ、そうだけどさ……分かりました」
仕方ない。私は助手なのだから。そういえば、心咲も高校生の時に御子柴の助手をやってるとか言っていたような。彼女もこんな気持ちだったのだろうか。
「それじゃあ、少し早めに17時半にここで集合しよう」
*
寒い。この時期になるともう夕方は厚着しなくてはいけない。コートを着てきて正解だった。
「やあ」
境内に入ったところで不意に声をかけられた。周りを見渡すが、山中の神社では暗くて何も分からない。
「僕だよ」
声の主は御子柴だった。なんで神楽殿の裏にいるのか尋ねたら、「そっちの方が探偵らしいだろう」と言っていた。つくづく彼の考えることはよく分からない。私と御子柴はかれこれ2年以上の仲なのに。
「探偵らしくあんパンと牛乳も持って来たんだ。……まあ、冗談はこのくらいにして」
彼は視線を神社の入り口へ移した。そこには階段と、のっぺりとした暗闇が広がっている。石の行灯もあったはずだが、この距離からはもう全く見えない。霊的なまでに暗い神社だ。
「まだ少し時間はあるが警戒しておくべきだね。それと、あそこを見てほしい」
指差す先には淡い光を放つ外灯があった。その周りを黒い何かがうろうろとしている。
「あれ、クロアゲハ?」
「そう。未だにここに滞在している。もう8時間近く経っているのにまだここにいるなんて、普通ではないよね」
確かにそうだ。私たちが初めて発見した時は色々な場所を飛び回っていた。一か所に滞在するなんてそうそうないはずだ。
「依頼者は自分のクロアゲハかどうか『感じる』と言っていただろう?それと同じように、恐らくあのクロアゲハも何かを『感じる』のだろうね。人が死ぬ気配みたいな、目に見えないものを」
「第六感ってやつね」
「そう」
「……第六感があれば、幽霊とも話せるのかな」
もし話せるのなら――私は彼女と会いたい。話がしたい。そして何より、謝りたい。
「あくまで第六感は予知や直感だし、それは難しいんじゃないかな。霊感と第六感は別の次元にあるような気がする」
「……そう、だよね」
そんな話をしている時だった。境内に続く階段の方から足音がした。
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