10月11日
第1話
「これで9件目の依頼だよ」
彼は電話を切りながら苦々しい表情を浮かべ、再び席に着いた。ため息を一つついてからテーブルの上のカフェオレを
「また
彼は力なく頷いた。よほど疲弊しているのが見て取れる。
百瀬千枝。もうかれこれ1年も世間を怯えさせている連続殺人鬼だ。死傷者は約200人に上る。私たちと元同級生であり、彼——
そんなに深く抱え込まなくてもいいのにと思うが、当の本人はそうもいかないのだろう。今もカフェオレを百瀬千枝の資料の上に
その死傷者の数もあってか、近頃は警察への批判が高まり私たちのような私立探偵に依頼が飛んできがちになっている。
「それで御子柴先生。今日はどの依頼を
「先生呼びはやめてほしいね。僕と
「ふふ、そうだね。それでどうするの?」
彼は携帯を取り出ししばらくスクロールしたあと、依頼のメールを見せてきた。
「……蝶々探し?」
*
私と御子柴は喫茶店を出て、メールの内容を読み込みながら道を歩いていた。
「『飼っていたクロアゲハが行方不明です。最後に見たのは5日で、次の日になったらケージにいませんでした。7日の朝に
「これを見てほしい」
彼は二つの新聞の切り抜きを見せた。一つは8日の百瀬に関する記事。もう一つは9日の百瀬に関する記事だ。
「……なるほどね」
「実に奇妙だろう?だからこの依頼を選んだのだよ」
7日の夜に百瀬は目良木二丁目で老人を殺害。8日の夜に華郷1丁目の華郷橋でOLを殺害。どちらもクロアゲハが目撃された場所で目撃された日の夜に殺人が起こっている。
「でも偶然じゃないの?そもそもクロアゲハなんて区別つかないでしょうに」
「依頼者曰く、分かるんだそうだよ。なんでも『感じる』らしい」
『感じる』。これに頼るのはあまりにも馬鹿らしいが、別に百瀬関連の手がかりもない。物は試しということで調査をしてみよう。私たちは探偵である前に
「クロアゲハねえ……そうそう見つからないよね。長丁場になりそう」
「案外簡単かもしれないよ。ほら、西沢。あそこ」
彼の視線の先には公園があり、そこには黒い蝶が飛んでいた。
「あ……クロアゲハ」
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